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第6話 辺境伯領と魔王。

―――俺とシュレヴィによる攻防戦。 時にBL界に於いて、受け国と攻め国による攻防戦は最重要シーンに位置づけられる。この攻防戦の勝敗によっては、受け国の運命すら決まってしまう。 攻め国によっては、監禁調教エンドとか、ヤンデレ覚醒ルートとか、時には袂を分かつルートなどにも結び付くぅっ!! ※本作はハピエンです。 負けられない戦いが、始まった。 イキたくない俺と、俺の蜜をしゃぶりたい、シュレヴィによる戦いはっ!戦いの行方はあぁぁぁっっ!! 「う、えぇぇっ」 「大丈夫か、リリヤ」 シュレヴィが背中をさすってくれる。 「よったぁっ」 俺は初めての空飛ぶ馬車酔いを起こしていた。 「う、うぅっ」 これにより、受け国と攻め国による攻防戦は唐突に終わりを告げた。 「どちらかと言うとこの展開は、受けの負けですね」 「そんなぁっ!」 そして無慈悲なまでの、ユッシからの判定。 「リリヤ」 「は、はひっ!?」 すぐ近くで、シュレヴィの声がしたかと思えば、もう鼻先が触れ合うくらいの距離にシュレヴィのイケメンドアップがあった。 「何故、私と一緒にいるのに、私以外のものと会話をするのだろうな」 ひぇっ!? 「見せつけプレイもいいかと思ったが。少し、閉じ込めて2人っきりになろうか?」 えぇっ!?何それ、それちょっと、監禁ルートに移行してないよね!?病んでないよねこのひとぉっ!?それに何だろう。瞳は赤いのに、その瞳孔に底知れない闇が見えるぅ―――っ!これ絶対あかんやつや―――っ!!! 「リリヤさま、後でノートに書いて渡すので、その時に」 「我々は先に降りますね」 え?えぇ? 気が付けば、馬車はもう地上に到着しているようで。えと、辺境伯領についたってこと?そうなの? 何事もなかったかのようにヴァルトとユッシが馬車を降りていく。 あのー。と、いうことは俺はこれからシュレヴィと2人きりってことで。 「リリヤ」 「あ、あの、シュレヴィ」 「ん?」 妖艶に微笑んでいるけれど、目の奥が嗤ってないいぃぃぃっっ!! 俺は、俺は主人公の義務に囚われて、とんでもない闇因子持ち攻めさまを放置してしまったのではないだろうか? 記憶を取り戻す前の俺だったら多分、こういう時に魔力を暴走させて暴れていたんだけど。それができないのは、記憶を取り戻したからなのか。それとも、自分よりも強い存在に本能的に委縮しているのか。 「あの、俺、ベッドの上がいい、から」 「ベッド」 「う、うん」 その、このまま馬車で初体験はちょっとぉ―――っ!!! 「そうか、リリヤも私と過ごす愛の巣を、楽しみにしてくれていたのだな」 あれ、何か、機嫌が直った!?よし、俺ピンチを脱した!? 「う、うん!そうなんだ!」 ここは、このままの攻めさま王国王都ベッドの上まで行ってもらわないと! 「嬉しい。リリヤ。このまま、抱いてしまいたいくらいだ」 いや、それでどうしてそうなるのぉっ!? 「だが、まずは私たちの愛の巣に行こうか」 身体がすっと浮き上がったと思えば、シュレヴィに抱っこされ、シュレヴィは俺を抱っこしたまま器用に馬車を降りていく。 『お帰りなさいませ、シュルヴェストゥルさま』 ずらりと並んだ騎士や使用人たちが、シュレヴィを出迎える。 すごい、壮観。多分サフィアス公爵家でも、オリヴェルの出迎えだったらこんな風なんだろうな。俺の帰宅の場合は、誰も出迎えないと言うか、ビビッてみんな隠れる。まぁ、仕方がないよなぁ。 そして、シュレヴィが城のような屋敷の中に入ればーー 「は、放せ!だいたい、どうしてお前がこんなところにいるんだ!」 「それは、こちらのセリフです」 え、言い争い? 声のした方向を見れば、ヴァルトが黒い角にダークグレーの髪、赤い瞳の青年の腕を掴んでいた。あのひとは、角がある以上はシュレヴィの血縁ってことなのかな? 「シュレヴィ、あの方は?」 「あれは、魔王だな」 「は?」 「だから、魔王だ。我が家門の血筋には、魔族の血が入っている。その源流が、あの魔王だ」 は?魔王、とはその昔魔物たちが担ぎ上げた魔物の王のはずで、勇者と聖女(もちろん♂)に倒されたと言う存在ではなかったか。 そして辺境伯家は人外ーー恐らくヒト型魔物か何かの血を引いているものと伝えられている。でも、その血の原点がまさかの魔王? 「え、倒されたんじゃないの!?」 「倒された。でも、虫の息だったところを、我が辺境伯家の祖先が助け、子孫を残した。それが私たちだな」 「えぇ―――っ!?魔王だよ!?いいの!?国的に反逆とかの罪に問われない!?」 「問題はない。魔王なんて、何体もいるものだ」 そうなのぉっ!? 「それぞれの時代に、魔物たちの中から、強い力を持つ者が魔王となり人間に敵対する。だが、敵対していない魔王もいることはいる。その力を破壊や人間への攻撃に向けないものたちだ。あれも拾われてからはだいぶ大人しくはなったし、たまに暇を持て余してウチの領地で好きに生活している。屋敷に部屋もあるしな。拠点はここだ」 マジかいいいぃっ!?まさかの魔王、辺境伯家で生活してるの!? と言うか、そんなシュレヴィの祖先の魔王が、何故ヴァルトに腕を掴まれ抵抗しているんだ。 「俺はなっ!これでも未亡人なんだよ!魔物だから人じゃないけど!」 「知っています。それなのに、一度抱かせたら何も言わずに消えたのはあなたの方です!」 え、何。抱いたの!? ヴァルトが魔王抱いたの!?そして魔王がまさかの受け!魔王受けだったぁ―――っ!! あぁん美味しすぎるうぅぅ~~~~っ!!いや、魔王攻めも好きだけどっ!魔王受けも……イイ……っ!!! そして魔王受けの攻防は続く……。 「そ、それはっ。俺は」 「あなたも寂しかったんでしょう?長い生の中で、もう一度くらい、いいではないですか。こうして再会できたのも、何かの縁です」 「うぅっ」 何だろう。何このカップル。ちょっともじもじしつつも、魔王は大人しくなりヴァルトと見つめ合っている。 「あっちはあっちで解決したようだ。私たちは夫夫(ふうふ)の寝室へ向かおうか」 「え、あ、うん?」 と言うか、もう夫夫の部屋を用意しているのか? いや、元々俺を嫁に迎えるつもりで迎えに来てくれたなら、それでもおかしくはないのだ。

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