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第9章 まるっとあきらめて王子サマのものになりますよ 3

「だから興奮してしばらく寝られそうにない。しかもシンの太刀筋を見て見込みがあるとも思った」 「え、ホント?」 「ああ。ちゃんと鍛えたらある程度はいくだろう。私はやはり、ペンより剣の方が好きなようだ。が、今は別の剣を使いたいんだが、ダメかな?」  ……別の剣? なんのこと?  首を傾げつつアルフィーの顔を見ると、なんだかニヤニヤ楽しそうに笑っている。  ……え、もしかして、それって。 「ちょ」 「お前はいい相棒になりそうだ」  相棒…… 「私はジュリアの臣下として仕える。お前も同じようにしてもらえたらありがたい。ジュリアの家臣の双璧としてありたい」 「……それは俺に、王妃との件を解決した後も、元の世界に戻らずここにいてほしいってことか?」 「そうだ」  いきなり真顔になって同意され、言葉を失う。 「シンに諸々協力してほしいという意味もあるが、それ以上に、単純に傍にいてほしい、そう思っている」  それ、力いっぱい女を口説く時のセリフじゃないか。けど……こいつの場合、別に俺が男だから恋愛対象で口説いているってわけじゃなく、一人の人間として見ている、惹かれているってことだよな? 「えーっと、その……ここに残ることについては、別にいいと思ってる。確かに身内ともう会えないのはつらいところだけど、まぁそれはなんというか、人間いつなにが起こるかわからないから。でも、アルフィーと、その、恋愛関係になるのは、ちょっと」 「それは今すぐでなくていいし、なれと言われて気持ちがすぐに変わるものでもない。私が時間をかけて、シンの気持ちを向き合わせればいいだけのことだ」  いや、そういう問題でもない気がするけど。ただ、こいつは本当に相手の気持ちを尊重するデキた男なんだと思う。理想的な上司だろう。部下は、上司に信頼されることがもっとも大切なんだ。  その上司がつらい立場にあって苦しんでいる――そう思うと、なんだか傍にいて守ってやらなきゃって気になってくるから不思議だ。 「じゃあ……まぁ、うん、王妃の件が本格解決しても残るよ――お、わっ」  いきなりアルフィーが勢いよく抱きついてきたのでベッドに倒れ込んだ。 「待てよ、これはナシだってっ」  上から覆いかぶされ、綺麗な瞳でじっと見つめられたらなんだか妙に焦る。 「ありがとう、シン」  うっ。 「私には精神的な意味で今まで頼れる存在がいなかった。だから不安や迷いがあっても誰も相談できなかった。シンがいてくれたら心強い。兄のような存在だが、でもやっぱり好きだ」  げげげっ! 「卑怯だっ」 「どこが?」  組み伏せながらそんな告白するなんて、卑怯すぎる。これでは人間関係重視すべきか、色恋沙汰を気をつけるべきかわからなくなるじゃないか。 「俺は男とは恋愛しないんだよ」 「シンは恋愛感情など抱かなくていい。それは私の気持ちだ。押しつけるつもりはない」 「いや、でもさって、おい」  頬を触られ、ぞわっと全身が粟立つ。愛しげに見下ろされてそんなことをされたら、思考がぐちゃぐちゃになってしまう。  俺はまったくそっちの気はなかったし、これからだってそうだ。でも、改めて考えてみたら、今まで付き合った女には攻め込むだけで奉仕してもらったことはない。  え、もしかして、俺、受けのほうがイキやすいタイプ? 「どうかしたか?」 「……いや、別に」 「こうしていると、なんだか本当に落ち着く。シンは無二の親友になりそうだ。生涯通して。だけど、忘れるな。この世界、この国にいる間は、私は第二王子であり権力者だ。お前は私のものだから、他に心を移すことは許さない」  それ、矛盾してないか? まぁいいや。この国の第二王子という位の高い男が俺を必要としてくれていることに違いはない。六菱商事内でも、黒崎の野郎にとっても、俺なんてまったく必要とされていないんだから、この違いは大きすぎる。 「それはわかっているけど、でもソレ以上はダメだから」  ふっと笑ったアルフィーの優しい笑顔にほだされそうだ……なんつうきれいな顔なんだろう。 「キスも?」 「当然だっ」 「そうかな?」  おい!と叫びそうになって封じられた。こいつは結局、自分のしたいことをするんじゃないか。 「……んんっ」  強引に重ねられたキスを、振り払えないでいる。  こいつ、俺なんかよりよほどうまい。けど、なんというか、テクニックより感情が勝っている感じで……頭の中、だんだん霞がかかってくるようで、意識朦朧…… 「は、ぁ……やめ――うっ」  いきなり急所を掴まれて息が詰まった。 「温かい、シン」 「だから、やめろってばっ」 「本気でイヤなら私を殴り飛ばして逃げればいい」  俺のせいにしやがる気かよ。いや、それ以前に、メイズでは、すげぇかっこよくて張り詰めた鋭さがあって強かった人間と同一人物とは思えない、へにょっとした感じがするんだけど。  ……それって、もしかして、甘えているってことか? みなに慕われているこの完璧な王子サマは、俺の前だけこんな風にへにょってなるのか? 「どうかしたか?」  うわ……やばいっ。きゅんときた。 「シン?」  俺、こいつのために、できることをしてやろう。  守ること、労ること、慰めること、励ますこと、それから―― 「ちょっとくらいは我慢するけど、でも基本、プラトニックで」  アルフィーは秀麗な顔を驚かせて目を見開き、しばし俺を見つめてから、ふわっと笑った。それは二十歳の男の、年齢相応の笑顔だった。 「ああ、シン、好きだ」 「……うん」 「いつかきっと、私を好きだと言わせてみせる」  ああ、その女を口説くセリフも、こいつらしくていいのかもしれない。 「………………」  また唇が重なって、互いの呼気が口内で絡まる。  熱くて、艶やかで…… 「はぁ……」  離れた瞬間、大きく息を吐き、また吸い込んだ。 「しっかり感じてくれていて嬉しいよ」  恥ずかしいからやめてくれよ。やっぱり男に急所握られるのは、抵抗あるから。 「愛おしい」 「……やめろってば」  そう言いつつ、振り払わない自分を自覚する。気持ちいいと思っている。このまま快感に突き進みた、そういう衝動に駆られていて、止められない。 「う……ううっ……」 「我慢しなくていい」  耳元に囁かれ、熱い吐息をかけられて、またしても全身がぞわっと粟立った。

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