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第7話 辺境伯の弟。
「体調はどうだ」
「うん、馬車から降りたから、何とか」
あと、シュレヴィの腕の中の温もりとか、歩く揺れなども心地よいからましになっているのだろうが、それは内緒にしておこうかな。
ちょっと、照れる。
「お帰りなさいませ、兄上」
ん?兄上って、まさかシュレヴィの弟!?
シュレヴィの前に立ちはだかったのは、黒い魔族角にダークブラウンの髪はくせっけで、瞳はシュレヴィと同じ赤の青年だった。こっちもこっちで、美人だなぁ。ザ・美人兄弟である。
しかし、何か違和感があるような?
はぅあぁぁっ!俺は、気が付いてしまった。シュレヴィの弟の首に、首輪が付いている!!そして首輪はリードに繋がれ、そのリードの先を握るのはっ!!
「明日には俺もこちらの従者の服に着替えておそばに仕えますから、よろしくお願いしますね」
そう告げたのはユッシ。
だけども、その弟くんのリードを握っているのも、ユッシ。あの、ユッシ。何で弟くんのリード、握ってんの!?それどう言う状況!?
辺境伯家について間もないはずなのに!ヴァルト×魔王は偶然の再会のようだったし、あの展開はありとして、お前らはどうしてそうなったぁ―――っっ!!
「リリヤ。紹介する。弟のイェレミアスだ」
あぁ、イェレミアスって言うんだ。学園を卒業したばかりの俺やユッシよりも少し年上と思われる青年だ。因みにシュレヴィは20代前半だ。
「イェレ、私の夫 のリリヤだ」
うん、俺も紹介してもらえて良かった。イェレミアスもこくりと軽く礼をしてくれたし。ちょっと照れているのかな?これから仲良くなれるといいなぁと、思いつつーー
あの、首輪とリードの件には触れないのか?それともあれは元々なのか!?元々首輪とリードスタイルで、ユッシがそのリードを握っただけなのか!?どっちなの、これぇっ!!
「さ、行きましょうか。イェレさま」
「わん」
ちょま―――っ!?挨拶を終えて去って行く間際、イェレミアスが“わん”って言ったんだけど!?
「俺があげた首輪、気に入った?」
「わん」
あの首輪ユッシがあげたのぉっ!?そして相変わらずイェレミアスの答えが“わん”なんだけどぉっ!いいの!?これは兄としていいのかシュレヴィっ!?
「さて、私たちも夫夫の寝室に行くか」
気にも留めてない?もしかしてーー俺とオリヴェルのようにシュレヴィとイェレミアスもそれほど仲が良くないとか?
まぁ、俺は庶子だったしなぁ。貴族にとっては、兄弟間で後継者の座を競い合うこともあるし、正夫 と妾の子だったとしたら、それはそれで関係がギスギスしてしまう。もちろん仲のいい兄弟だっているとは思うけど。そう言う、ものなのだ。この世界の貴族と言うのは。そう言うのも、珍しくはない。
「それにしてもイェレは」
ふと、寝室の扉を開き、その中にすたすたと入って行ったシュレヴィは、ふかふかで大きなベッドの上に俺をそっとおろした。
「シュレヴィ?」
「今朝、見た時と比べてどこか違うところがあった気がする。どこだろうか」
それ明らかに首輪とリードだと思うよっ!?
「しかし、イェレに友だちができたようで良かった」
シュレヴィは弟のことは割と気にかけてくれるタイプだったのかな。でも、あれは友だちなのか?辺境伯家の人間と男爵令息。身分の差があるとは言え、首輪を嵌めた人間と、そのリードを引く人間を、友だち同士と判定したのか!?
いや、それは何か、違う気がするのだけど。てか、なんだったんだろう。さっきのユッシとイェレミアス。どう言う関係なんだ?
今度詳しく聞いてみなくては。
「さて、風呂にでも、入るか」
「お、お風呂っ」
そう言えば公爵家には、湯あみ用のバスタブはあった。日本人の記憶を取り戻した今となっては、もっと湯舟を楽しんでおけば良かったとも思うのだが、あの頃はそんな余裕なかった。むしろバスタブ、破壊してた。
うぐっ、俺は何てもったいないことを!
「では、行こうか」
「あ、う、うん」
今度は、破壊はしないので。せめて前世ぶりの入浴をゆっくり楽しみたいとも思った。
オリヴェルの場合は、湯あみには数人の侍従たちが付き添うのだが、辺境伯家では違うのか?浴場と思われる場所に、俺とシュレヴィだけが入っていく。
「それでは、ごゆっくり」
湯あみの準備をしてくれたと思われる屋敷の侍従たちもにこやかに笑んで見送るだけだ。
「2人っきりでゆっくりと楽しみたいと思った」
「あ、それで、2人」
「心もとないだろうか」
「あ、いや?俺はいつも一人で入ってたから」
こんな危険な俺に侍従なんてつかなかったもんなぁ。
掃除担当のメイド(♂)たちも、俺がいない間にびくびくしながら仕事をしていたに違いない。
「私もだ」
「それは、どうして」
いくら魔物の血を引いているからと言って、辺境伯さまなら、お付きの侍従たちに毎日丁寧に磨かれているものだと思っていた。
「戦場で、侍従を付けて入浴などしないだろう?」
「あ」
そう言えば、そうだ。辺境伯は、自らも率先して前線にたつことがあると言う。それほどまでに辺境伯は魔力も身体能力も高い。
「だから、こういうのは常にひとりでもできるようにしている。もちろん、使用人たちの仕事を取らないように、準備くらいは頼んでいるが」
あぁ、それで浴場の外の侍従がいたわけか。
「後はーー」
「後は?」
「たまに、ムクムクと沸き上がり反りたつこの雄の高ぶりを……慰めたくなる」
何かとんでもない理由だったぁ―――っ!!
そして、めっちゃキリっとしたイケメン顔で言ってくるんですけどぉっ!?最早瞳に一片の曇りなし!!
「リリヤもシたくなったら言うが良い。私がしゃぶる」
「そ、そっか」
俺の場合は、もれなくしゃぶる一択なのかよ。
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