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第13話 トルマリン男爵家の話。
「父上がっ!父上が来るぅ―――っっ!!」
「ゆ、ユッシ」
頭を抱えながら悲壮感剥き出しに叫ぶユッシを、首輪とリード付きのイェレミアスが宥めていた。
「ユッシ……?そんなに来たら不味いの……?」
「トルマリン男爵は、お前にも是非会いたいと言ってきている。私は別に構わないと返事をした」
「いや、何で勝手に返事してんですか……っ!!」
「父親が息子に会いたいと言っているのだ。別に問題なかろう?」
まぁ、普通ならな。
「ありますよっ!!」
「ほう?どんな?」
「そ、それはそのっ」
ユッシがもじもじしつつも、イェレミアスの顔を見つめる。
イェレミアスが「わん」と鳴くと、ようやっと重い口を開いた。いや、何でイェレミアスが「わんわん」したら口開くねん。ほんっとわかんねぇなこのCP!
多分、シュレヴィが俺の蜜をしゃぶりまくりたいと豪語するくらいに周囲からは分からない何かがあるんだろう。
何せ、イェレミアスはシュレヴィの血のつながった弟なのである。
「一応、卒業後家に戻らず、辺境伯家に世話になると言うのはカーマイン侯爵家伝手で知らせを届けてもらいました。その後、俺からも辺境伯家にお世話になっていると、まぁ一応家に知らせを入れました」
「そうなの?それで翌日会いに来るとか、知らせ届くの早いね」
「いや……その。……隣なんで」
「は?」
「ウチの男爵領、ロードナイト辺境伯領の隣なんですよ」
「はい――――っっ!?」
初耳なんだけどもっ!!いや、王太子妃教育受けてんなら知っとけよと言う話だが、貴族領ってすっごく多いんだよ。さすがに全部は覚えてないっ!高位貴族の領地くらいは覚えているし、サフィアス公爵領の周辺とか、同門の貴族の領地くらいなら知ってるけど!
サフィアス公爵領は、ロードナイト辺境伯領とは離れている。
しかもロードナイト辺境伯領は広いから、隣接する貴族領もすっごく多い!夫人になった以上、これからは覚えないといけないんだろうけど。
まさか、ユッシの実家、ロードナイト辺境伯領の隣だったとは。
「それは、原作には?」
「全然記載ない。記憶取り戻してそれを知って、俺は後悔したんだ」
「ほ、ほう?何で?」
「原作のシーズン2ではさ、俺、ロードナイト辺境伯領に行くことになってんの」
へぇ、そうなんだ。まだ読んでないから、驚いた。
「でもさ、俺の実家と隣同士だなんて触れてないし!記憶思い出してロードナイト辺境伯領と隣接している事実に気が付いてっ!もっと早く記憶が戻っていれば、ロードナイト辺境伯領のパーティーとかちゃんと行ったのにぃっ!!」
ってことは、お隣さんなのにちゃんと来てなかったんかいっ!!
「そう言えば、トルマリン男爵夫人は病弱だとかで、次男は夫人の世話のためにいつも男爵領に籠っていると聞いた。我が家に挨拶やパーティーに来るのは男爵と嫡男である跡取りだけだったな。しかし、次男が学園に入ってから交友関係が活発化して、男爵が頭を抱えていたな」
「うぐっ!俺の黒歴史!何故か学園入ってから俺はビッチ化してた!もちろん俺の秘めた蕾は明け渡していない!きっと前世の記憶が戻る前からも、俺のこの蕾はイェレだけに捧げるって魂に刻まれていたからっ!!」
ユッシは確か、王太子とカーマイン侯爵令息の他にも、色んな貴族令息と仲良かったが、よくある残念ヒロインロード定番のビッチコース行きしていたとは。その蕾が無事で良かった。イェレもホッとしてる。
「それで、父上や兄上から散々苦言の手紙をもらってた。たまに王都に来た時も、めっちゃ叱られてたな、俺。その時は聞く耳持ってなかったんだけどさ」
危ないっ!マジでユッシ危なかったぁっ!危うく破滅するところだったよユッシ!それでも何とかなったのは、セラフィーネ効果かな。セラフィーネが聖女として目覚めたお陰かなっ!!?
「でも、その反省も込めて手紙を書いたんだ。父上に。そして俺は学園時代に世話になり、交友を深めたリリヤさまのため、辺境伯領についていくと言う手紙をしたためた」
「いや、何その嘘はっ!!いや、辺境伯領についてきたのは本当だけども!学園時代!?世話したっけ!?むしろこういうのもアレだけど俺破壊しまくってたけどユッシに当たり強すぎたけど!?交友深めてないよねっ!?」
「そこら辺は、脚色しました」
「一応、脚色の内容を聞こうか?」
「リリヤさまはたいそうなツンデレで、俺のことを突き飛ばしたり、叩いたりしてしまう。でもそれは、公爵家の血筋と男爵令息と言う身分差があるが故、みんなの前ではそうするしかなかった。だけど陰では俺の傷をいたわり、常に心配してくれた。更には勉強を教えてくれたり、秘密のお茶会に招待して下さり、受け男子同士の楽しい時間を過ごさせてくれたお優しい方なのだと、書き綴りました」
「脚色以前に何その秒でバレる嘘―――っ!!?」
辺境近くの男爵領の当主だからって、サフィアス公爵家の目の上のたん瘤・俺の噂を知らんわけじゃないだろうがっ!!
あと、俺は勉強全くできなかった!むしろユッシの方が確実に頭いいわぁ。あと、俺はそんなお茶会できるような存在じゃなかった。
今ならできるが、当時は無理だった。暴れん坊だったんだよ?無理すぎだろうその嘘ぉ―――っっ!!
「さて、明日が楽しみだな。男爵とは仕事で一緒になることも多いが、さすがは国の英雄だな」
ユッシが悔し気に表情を歪める中、シュレヴィはしれっと告げる。
「え、何国の英雄って」
「男爵は元々平民であったが、騎士団の中でも魔物討伐に於いて多大な功績をあげた。その功績が並々ならぬものだったから、陛下が褒美に男爵位と領地を与えた。それが我が辺境伯領に隣接する領地だったものでな。我が辺境伯家とも良好な関係を築いている」
マジかよ。ユッシのお父君めっちゃすごいひと!!ユッシのプロレス技ももしかして……?
「あ、言っときますけど、俺は前世の記憶が戻るまで剣とか武術系はからっきし。英雄の子息に似合わぬ華奢な受け男子でした」
「じゃぁ、先日の連続ジャーマン何やねんっ!!ドラゴンはっ!?異世界ジャンピングキックはっ!!?」
「あれは……前世で極めていたんです」
え、何それ。前世プロレスラー?
「俺は前世ではムッキムキになりたくて、様々な格闘技を極めました。プロレス、空手、琉球古武術、柔道、合気道、少林寺拳法、他にも剣道槍術棍術など他色々!」
いや、極めすぎだろ。ムッキムキになりたいからって!
「でも、元々筋肉が付きにくい体質だったのか、全くムッキムキになれず、俺は悲しみながらその生を終えました。しかしこの世界でも、俺は筋肉が付きにくい体質だったんです。母上似だったので。いや、母上は悪くないんです全く。俺は武術向きじゃなかったので、父上も兄上も剣を強制はしませんでした。だけど俺はヒロインチートなのか、力だけは、強かったんです。怪力と言わんばかりに」
まぁ、確かに世のヒロインと言うのは、時に怪力かよとツッコミたくなるくらいの力を発揮することがあるよな。それかっ!
「元々身体だけは柔らかかったので、その怪力と身体の柔軟性を生かして、すぐに前世で身に着けたもろもろの技を披露することができました」
それが先日のプロレス技かいいぃぃっっ!!
「だから、もしかしてと言う希望は抱いています」
「どんな?」
「拳で、語り合う……っ!」
「それ最終手段―――っ!!」
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