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第8章 戦う王子サマはかっこいいかも 2
「すまないが、シンにも来てもらいたい」
え? ホント?
「それはいいけど、足手まといにならないか?」
「多少は戦ってもらうだろうが、お前がいてくれたほうが、ジュリアを見つけた時に楽だからな」
すっと立ち上がったアルフィーに、今度は衛兵が心配そうに声をかけてきた。
「我々もお伴いたします」
「いや、いい。万が一はぐれた場合、あとが面倒だ。それよりも、ジュリアはメイズの扉の開け方を知らない。侍従の中に、言われて従った者がいる。間違いなく故意だ。その者を一刻も早く捕らえよ」
はっ、と勢いのある返事をして衛兵が立ち去るのを見送る俺に、アルフィーが名を呼んだ。
「なにをぼんやりしている。行くぞ」
「あ、うん」
追いかけようとしていきなり振り返ったアルフィーにぶつかりかけた。
「今度はなにっ!?」
「剣は持っているな?」
「剣? もらったものは全部持ってる。この長剣と、この短刀」
「ならばいい。気を引き締めてついてこい」
さっと身を返し、マントを揺らす姿は同性ながら見惚れるかっこよさだが、こっちはそれどころではない。俺のせいでジュリアが行方不明になった。しかもさっき衛兵に命じている内容からしたら、ジュリアの逃亡(もしくは家出?)を故意に助けた者がいるらしい。
ますます落ち込む。アルフィーに協力すると意気込みながら足を引っ張るなんて。
「落ち込むな」
……え?
「そういうこともある。悪意がないならへこむことはない」
「……でも」
「己がよかれと思って起こした言動がマイナスに作用することはごく普通にある。誰にだってミスはあるし、うっかりも勘違いも責められることではない。シンは私を案じるあまりうっかり不要なことを言ってしまっただけだ。それは思いやりであり、むしろ私にはありがたいことだ」
……そりゃ理屈ではそうだけど。でも、やっぱり俺の責任だよ。俺が招いたことだ。しかもその事態収拾に俺自身が役に立たず、守るべき存在に尻を拭ってもらう状態なんだから。
廊下を歩き続け、どこまで行くんだろうと思っていたら、典薬寮までやってきた。そのさらに奥の部屋の扉を開けるとガレ・ウノス先生がいた。
「殿下、どうかなさいましたか?」
「説明はあとだ、急いでいる。メイズに飛ぶから準備を」
「かしこまりました」
すると扉がノックされ、俺と同じような格好をした男が入ってきた。
「殿下、ジュリア殿下は六層もしくは七層にいらっしゃるようです。この時間内ではそこまでが限界でした」
「わかった。ウノス、そういうわけだから、七層に照準を合わせてくれ。シン、行くぞ」
「あ、ああ」
アルフィーが立っている場所に進み、隣に立つ。だけど、ジュリアがここまで来たとは考えられない。王族の宮からメイズに入ったのなら、どうしてこの典薬寮から飛ぶんだ? さっぱりわからない。
俺は妙な顔をしていたのだろうか。アルフィーが覗き込むようにして俺の顔を見ると、ふっと微笑んだ。
「詳しい説明は飛んでからする。今は俺から離れるな」
と、言いつつ、手を出した。え? まさか手をつなぐとか言わないよな?
「吹き飛ばされてはぐれてもいいのか?」
やっぱり手をつなぐって意味かよ。とはいえ、仕方がない。俺一人ではどうにもできないし、ジュリアを捜すためなんだからなんだってやる。
差し出された手に己の手を乗せた。するとアルフィーがぎゅっと握り返してきた。
「殿下、七層への照準が合いました。間もなくエネルギーが満ちます」
「よし」
下からふわっと風が吹いた。いつの間にか俺たちの立つ場所に金色の細い線で円ができている。さらに細かい記号のような金色の文字が放射線状に広がっていて、キラキラと輝いていた。
金色の文字に下に、ルビーのように赤く輝く線が浮き上がってくる。
「赤は七層の象徴だ」
なるほど。いろいろあるんだな、と思う。俺はこの世界のこと、アルフィーのこと、本当になにも知らないだと痛感する。
赤く輝く線が七本現れると、円自体が赤と金の入り混じった輝きに統一され、吹き込んでくる風が強くなった。現に俺とアルフィーのまとうマントが激しく靡いている。
「衝撃が来る。しっかり握っていろよ。絶対に離すな」
「わかってる」
なんとしてもジュリアを見つけ出して連れて帰らないと!
その時、ウワン!と唸るような音が聞こえた。と同時に風が猛烈に強くなって吹き飛ばされるような感覚が襲った。
ぎゅっと必死でアルフィーの手を握り、離れないようにする。あまりの豪風で目を開けているのがつらい。あいている腕で顔を覆って少しでも風から逃れようとした。
どこまで……いつまで飛ばされているのだろう。浮遊感、半端ない。映画でハリケーンに飛ばされるシーンがよくあるけど、脳内イメージではそんな感じだ。
アルフィーに尋ねたいが、とてもそんな余裕はない。声なんて出せる状態じゃない。だが、徐々に風が弱くなってきた。ゆっくりと降下している感じがする。
それから間もなく、風圧がなくなり、落下の速度が増してきた。
ちょ! このまま地面にたたきつけられたらマズいんじゃないか!?
――シン。
え?
――シン、間もなく到着する。
頭の中に直接アルフィーの声が響いて驚いた。腕をどけてアルフィーの顔を見ると、こちらを見てうっすら笑っている。
と、そう思った瞬間思い切り腕を引かれ、俺は無抵抗な状態でアルフィーの胸の中に納まってしまった。
「ん――」
後頭部をガッシリと掴まれて動きを封じられた状態でキスされるが、ふいを突かれたこととこんな状況だったってこと、さらには手を離せないって状況なので抵抗などとてもできなかった。
しかも、こいつ……キス、うまいし……
全身どころか頭の芯まで痺れてしまって、舌が口内に侵入しても追い出すどころか受け入れてしまっている。
「……ふ」
わずかにできた隙間から息を吐くと、唇が離れた。
「いつか全部いただく」
「………………」
そういうセリフ、男に言うのかよっ。
ちくしょー! バカにすんなって殴りつけられない自分がムカつく。この美貌の王子サマのペースにすっかりはまっている。
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