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第3章 犯人は美貌の王子サマ 2

「ウノス先生が〝殿下が召喚なされた〟と言っていた。アルフィーは王子ってこと?」 「なかなか察しがいいな。その通りだ」  アルフィーはベッドの脇に座ると、体を俺の方に向けた。 「簡単に説明するから食いながら聞いてくれ」  うん、と俺が頷く。 「この国はクロノス王国。私は王の子で、第二王子だ。表向きには王位継承権はあるが、妾腹なので名ばかりで行使できない権利だ。それに私自身、王太子を敬っているから、父王亡きあとは王太子の補佐官になりたいと思っている」 「へぇ。自分で継ぎたいと思わないんだ」 「人に命令するより、うしろで策を練っているほうが性に合っている」  いやいやいや、充分上から目線の口調だと思うけど…… 「王太子の名はジュリア・ティオス・オブロス。私のことを信頼してくれている。だからいかに周囲が私の行動を訝しんでも、私は彼を裏切るような真似はしないし、そう誓っている」 「アルフィーの母親はそれでいいと思っているのかよ。いくら妾でも、腹を痛めて産んだ子が男だったら、継がせたと思うんじゃないのか?」 「そういう時期も確かにあった。だが、私にその気がないことを理解してからは言わなくなった。ここまではいいのだが、ここから先が問題で、それが理由でお前を召喚したんだ」  この状況への核心に迫り、思わず生唾を飲み込む。ごくりと喉が鳴った。 「王妃が私を疑って認めようとしない」  一瞬、理解できなかった。どうつながって、王妃とアルフィーの関係から俺が出てくるんだよ。いやいや、焦るな、話はこれからだ。 「そりゃそうだろう……王妃からしたら息子の立場を脅かす相手なんだから」 「そこでお前の役目なのだが、お前が持つその魔導の力を使って、王妃を説得してほしい」  ………………へ。 「聞いているか?」 「いや、聞いてる。でも、聞き損じたようだ。今、なんて言った? お前が持つ、次」 「〝魔導の力〟だ」  ………………へ。 「シン」 「いや、なんか大きな誤解があるようで……」 「誤解?」 「俺はごく普通の、しがないリーマンで、そんなたいそうな力は持っていない。というか、俺の生きている世界では、おそらくそんな力を持っているヤツはいない……と思うんだけど」 「それこそ誤解で、シンは間違いなく魔導士だ。だから私の召喚に反応し、ここにこうしてトリップしてきたんだ。凡人だったら召喚術に反応しない」  ………………。  いやいやいや、ないないないっ。あり得ない! 「ああ、すまない。お前にとって重要な話をすれば手が止まるな。冷めたらマズくなるから先に食ってくれ。この話はあとにする」 「いや、大丈夫。早く聞きたい」 「そうか? では。王妃の名はマリニア・クレス。誰が見ても美しいお方だ。だが、少々思い込みの激しい方で、ご自分が信頼している者以外の言葉に耳を貸そうとしない。まぁ、十三で父王に嫁いで以来、求められてきたのは世継ぎだけだからな。意固地にもなろう」  なるほど。俺の住んでいる世の中でも女性差別が問題になっている。こういう専制君主制度ではまさしくどっぷりなんだろう。しかも十三歳で結婚とか。 「さっきも言ったが、お前に王妃を説得してほしいんだ」 「説得……」 「ああ。私はけっして王太子の敵ではないと」 「ムリだろ。人の話を聞かないんだろ? 今日来たばかりの俺の話なんか聞く耳ないだろうが。そもそも、俺だってあんたのこと、ほとんど知らないんだから――」  キラリと光るような目で見られ、ドキンと心臓が跳ねる。  この男には人を竦ませる目力がある――と咄嗟に思った。『アポロン』でナンバー1ホストのリュウさんや支配人のカジさんを見て、いつもデキる人ってすげぇな、オーラが違うって思っていたけど、アルフィーにはそれとは比べ物にならないほどの〝カリスマ〟を感じる。仕草や口調もそうなんだけど、とにかく目力がすごい。これが王子って立場の、権力を持っている者の人間力なのだろうか。 「いや、その、命の恩人ではあるけど、こんなところに連れてこられなかったらケガもしなかったはずだし……」 「私のことをよく知らなくても、お前にはわかるはずだ。魔導士なんだから」 「だからっ、それ、違うって! 俺は六菱商事で働く一リーマンなの。しかも会社で禁止されている副業やってるんだから不良社員だ。魔導士でもなければ、そんな力も持っていない」 「いや、違う。お前は間違いなく魔導士だ。人の心を見抜く」  ………………へ。 「魔術を使うだけが魔導士ではない。人の心を読み解くこともまた魔導の業だ。お前はその業を使って人の心を読み解き、行くべき道を示している。そうだろう?」  こいつ……夢占いのことを言っているのか? 市販の夢辞典を趣味で読んで覚えただけで、かなり目にインチキなんだけど。 「なにも魔術を使って王妃の心を入れ替えろと言っているわけではない。魔導士なら王妃も不用意に面会を断ったりしない。彼女と定期的に話をし、その心を読み解き、私が敵どころか味方であることを伝えてほしいんだ」 「なんで魔導士だったら断らないんだ?」 「この国では魔導士の地位は高い。それは権力に左右されず常に平等だからだ。誰かに傾倒したことがわかった時点で資格をはく奪されるが、それ以上に同業者から蔑まれる。矜持が彼らを支えているからだ」  だからってよく知りもしない人間を信用できますなんて言えるはずもない。それこそ怪しいだろ。

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