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第3話 その蜜をしゃぶりたい。
「リリヤ」
「は、はい。ロードナイト辺境伯さま」
俺は、今すごく緊張している。
何故なら辺境伯と馬車の中2人っきりナウ。
前世の記憶を取り戻す前ならば、俺は暴れて暴れて抵抗しただろう。そう言えば、あの断罪も前世の記憶を取り戻さなければ暴れていたかもしれない。他の貴族、それも王太子やセラフィーネに危害が加えられていたかもしれない。なのに、何故オリヴェルは断罪をさせたんだ?
聖女・セラフィーネがいるからだろうか。
いや、セラフィーネがいるからと言って俺の暴れ癖がどうとなるとかない。学園でも、セラフィーネが止めても普通に暴れていたから。
それとも、ロードナイト辺境伯か?
俺を押し付けたロードナイト辺境伯なら、俺の暴れ癖もどうにかできると踏んだのだろうか。魔物と戦ってきた、勇猛な一族だ。
ロードナイト辺境伯自身は華奢に見えるが、その武勲たるや国中が知っていることだ。この細い腕で。もはや超常的な力である。
その上魔力だけでもとんでもない量があるとか。
そんなロードナイト辺境伯なら、俺が暴れてもどうにかできたのかもしれない。
「そのように呼ぶな」
え、ダメだった?それに何故か、ロードナイト辺境伯は俺の隣に座っている。さすがは辺境伯家の馬車。広々としている。広々としているのに、俺にぴったりと寄り添っている。やっぱり、監視のためか?それにしては顔が近―――っい!
目と鼻の先にイケメンが広がっているぅぅ――――っっ!
因みにリリヤは可もなく不可もない。
深い青い髪に、サフィアス公爵家のサファイアブルーの瞳を持つ。ただ、その目元はツリ目でいかにもな悪役系。
それが暴れ回ったらさぞ恐ろしく見えるんだろうなと言う感じである。
「では、何とお呼びすれば」
「シュレヴィがいい」
いや、待て待て待てっ!シュレヴィって、愛称じゃないのかっ!?
「あの、俺はもう平民ですし、辺境伯さまをそのように呼ぶ身分では」
むしろ、辺境伯家の馬車に当主と乗っていることが、まず異常事態!いや、これは俺の監視も兼ねているのかもしれないが。
「そなたは平民ではない」
「え、でもオリヴェルが」
公爵家から除籍させるって。
「うむ、晴れて公爵家との縁が切れたのだ。良いことだな」
え、良いことなのか?まぁ、俺にとってもあそこはホームじゃない。アウェーだ。周りは敵だらけ、脅える視線だらけ、嫉妬してくるオリヴェル。
「これからそなたは辺境伯家に入り、私の夫 となるのだ」
「は?」
思わず、目を見開いて固まった。
ちゅぷっ
「ふむっ!?」
しかもその隙を突いたのか、シュレヴィが唇を重ねてきたのだけど!?
「いや、あの、それはさすがにダメなのでは!?」
「何故?サフィアス公爵と交わした契約では、そなたの全てを、我がロードナイト辺境伯家に一任されると言うものだ」
え、俺の全て!?まぁ、そうまでしないと危険だもんなぁ。しかも俺はサフィアス公爵家独自の魔法が扱える。完全に野放しにはできないけれど、サフィアス公爵家には手に負えない。だからこそ、ロードナイト辺境伯家に全てを任せたってことかな。
「でも、だからって何で俺が、あなたのつ、つ、夫 なんですか」
「嫌、なのか?」
「ぎゃふっ」
そんなキレイな顔でしゅーんとされたら良心が痛むわああぁぁぁっっ!!
「リリヤ」
シュレヴィが俺の腰をずいっと抱き寄せてくる。いや、何でしょっぱなから俺、シュレヴィに接近されてんの!?何で!?そこまでシュレヴィと関わったことなんてない!むしろ、直接対面するなんて初めてだ。
「我が夫 よ、ロードナイト辺境伯家はそなたを歓迎する」
え、えぇ―――。
ま、マジなの?
「その、俺の噂、知ってるでしょう」
「それが何だ?」
「校舎破壊の上に、公爵邸だって何度もっ!頑丈な塔に閉じ込められてもその塔を破壊しましたけど!?」
そこまでに、俺は荒れていた。本日は全く荒れていない。前世の記憶を取り戻したお陰なのか、安定している。
「それくらい、かわいいものだ。私の弟も幼き頃はよく城を破壊した」
いや、どんな弟!?俺みたいな弟だったのかな!?シュレヴィも大変だな。
「だが、そのおかげで修繕するたびに頑丈になった」
「そ、それは良かった、ね?」
「壊れるような校舎や邸、塔の方が問題だ。破壊をとがめるのなら、もっと頑丈にするべきだ。公爵家が情けない」
う~ん、それはまぁ、俺みたいな破壊因子がいつでもいるわけじゃないからだと思うけど。シュレヴィの考え方は、それはそれで独特なんだなぁ。
「しゅ、シュレヴィ?」
「うむ、そうだ。リリヤ」
「あぅ、本当に、婚姻を結ぶつもりなのか?」
「もちろんだ。むしろ、それ以外は認めん。陛下にはちゃんと脅っ、許可をもらってきた」
今一瞬脅したって言おうとしなかったか!?
「オリヴェルや王太子殿下は知ってるのか?」
「いや?陛下には楽しい茶番劇が終わるまで内緒だと伝えている。例え陛下でも、辺境伯家の申し出を無下にはできまい」
まぁ、辺境を護ってくれている勇猛な一族だもんな。それに、俺の厄介払いのためにもシュレヴィの申し出は呑む必要があったのかもしれない。
それに、茶番劇か。
前世のざまぁものとか、婚約破棄ものとかを知っている俺としては、まぁまぁちゃんとした断罪劇だったと思うけど。
オリヴェルがいたのだ。逆にざまぁされないようしっかりと対策を取っていたに違いない。
「では、リリヤ」
「あぅ、何」
また、顔が近いのだけど。
さり。
ん?
すすっ
「ひぁっ!?ちょ、ど、どこ触ってんのっ!?」
何故かシュレヴィの手が、俺の股間に伸びていた。いや、いくら何でも早すぎないか!?今、辺境へ向かう馬車の中なんだけど!まだ、出発すらしていないし!
「リリヤ」
「あの、シュレヴィ?そこ、手、よけてっ」
「嫌だ」
「嫌なのぉっ!?」
そこまでして、何。シュレヴィは性欲たまってんの!?発散できてないの!?だからっていきなりの馬車セックスって。
「リリヤ」
「あ、はい?」
何か、すごく熱のこもった目で見つめられている。何この雰囲気。
「リリヤの、ここの蜜をしゃぶりたい」
「は?」
思わず、口をぽかんと開けた。
ほんと、今日こんなんばっかりっ!
「いや、何言ってんの」
「ダメか?」
「ダメだろうっ!?」
「むぅ」
しゅーん。
ほんと、めっちゃ落ち込むね。そんなにショックだったっ!?
でも、会ったばっかりでいきなりtmpしゃぶりたいとか言われても困るぅっ!!
「……」
しかしその後も、めっちゃ揉んでくる。シュレヴィが名残惜しそうに俺の股間を揉んでくる。
じぃ―――。
「ひゃっ!?こら、社会の窓を降ろすなっ!!」
「社会の窓?」
俺の股間をさりさりしながらきょとんと首を傾げるシュレヴィ。
「いや、こちらの世界風に言えばっ、馬車の窓っ!?」
なのかなー。いや、社交界の窓かもしれないどっちだろう!?
「馬車の窓なら、閉じている。だが、開けてやりたいのか?まぁ、私はそれでもかまわないぞ」
「いや、構うわぁっ!!」
そして、俺がそう叫んだその時だった。
「お邪魔します」
馬車のドアがバンッと開いて、その先に2人の視線が突き刺さる。
俺は今社交界の窓を降ろされ、シュレヴィに股間揉まれている。
「いや゛――――――っっ!!?」
思わず絶叫したのは、言うまでもない。
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