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第2話 罪状と辺境送り。
「リリヤ・サフィアス。貴様は学園でも、数々の悪事を働いた」
うん、そうだね。王太子が何も弁解しない俺を更に責め立ててくる。
「備品の破壊に加え、更には校舎の破壊」
うん、教科書とかノートとかそこら辺ならよく聞く話だ。椅子や机などの備品はまぁ、あるっちゃあるかもしれない。でも、魔法で校舎破壊する悪役は、そうそういない。
そう言えば、柱とか窓だけじゃなく、階段ごと破壊したり、黒板まるまるくり貫いたんだよ、俺。前世の記憶取り戻す前の俺、凄まじすぎる。
「他の生徒を脅し、虐める、暴力を振るう多数!」
いや、まぁ、わざとじゃないんだ。破壊活動したら、脅えられちゃって。俺が虐めたみたいな雰囲気になるんだよ、毎回。もう慣れっこだったから、俺は何も感じない風に無視していた。
あと、暴力に関してもなぁ。
ちょうど虫の居所が悪い時に、近寄ってくんなと突き飛ばしたりしてた。
注意にくる王太子を睨みつけたり、王太子や高位貴族令息にちやほやされているユッシ・トルマリン男爵令息に調子に乗るなと脅したり、普通にいい人で心配してくれたセラフィーネにも辛辣な態度をとっていた。
まぁ、王太子妃教育も昔はあったが、今はなくなっていた。多分、手に負えない俺に対し、公爵位を引き継いだ異母兄・オリヴェルが手を回していたのだろう。
思えば、先代公爵が亡くなってから、王城に通うこともなくなったのだ。
その頃から、きっと王太子の婚約者ーー未来の王太子妃をセラフィーネにする計画は進んでいたのだ。
いや、そこまでよく俺も、王太子の婚約者やってたな。そうでもないか?パーティーやお茶会など、ほとんど行ったことがない。今回のパーティーだって、オリヴェルに絶対に来いと無理矢理連れて来られたにすぎない。王太子のエスコートなどなかったし、オリヴェルが渋々と言う形で、俺をここまで引っ張ってきたのだ。
それでも、そんなことを考えられないほどに俺は荒れていた。
王家は、どうしてここまで俺を王太子の婚約者にとどめたのだろう。それが、分からない。
それともよくある原作の強制力か何かだろうか。
「公爵家での所業も、オリヴェルから聞き及んでいるぞ!」
まぁ、オリヴェルは王太子の側近中の側近である。
この断罪劇だって、オリヴェルの根回しあってのことだろう。当然そのことも詳しく聞いているのだろうな。
「先代公爵から、オリヴェルが爵位を引き継いだ後も、暴れる、我儘放題、散財とやりたい放題だったそうだな」
まぁ、散財はアレだ。修繕費のことである。別に贅沢三昧したわけではないが、我儘ではあったと思う。すぐ癇癪起こして魔力爆発させて暴れたし。
「我が家門からも、お前を追放する!リリヤ!」
王太子に続いて、サフィアス公爵オリヴェルが叫ぶ。オリヴェルはシルバーブロンドの髪に、王太子と同じ王家の色・アメジスト色の瞳を持つ美青年。溜息の出るような美青年。
こんなイケメンに、俺、ものっそい態度だったなぁ。
「貴様は元々平民の出身だ」
まぁ、俺は先代がお手付きした母との間に生まれ、母が亡くなるまで平民として育ってきたのだ。
「今より貴族籍を剥奪し、平民として暮らせ」
それは、妥当だろうなぁ。しかも、当主からの命。オリヴェルのことだから当然国王陛下の許可も得ているだろう。王家としても、問題だらけの俺を王家の人間として受け入れるはずがないのだから。
でも、俺の魔法は?魔力は?
平民として野に放つには、あまりにも危険じゃないか?
「お前を、ロードナイト辺境伯領へ送る」
ろ、ロードナイト辺境伯領!?
隣国との国境を抱えつつ、更には魔物との戦いが激化する可能性もある土地だ。そんな土地へ、平民として派遣される。
いや、割にあっているのかもしれない。
この巨大で、危険な力を、辺境伯領で発揮するのが、俺の罰ってことかな。普通に野に放つには危険すぎる力だ。しかも俺はサフィアス公爵家の魔法も持っている。オリヴェルが欲しくて欲しくてしょうがなかった力だ。
「お前の処遇は、ロードナイト辺境伯預かりとなる」
平民として暮らせと言っておいて、俺は高位貴族に支配下に置かれるってことか。それも有効活用できる方法で。
「とっとと、この場から去るが良い」
王太子が告げる。
「辺境伯領までの馬車くらいは、出してやる」
まぁ、俺を辺境伯領まで護送しなくては意味がないだろうしなぁ。
でも、俺のことを辺境伯領まで連れて行くような御者がいるのか?いつ破壊工作に徹するかも分からん不穏分子だぞ。
前世の記憶を取り戻した今は、逆流するような魔力に身を任せて破壊衝動を爆発させようとか、そんなことは全然思わないけど。
「連れて行け」
王太子が命じると、近衛騎士がこちらに踏み出そうとして俺と目が合うとピタリと止まる。昔は、王城にも通っていたから、その当時から俺を知っているのだろう。
―――彼らも、恐いのだ。
「誰もエスコートすらしないのなら、私と共に行こうか」
え、誰?
見上げれば、隣にスーツの男性が立っていた。
黒髪に血のように赤い瞳。
そして何より特徴的な、ロードナイト辺境伯のあかしとも言える、頭の左右から伸びる黒く歪んだ黒曜石のような輝きの角。
前世で言うところの、魔族とか魔王のようである。
ロードナイト辺境伯家は昔人外の血を入れており身体が強化されているらしく、だからこそ辺境で長年にわたり国境を守ってこられたのだ。
「あんた、誰?」
パーティーなど、ほぼ参加したことのない俺が、知るはずもない。その特徴的な角の件以外は。
「シュルヴェストゥル・ロードナイト。ロードナイト辺境伯だ」
え、辺境伯本人んんんんんっっ!?
いや、その、角を持っているのだから、直系でも無理はない。しかもここはこれから王太子妃になるセラフィーネのお披露目のためのパーティー。
国境の要所を護るロードナイト辺境伯が来ていたとしても、不思議ではない。
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