5 / 7
第5話
***
新垣が寺の風鈴市へ誘ってくれた時、芳樹は飛びつくように返事をした。
子どものような反応をしたのが恥ずかしくて、しばらく新垣の顔をまともに見られなかった。
境内ではガラスや鉄、焼き物に炭、様々な素材や色の風鈴が真っ青な空の下輝いている。
風が吹くたびに、あちらこちらで競うように毛色の違う音を奏でた。
大人っぽい新垣と細身の芳樹は、歳の差ほど離れて見えない。
傍目には友達同士に映っているのだろうか。
ホッとする半面、二人の関係に気づいて欲しくもある。
勝手なものだと、芳樹は思った。
笑顔で話しかけてくる新垣に頷きながら歩いていると、足の親指に感じていた違和感が酷くなってきた。
「大丈夫?」
立ち止った新垣が心配そうに芳樹の顔を覗き込む。
いきなり近づいた顔に芳樹の心臓は音を立てて速くなる。
「ちょっと足の爪切りすぎただけだから」
きっと今日も抱かれるのだろうと考えながら、親指の爪を切っていたら深く切りすぎた。
「ならいいけど……」
視線を芳樹から移したが、新垣はなかなか歩き出さない。
目の前にある風鈴の屋台には、諏訪ガラス風鈴の看板がかかっていた。
「芳樹に似ている」
新垣は男の色香を含んだ笑顔を向けてきた。
白い曇りガラスに淡い桃色の花が浮き出た珍しい風鈴だ。
豆電球でも入れたら、もっと美しいだろう。
もともとの用途は、ランプだったのかもしれない。
新垣が屈んで芳樹の耳元に囁く。
「気持ちよさそうにしている芳樹みたいだ」
ただでさえ炎天下で火照った顔が、さらに熱を帯びる。
新垣は、芳樹が恥ずかしがるのを楽しんでいるふしがある。
からかうように笑った新垣の頭を、芳樹は背伸びして叩いた。
相変わらずへらへらと笑っている新垣が店の人に声をかけた。
「これください!」
ともだちにシェアしよう!