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第11話 ヒロインは止まらない。

「ふんぬああぁぁぁぁ――――っっ!!」 あ。あれ、ドラゴンスープレックスだ。 みなさん、ドラゴンスープレックスと言うのをご存じだろうか。またの名を、フルネルソンスープレックス。テンプレのジャーマンスープレックスとはちょっと違うこの技だがスープレックス系の技である。 ジャーマンスープレックスがとても有名な世の中。その一方でドラゴンスープレックスはあまり見ない。それは多分キャラが咄嗟にキメるにしては難しいからなのかもしれない。通常のファンタジーチート対象外なのかもしれない。特殊なファンタジーチートが必要なのだ。きっと。 だってあの技はジャーマンスープレックスのように後ろからホールドするだろ?でも腕の位置が違う。ジャーマンは腰だが、あれは脇の下から腕を入れて相手の腕、首を極めるのだ。それを何故、何故ヒロインポジのユッシ・トルマリン男爵令息がいかにもなガチムチ騎士にかけてんのぉ―――っっ!? ※良い子はマネしちゃだめだぞっ☆ 「ふんっ、これくらいで伸びるなんて情けない」 ひぃ―――っ!?技をかけ終わったユッシは情け容赦のない顔で、伸びているガチムチ騎士を見降ろしていた。 いや、何でこんなことになってんの。どうしたらヒロインがプロレス技かけてるシチュに陥んのっ!? 「うおらぁっ!」 そしてユッシは更に止まらない。次は自分の倍はある体格のゴリマッチョに高速ラリアットを決めていた。ほら、アレね。腕を首元に叩き込んでなぎ倒すやつ。 ユッシは更に他の騎士たちにもプロレス技をキメていく。 逆エビ、ラリアット、チョップ、異世界限定物凄いジャンピングキック。 「ユッシ!」 そんな時、鋭くも男らしい、よくとおる声が響いた。 「騎士団を相手に、鍛錬をしていると聞いた」 それは、イェレミアスであった。イェレミアスはシュレヴィのように華奢なのだが、騎士団の服を着ているとできる騎士と言う感じで、凄くキラキラしている。 「イェレはあぁ見えても私の左腕として活躍してくれている」 急にシュレヴィの解説が入ったが、現在はシュレヴィとも一緒である。 「じゃぁ右は?」 「副団長だな」 「まぁ、そうだろうな」 さすがにイェレミアスは若いので、副団長ではないらしい。団長は辺境伯であるシュレヴィが務めているそうだが、副団長には経験豊富で腕もいい優秀な人員が抜擢されているらしい。 因みにイェレミアスは昨晩同様、首輪をつけ、リードを靡かせながらやってきた。 「もう、やめるんだ」 そう、イェレミアスは真剣な眼差しで告げた。 いや、もうやめるんだって、何がどうなってあぁなったんだよ。確かユッシは俺の従者になる予定では?何故騎士団の演習場で騎士にプロレス技かけまくってんだよ。 ついでに俺は何故ここに来たかと言うと、ユッシが昨日言っていたノートについてどうなっているのか聞きに来たのである。その途中で、ユッシがここにいると聞いた。 何かあっては困ると、シュレヴィも付いて来てくれた。何かあってはって、大丈夫だよ。むしろ公爵家(じっか)では騎士も脅えて近づかない始末だったんだぞ? それでも譲らないシュレヴィと共に、ここに来たのだ。まぁ、シュレヴィは団長だしなぁ。一緒に来たとしても別に不思議じゃない。この辺境伯家の当主で彼らの主君でもあるのだ。 そうしてこの状況に行きついたわけだが、シュレヴィは見たこともない技だと感心していた。いいのか、そこは感心しててもっ!? 「どうしてもと言うのなら、俺が相手になる」 なんとっ!?イェレミアスがっ!?昨日はあんなにラブラブだったのに。いや、ラブラブだったか?わんわんだったな。うん、わんわんの方であった。 「イェレっ!俺のっ」 ん?ユッシが感動したように叫んだ。 「俺の最推しいいぃぃぃぃ――――っっ!!」 えええぇぇぇぇっっ!?イェレミアスがユッシの最推しぃ―――っっ!?最推しに首輪とリード付けているのも謎だが、更に謎なのがーー 「うぐおぉぁぁっ」 ユッシは連続ジャーマンをキメていた。 これはかの有名なジャーマンスープレックスをキメた後に、更にもう一度ジャーマンスープレックスをキメる技のことを言う。 ヤバい。さすがは異世界でプロレス技キメまくるユッシ。テンプレのジャーマンスープレックスで終わらないっ!連続でいったぁ―――っっ!! 「もういっちょおおおぉぉぉぉっっ!!」 「いや、やめろよさすがにぃっ!!?」 さすがに3回目はやりすぎぃっ!いくら異世界ファンタジーだからって言って3回目はアカンやろがあぁぁぁっっ!! 「ああぁぁぁぁぁぁ―――――っっ!!!」 「がっはぁっ!!」 ユッシは、3回目のジャーマンをキメた。 ※良い子はマネしないでねっ☆ 「いやいやいや、だからやりすぎいいぃィ―――――っっ!!!」 *** 「オールヒール!」 ユッシが無事、異世界ファンタジーの神秘的な得点により3連続ジャーマンをキメた後、聖女でもある彼は、普通に騎士たちを回復させていた。 うん、騎士たちは全員無傷に戻った。 「でも、いいのか。シュレヴィ。この状況はいいのか」 騎士たちユッシにめったくそにやられてんぞっ!? 「騎士たちにとっても、良い鍛錬になったのではないだろうか。あのような技は初めて見たが、あのような技をキメる魔物も、いるかもしれない」 いや、いるかあぁぁいっ!! そして、良い鍛錬になったのかな!?最後はユッシの力でみんなもれなく回復したけれどそれで良かったのかな!? 「ユッシ、お前に技をキメられている間、密着している瞬間が幸福に満ち溢れていた」 「イェレったら」 何かいい雰囲気なユッシとイェレ。よくわかんないよもう、この2人もぉっ!! 「だが、他のものたちもお前と密着していたと考えると、妬ける」 「だから、イェレには3連続ジャーマンかけたじゃん」 最推しの嫉妬対策に3連続ジャーマンキメたんかいっ!! 「それで、何でユッシはプロレス技かけてたんだよ」 「あぁ、辺境伯家では護身術も必要らしくて、教えてくれると言うので習ったんですが……生ぬるくって」 そりゃぁ、ユッシのプロレス技に比べたら。3連続ジャーマンに比べたらな? むしろユッシにその護身術の訓練、必要ないだろう。ヘッドロックキメるヒロインだぞ!?確実にいらないだろっ!! 「リリヤさまたちはどうしてここへ?従者の仕事なら、鍛錬後に入る予定でしたが」 あぁ、プロレス後にね。うん、それは何よりだけど。 「あの、例のノートどうなったかなって」 「あぁ、昨晩イェレに餌付けしつつ、書きましたよ。後程お持ちします」 「そうなんだ。助かるわ」 いや、一瞬ユッシ、餌付けって言わなかった!?一体部屋で何してたのかな!?相手一応、領主の弟!シュレヴィ的には、いいのか? ちらりとシュレヴィを見やれば……。 「リリヤとぴったりと密着する技、か。羨ましい」 どうでもいいところに食いついてたぁ―――っ!!あと、俺はプロレスしませんからねっ!!?プロレス技は知ってるけど、知ってるのとやるのは別ぅっ!!

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