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第12話 聖女と聖獣の騎士。

『聖女と聖獣の騎士』 それが、原作小説の名前らしい。 俺はユッシから、この原作小説について書き綴ってもらったノートを受け取り、読んでいる。 しかしなぁ。今までさ、聖獣とか聖獣の騎士とか、全く以って出てこなかったよ。 いや、俺も一応サフィアス公爵家の生まれ。知っていなければならないことで、一応は頭には入っている。暴れ回っていたと言っても、最低限の学は身に着けている。テストなんて受けられるさがじゃなかったから、成績は散々だったがな。その時点でもう、俺の破滅は決まっていたものなのだが。 それでもまぁ、公爵家が聖獣の血を引いていて、そのために特別な魔法を受け継いでいるってのは聞いたことがあるな。うん。 そしてそれを受け継いでいるのが俺だったようだ。何か母経由で人外の魔力も受け継いじゃったらしいけど。 さて、それで?この小説は一体どう言う内容なのか。 まずこの小説は3部作だ。俺が断罪されるのは1作目。シーズン1である。 今回はこのシーズン1からだな。 そしてその内容は遠い昔に習ったような記憶がうっすらとある解説から始まった。 「何だその文字は。全く読めないぞ」 そのノートを読む横で、シュレヴィは執務をしつつ俺のノートの中を覗いてくる。 「あぁ、これ俺の前世での文字だよ」 ユッシは日本語で書いてくれたらしい。 「何が書いてある」 「ほら、シュレヴィも聞いたことない?聖獣神話」 この国の民なら誰でも知っている伝説である。 「あぁ、それか。我が辺境伯家でも一応は学ぶがーー」 「ん?」 「魔王が荒れるのであまり触れない」 あぁ、まぁそうだね。ここにモノホンの魔王いるもんね。この聖獣神話は、その魔王を倒す話なのだ。 「そ、そっか。でもこれは日本語だから大丈夫だよね」 知ってはいても、うろ覚えなこの世界の神話について、読んでいく。改めて読むと、あやふやなところもかなりはっきりしてきた。 まず、この国の王族と4つの公爵家はそれぞれ別々の聖獣の血を引いているのだ。そしてその子孫は、その聖獣から受け継いだ特別な魔法が使える。それが、俺が持っている特別なサフィアス公爵家の魔法である。 まず王家は光の聖獣、サフィアス公爵家は水の聖獣。セラフィーネさまのエメラルディス公爵家は森の聖獣、ルビーネット公爵家は火の聖獣、クォーツィ公爵家は風の聖獣の血を引いている。 そしてその特別な魔法を受け継いだものたちは、聖女の騎士ーー聖獣の騎士として聖女に誓いを立て、代々聖女を守って来た。 そんな世界で聖女の力を花開かせたヒロインのユッシは、王太子やオリヴェルたちとの出会いを経て、貴族令息やヴァルトたちとの交流を深めていく。更に王太子はユッシの優しさや強さに惚れ、ユッシを守る最初の聖獣の騎士になる。 また、王太子と共にいることで、王太子の側近であるオリヴェルとの交流も始まる。 そして卒業パーティーにてリリヤ(つまり俺)を断罪するのだ。 だが、それを受け入れられないリリヤは邪悪な力を暴走させるが、王太子と力を合わせてリリヤを倒す。そして王太子のお付きとして付いて来ていたオリヴェルが、俺を倒したことで聖獣の騎士としての才能を開花させる。 それを見ていたヴァルトは、その陰で意味深に微笑むのだ。 まぁ、ここに注意書きが書いてあるけど、ヴァルトは魔王のスパイで吸血鬼の混血となっている。 実際にヴァルトは吸血鬼の血を引いており、更には暗殺者として紛れ込んでいた。しかしながら、ヴァルトは魔王のスパイではなく、何故か魔王をぱちゅんぱちゅん抱きまくって魔王を涙目にさせている それにしても原作でもオリヴェルは聖獣の騎士の資格を持っていなかったのか。 因みにユッシのメモによると、原作では俺がサフィアス公爵家の魔法を受け継いでいる描写はなく、邪悪な力を持っていたとされているらしい。 更に、エメラルディス公爵家は登場してもセラフィーネは原作には登場しない。原作の聖女はユッシひとりなのだ。 ついでにこの世界では、1代に聖女が何人か出現することがある。他国にも聖女っているしね。その場合は、より聖女に相応しいものが、全ての聖獣の騎士たちに選ばれ、国を代表する聖女になるのだ。選ばれなかった聖女は、聖獣の騎士の主の補佐として裏方に徹しながらサポートすることになる。 まぁ、ユッシはそのお役目をせずにこっちに来ちゃってるけど。セラフィーネは素晴らしい人柄で、聖女にも相応しい資質を持っている。だが、まだ全ての聖獣の騎士たちに選ばれたわけではない。王太子も聖獣の騎士の資格を持っているから、選ばれているかもしれないけど。 それに、俺がサフィアス公爵家の魔法を持っているなら、聖獣の騎士は俺と言うことになる。しかしそうじゃないのは、母から受け継いだ人外の力のせいだろうか。聖獣の騎士は聖女に対し特別な感情を抱くと言うがーー 別にそう言うの、ないし。そもそも原作通りならその役目はオリヴェルのはずだ。少なくともオリヴェルはセラフィーネのことを慕っていると思う。あくまでも王太子の婚約者だから、横恋慕はしないと思う。あれはそう言う真面目な性格なのだ。 いきなりシュレヴィがちんぽしゃぶる話とかしたら固まって微動だにしなくなる真面目ちゃんなのだ。 しかも俺を倒したらオリヴェルが聖獣の騎士として目覚めるって?俺が倒されていないからなのか、オリヴェルは聖獣の騎士にはなっていないはずだ。 それに俺を倒して聖獣の騎士になったら、まるでその魔法を持つ俺を殺すことで、代わりに奪い去るような破滅系キャラじゃん。 ま、実際はそんなことにはならなかったので良かったが。 原作とは違うところもあるものの、結局俺はシュレヴィについて辺境まで来てしまった。更にはシュレヴィの(つま)だなんて。 ユッシは聖女としての力も使えるようだが……先日プロレス技キメてたしなぁ。 あれ、しかしユッシの最推しイェレミアスはまだ出てこないな。3部作だし、シーズン2から出てくるんだろうか。 「リリヤ」 「ん?どしたのシュレヴィ」 ふと名前を呼ばれて顔をあげれば……。 「客が来るそうだ」 「お客さま?」 俺も一応、出迎えるってことか?シュレヴィの(つま)だし? 「いつ?」 「明日だな。まぁ、スケジュールも空いているし、遠征も予定されていない。会うつもりだ」 「そうなんだ。誰が来るの?」 「トルマリン男爵」 「え?」 トルマリンって、確か……。 「なっ!?」 すぐ近くで、膝から崩れ落ちる音が聞こえてハッとして見やれば、ユッシが崩れ落ちていた。 「ち、父上が、来るっ!?」 「そうだな。お前の父親だったな」 シュレヴィはしれっと告げる。 そうだ。ユッシの本名はユッシ・トルマリン。トルマリン男爵の、次男であった。 「あ゛ぁ゛ぁ゛―――――っっ!!!」 ユッシが頭を抱えて叫んだ。 いや、何で!!?

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