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第6章 ジェラシーはどこでも迷惑 3
「う……」
じゅるって艶めかしい音が聞こえた、気がする。
だけどやっぱりなんだか生々しいんだけど。掴まれている感じもするし、それにこの細くて柔らかいくせに妙に芯があるの、なんだ?
「起きたか」
うん、と言いそうになってはっと我に返った。
「え……」
胸も下も服の前がはだけて全開になっている。足元にはアルフィーがいて……俺のを掴んで……
「おい!」
「起きたらお前も爆睡しているからベッドに運んだんだ。せっかくだからこのままいただこうと思って」
いっ、いただこうって!
「おかしいだろっ、それっ――あっ」
アルフィーは俺の言葉を無視して、俺の股間に顔を埋めた。
「ちょ、待てって! ああっ!」
根元をぎゅっと掴まれて目の前に星が飛んだ。
「やめ――うっ、やめろって」
あらぬ感覚がせり上がってくる。だけど、急所を掴んでしゃぶっているのは、男だってのに、なんでっ。つーか、俺、男にしゃぶられて逃げられないって、なんなんだよっ。
「くううぅ」
こらえようとしても快感に体が震える。
俯き加減の姿勢から伺うアルフィーの顔がやたらめったら色っぽくて綺麗で艶めかしくて、とても男には見えないけど、女にも見えないけど、その、なんというか……
「あ、だめだって!」
根元を握っていた手が強く上下にしごき始めた。それで快感が一気に高まった。さらに先端の鈴口に舌を立てられ、もう我慢の限界っ。
「あっあっあっ! ダメだ、イクっ!」
耐え切れず、リキんで放出する。一気に快感が流れ出て気持ちいい。はぁ、と大きく息を吐き出して、あっと思った。
慌てて足元を見ると、アルフィーが手の甲で口を拭っている。俺が出したモノをこいつは飲み干したみたいだ。
え、ちょっと待てっ、本当に待て。この美貌の王子さまは正真正銘ゲイってことか。
あ、いやいや、俺は別にそういうの嫌悪するタイプじゃないから、アルフィーがそうだって言うならそれでいいし、だからって嫌ったり避けたりしない。今まで通りでいい。けど、セックスについてだけはノーサンキューってだけで……
でも、そう言いながら、扱かれてしゃぶられて、勃って出しちまったってのは、言論不一致……
ええええええーーーーーーーー!
俺っ!
「そんなに驚かなくてもいいだろう?」
驚くよ……この状況に、驚かないノーマルな男はいないだろう……でも……
「私が相手でもちゃんと勃つじゃないか」
そ……それは、今、初めて知りました……
「だったら最後までできる」
にっこり笑うアルフィーは、さっきまでの色っぽさはなく、二十歳の好青年のそれだった。
*****
力いっぱい自信喪失。自己嫌悪。
だけどそんなことは言ってられない。アルフィーのヤツ、カイトの件を隠蔽するのだから、俺がアルフィーの手ほどきで出したことも隠蔽しておいてやると言い放って出て行きやがった。
ひでぇヤツだ。
でもまぁ……それで終わったからほっとしたけど。
とはいえ、もう後の祭りで、俺の不始末が消えることはない。
日が陰ってきた。王族の居住エリアを出てサロンルームに行くと、貴婦人たちがお菓子を広げておしゃべりに夢中になっている。
魔導士さまよってな黄色い声がいくつも上がる中、俺は奥の丸テーブルに向かい、椅子に腰を掛けた。途端に列ができる。ジュリアの午後の勉強が終わって夕食になるまで、ここで夢占いをするのが日課だ。
とはいえ、最近は三か所で夢占いをしている。
午前中は使用人たちが集う階下の広間で、午後はこのサロンルームで。でないと貴族が並んでいる列に身分のない使用人たちが入ることができないからだ。
さらに女性が並んでいるところにはジェントルマンたちは行きにくいらしく、アルフィーに紳士クラブにも顔を出してほしいと内々に依頼があったそうで、毎夜ではないが参加するようにしている。
「本をプレゼントされた?」
「はい。誕生日の贈り物といって。わたくし、普段本は読まないもので。最初は気にならなかったのですが……実は最近、近隣国のサマダ王国の大使が変わりまして、大使の奥さまはがティータイムに参加されるのですが、話題についていけないのです。その方が夢に出てきて、本を……」
「うすうす察しているようですが、本をプレゼントされるっていうのは自分で自分の知識が足りないと考えていることを示しています。あたなはそのご夫人に気後れしているのでしょう。本を読んで知識を得なければ、そう思って焦っているんです」
「……勉強は苦手で」
「するしないは自由です。ですが自分で恥ずかしい、と思っているのなら、少しずつでも進めたらいいんじゃないでしょうか?」
「魔法使いが現れて私を屋敷から追い出そうとするのです。なにか悪いことが起きるのではないかと心配で」
「魔法使いや魔女は危険な恋のサインです」
「え……」
「心当たりがあるなら、火遊びは自重されたほうがいいですよ」
「婚約が破談になる夢を見たのです。両親に反対されて……もう絶望しています」
「縁談の夢は逆夢の可能性が高い」
「逆夢?」
「そう。夢で縁談がまとまれば現実には壊れるし、破談になれば実るとされています。悲観することはいと思います」
「でも、身分違いだと言って反対されて、ひどい手段で壊されたのですよっ」
「それはあなたの不安です」
「……不安」
「そう。でも周囲は見守っているんです。敵はあなた自身で、彼を信じなければいけないと思いますよ」
「お疲れ様でございます」
「ああ、ヒューか。ホント疲れたよ」
「本日はゆっくりお休みくださいませ」
「ありがとう」
いや、マジで疲れた。今日はやけに希望者が多くて(ヒュー曰く、どこも夜会を開いていなくて、みな王宮《ここ》に自然と集まったらしい)、ずっと夢占いをやっていた。これでは捌ききれないということで、途中でサンドイッチ・タイムを取ったくらいだ。いつもはアルフィーやジュリアと食事をするのに。
一番暇なはずの俺がまともな食事をとれなかったって、初めてじゃないのかな。
こうやって信頼を積んでいけば、そのうち王妃も相談にくることだろう。
ゆっくりだが、与えられた仕事をしているうちに自分の居場所や存在価値を得ていってるようで、なんというか、充実感があるよな。六菱商事で働いていた時とは大違いだ。
部屋に戻って湯を浴び、ベッドにもぐりこむ。
全裸で寝ることはまだ無理だったが、半裸で寝ることには慣れた。高級なシーツなので実に肌触りがよくて、とても寝心地がいい。
夢の中に引き込まれるまであっという間もなかった。
第6章 ジェラシーはどこでも迷惑 終
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