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第2章 ここどこだよ! 4

「見てたのか? だったらどうして助けてくれなかったんだよっ」 「助ける? あぁ、そうだな。それは悪かった。まさかモロに食らうとは思わなかった。あれくらい、簡単に避けられるだろうから」  なにぃ!? 「それに私は水晶球でお前の居場所を追っていたから、その場にいたわけじゃない。ようやく追いついたのは、お前がしゃがんでいた場所だったから」  だったら最初から「その場にはいなかった」って言えよっ。八つ当たりして恥ずかしいじゃないかっ。  こいつ、顔はすげぇ綺麗けど、性格悪いんじゃないのか?  ……そうでもないか。俺が早合点して勝手に暴走しているだけか。くぅ。 「雑談をしている時間はない。早く城へ戻りたい。お前の傷も気になるし」 「痛いんだよ、こっちは。手当てはしてほしいけど、俊敏には動けないんだ」 「わかっている。だが、気になるのはここの大気なんだ」 「大気?」 「若干だが、腐敗菌が含まれている。傷口に付着したら侵食して重症化させる。だから早くここを出る必要がある」  な、な――! 「それ! 早く言えよ!」 「そうだな。お前は異世界の住人だからここのことはなにも知らないものな。失礼した」  もう、勘弁してよ。大事なことは最初に言ってくれないと…… 「それから――」  アルフィーは言うなり腕を振り上げ、マントを翻した。俺の目を引いたのは、腰に下げられている二本の鞘。その一本を腰のベルトから外して俺に差し向けた。 「第二層は繋がれた怪物のいる第一層と異なって面倒な幻獣がゴロゴロいる。これは幻獣専門のソードだから素人でも安心して使える」 「え、戦えっての?」 「最低限でいい。あとは私が片づける」  長剣なんてはじめて触った……。ズシリと重くて、なんだか言いようのない不安がこみ上げてくる。  俺、安全安心の日本から、こんな武器で身を守らないといけない世界に来ちまったってことだよな?  本当に夢じゃないのかよ。  アルフィーについて歩き始めると、しばらくしてフンと妙な臭いを感じた。クンクンと鼻を動かして嗅いでみるが、なにも感じない。気のせい? 「どうした?」 「……いや、なんかちょっと腐ったような臭いがしたようなしなかったような気がして」 「それが腐敗菌だ」  げぇ! 「微量だからすぐになにかあるわけじゃないが……」  アルフィーが言いつつ俺の脇腹を見る。血で染まったスーツ、あぁ、もうこれは使い物にならないなぁ。  そんなことを考えている俺を無視し、アルフィーがおもむろにマントを脱いだ。それから俺の体に巻きつける。 「これで少しはマシだろう」  あれ、こいつ、良い人? 「あ、りがとう……」 「お前は大事な存在だ。だから召喚したんだ。とにかく急ごう」  またアルフィーのあとをついて歩き始める。  今までマントに隠れていて、剣を取り出すときにチラリと見えただけの体躯だったが、今は明確にわかる。  身長は俺より少し低いくらいだから一七五センチくらいだろうか。すらりと細く、鍛えているのかシルエットが綺麗だ。ゆったりした白いブラウスに黒の幅広ベルト。腰に長剣と背中に短剣を差している。足のラインがくっきりと出る黒のズボンに膝下まであるブーツ。  軽装なのかそうでないのか、ちょっと微妙な感じを受けるのは、剣士もののゲームのしすぎかな。  襟足長めのふわふわな金髪から覗く耳には複数のピアス。まったくもって漫画の王子さまだ。だけど、長剣二本、短剣一本を持っているのだから、単なるキラキラではなく戦う王子さまってところか。  ぼんやりそんなことを考えていたら、アルフィーがふいに立ち止まった。 「壁には張りつくな。動きが限られる。向かってきたらためらいなく斬れ」  え、え、え、ちょっと待ってくれ――そう言おうとして息をのんだ。どこからともなく、グルルルルと獣の呻き声のようなものが聞こえてきたからだ。  マジで? ホントにバトるの?  そんなの絶対ムリ! 「――――――」  大小さまざまな獣が闇の中から姿を現した。狼のような、ハイエナのような……。だが額から角がある犬っぽい動物なんて俺の記憶にはない。  ジャリっとアルフィーの履いているブーツについている金具が音を発した。と当時にアルフィーが体をわずかに回転させ、腰から剣を引き抜く。  その流れるような動作に俺は視線を奪われ、危険な状態だってことをすっかり忘れて見入ってしまった。  ギャウウ!と一匹が飛び掛かってきた。それをアルフィーがためらわず縦に一刀両断する。真っ二つに裂かれた狼もどきは、空中で霧散した。 「き、えた――!」  本当に砂塵が舞うように消えてしまったのだ。 「こいつらはダンジョンの番人の一つだ。幻獣の種によって芽を出し、成長するが、所詮は幻。裂かれれば消える」 「アルフィー! 後ろ」 「わかっている」  普通に答え、振り返り様一匹の首を落とす。返す刀でもう一匹をまたしても真っ二つに裂いた。  すごい……まるで映画の殺陣シーン。剣先が空を踊っているかのように見える。シュンシュンと風を斬る音が響き、アルフィーの体が回転するほどにブラウスの袖や襟が優雅に靡く。 「シン! 斬れ!」  突然名を叫ばれ、はっと我に返る。目の前に狼もどきが迫っていた。

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