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第6章 ジェラシーはどこでも迷惑 2
「アルフィー、今回だけ許してやってくれ」
「……お前がそれを言うのか? 狙われた当事者が」
「そうだ」
「甘さは致命傷になる」
「でも今回だけは俺のわがままを聞いてくれ。俺にとっては、俺の生きていた世界では、十五歳はまだ子どもなんだ。大人が守るべき存在で、過ちを許し、今後を見守ってやらないといけない対象なんだ」
俺の言葉に泣いていたカイトが目を見開き、それからぎゅっと目を閉じて歯を食いしばった。俺に子ども扱いされたことが悔しいのだろう。いや、情けないのか。
「……我が国でも十五は未成年者だ。わかった。今回は不問にする。カイト、次はないぞ」
「――はい」
「だが、子どもだから今回救われた、そうは思うな。シンの世界の常識に運よく救われた、そう思え。でなければ、今の役職もお前にはふさわしくない」
「心得ております」
「行け」
カイトは深く礼をして立ち去った。去り際に腕で涙をぬぐっている様子が見えて痛々しい。
「まったく甘いな。公表して容赦ない処罰に徹すれば、他《た》をけん制できるというのに」
「見せしめかよ。まったく大人げない。大好きな兄ちゃんを他のヤツに取られそうだって不安になった子どもの嫉妬からくる行動じゃねぇか。お前、王子さまだろ? 笑って許してやるくらいの度量がほしいね」
フンとそっぽを向く。この国じゃアルフィーの言っているほうが正しいのかもしれないが、たかだか子どもの嫉妬に死なせたとあってはこっちの目覚めが悪い。まぁ、刺されて即死ってのもいただけないけど。
……いや、それは困る。背後から首を掻っ切られていたら死んでいたのは確かだ。
うえ、ヤバかったのか、俺。
「嫉妬か。確かにそうだな」
「あっ」
トンと肩を押され、俺はふいを突かれたこともあってそのままのかっこうで椅子の上に落ちた。
「ちょ――」
顔に影が落ち、アルフィーの綺麗な顔が近づいてきて、唇が重なった。
「! んっ」
上から覆いかぶさられているから椅子に追いこまれて身動きができない。引き剥がそうとしてアルフィーの肩を掴むが、こいつ、びくともしない。
「んんん!」
舌が口内に侵入してきて俺の舌に絡みついてくる。艶めかしい動きと生温かさと唾液の濡れた感じが気持ち悪い。なのに下半身に熱が集まってくる。
ちょ、待て! 俺は男には勃たないってっ。
「――ふ、んんっ」
苦しくて必死でもがき、少し唇が離れて息ができたかと思ったが無駄だった。また塞がれる。あまりのことに肩を掴んでいた腕をアルフィーの背中に回してしがみついていた。
「は、あ――」
ようやくアルフィーの顔が離れると、糸が引いているのが見て、それがやたらエロいし、アルフィーを色っぽく見せる。
なんだ、これ――ウソ、マジ?
「シン、なかなか優秀だ。心を読み解くだけではなく、冷静な判断と裁きができるなんて。お前のすべてが欲しくなった」
いや、それ困るって。
「私にお前を与えてもらえないか?」
「それ、解釈の仕方次第ではヤバいだろ!」
「解釈、見解の相違か。面白い」
「ちょ!」
首筋にかぶりつかれて飛び上がりそうになった。
「やめろって」
「私はもう盛って止められないところまで来ているんだが」
「誰か呼べっ。いっぱいいるだろ!」
「目下のところ、シンしか勃たたない」
「だったら一人で抜けよっ!」
ふっと首筋に息がかかった。それがゾワリとあらぬいかがわしい感覚を呼ぶ。
「そうか。なら、またの機会にしよう。さすがに嫌がって暴れる者をベッドに連れ込むことは難しい」
そういう問題かよ。
「だが、私が本気だってことは覚えておいてくれ」
妖しく微笑む秀麗な顔に魅入っていると、アルフィーは俺の前の置かれている椅子に座り、腕と足をそれぞれ組んだ。それから目を閉じる。
え、ここから去るんじゃないの?
「アルフィー」
「なんだ?」
と、目をあけずに返事をする。
「ここで寝るのか?」
「ああ。しばらく第二王子は行方不明だ。よろしく頼む」
「ちょっと」
「疲れた。毎日毎日、たまにはゆっくり羽を伸ばして……」
すうっと細長い息が流れたかと思うと、規則正しい寝息が聞こえてくる。本当にここで寝てしまった。
もしかして、ここへは寝に来たのか?
生き物は生命活動において、安心できる場所で飲食、排せつ、睡眠をとるって聞いたことがある。アルフィーにとって、俺の傍ってのは安心できる場所なのだろうか。
それが本当なら、嬉しいような……ちょい、くすぐったい。
湿気のない爽やかな風が包み込む中、俺はアルフィーの寝顔に時折視線をやりながら、雄大な景色を眺めていた。
*****
ゾクゾクする。その……いかがわしいところが。
なんか大事なところに生々しい感触があるんだけど、夢だよな。
真っ暗な中での転がっているみたいで、なにも見えない。だけど下半身がえらく反応していて、あー、出そう。
夢精ってヤツ?
セックスの夢占いってなんだったっけ……。セックスに関する解釈って多いんだよな。状況もそうだし、相手もそうだし。それぞれで変わってくる。それに、同じ性的なことでも、オーガニズム、性器、マスターベーションなんかでもそれぞれ違う。
今の夢には相手は出てこないから、俺が誰かとセックス中ってわけじゃない。ってことはズバリセックスってのはなしだろう。じゃあ、性器? いや、下半身が滾ってるってことだけで性器を見ているわけでも触っているわけでもない。これも却下だ。
マスターベーション? 自分でヤってるって思っていないだけで、一人で感じているって解釈するならこれかな。だったら、〝孤独の予感〟だ。一人異世界に飛ばされ、この先、孤独を感じることになるのかな?
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