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第17話 巫女の一族。

「それで、その巫女の一族の末裔とやらを、貴様らは探していたのか」 シュレヴィがオリヴェルの説明を聞いて、そう告げる。 「そうだ。聖獣の血を受け継ぐものとして、巫女の一族は必要な存在だ。特に、我がサフィアス公爵家の巫女の一族は彼ひとりだけしかいない」 「どうして……?」 巫女の一族ってそこまで希少なのか? 「いなくなってしまったからだ」 どうしてなのかは、オリヴェルは語らなかった。 魔王はユルヤナ夫人をゆっくりと床におろし、男爵がすかさず抱きしめてはいたものの、その顔色は暗かった。ユルヤナ夫人もその理由を知っているのだろうか。 「その生き残りがいるのならば、我がサフィアス公爵家で囲うのは当たり前のことだ」 「だからって、男爵家のユルヤナ夫人を誘拐するのはどうなんだよ」 「我がサフィアス公爵家はこのままユルヤナを引き渡さないのであれば、公爵家への敵意ととる。もしくは、その巫女の一族を抱え、我が公爵家を脅そうとしているともとることができる」 「何てことを……っ!」 男爵が吠える。そりゃぁ、そうだ。 「それに、辺境伯家も同じく。我々の保護を、そこの男が妨害した」 オリヴェルは魔王を指す。さすがにオリヴェルはあれを魔王だとは知らないのだろう。 多分辺境伯家の血筋の者とくらいにしか思っていないのだろう。 「は?妨害?何言ってんだ」 魔王が冷めた目でオリヴェルを見やる。普段はフレンドリーだし、酒につられてチョロいいけど、こういうドライな雰囲気を醸し出していると、RPGとかで見る完全無欠な魔王さまっぽい。いや、魔王さまなんだけど。 「俺は、そいつのペンダントにリリヤの血族の気配を感じて辺境伯家に招待しただけだ。まぁ、追われているみたいだったから、助けて連れてきたんだけどな~~」 え、ペンダント?そう言えば、ユルヤナ夫人はペンダントを付けているな。あれに宿った魔力を魔王が感知したってこと?それはそれですごいな。 「追われて、な。アレクシ、男爵邸で何があった。申せ。サフィアス公爵家のことなど気にするな」 シュレヴィが問う。 「貴様……っ」 シュレヴィのいいように、オリヴェルが苦々しく呟く。 「では、申し上げます。サフィアス公爵家の騎士たちがサフィアス公爵と共に突然我が家に押し寄せ、母に会わせろと迫って来たのです。しかし、母上の事情を私は知っておりましたから、正式な回答は父上が帰ってからと告げ、サフィアス公爵一行はお帰りになられました。ですが別動隊で忍び込んだサフィアス公爵家の騎士たちが、母上を攫って行ったのです。悲鳴と物音に駆けつけた時には、既に母上の姿はなく。母上を庇って使用人たちが怪我をして倒れている状態でした」 それって完全な誘拐じゃんっ!何してんのオリヴェルらしくない。 でも、オリヴェルらしくない行動って大体、先代が絡んでいる気が。うん、絡んでいるもんね。全く……。 「ふーん。じゃ、俺はそん時に助けたわけな」 魔王がニカっと嗤う。 「とにかく、ユルヤナ夫人を誘拐した事実には変わらないんだろ?」 それはさすがにどうなんだ。いくら聖獣の血を受け継ぐ公爵家だからって、やっていいことと悪いことがある。 「先ほどから聞いていれば、随分と他人行儀な言い方だな。彼は、貴様の母親だろう?いい加減、認めたらどうだ。それで、今回の件にはカタがつく」 「あのさぁ、ちょっと。勘違いしているみたいだからいいかな」 俺もさすがに立ち上がる。 「……っ」 するとオリヴェルが身構える。あー……、俺が暴走すると思ってんのね。ははは。、前科多数はだてじゃないー。 「別に、今は大丈夫だ」 シュレヴィがいるし。すとんと椅子に腰かけ直せば、しれっとシュレヴィが腰を抱き寄せてくる。何の独占欲だろう、これ。一人で立つとか許さない的な!?そこまでなのか!!? いや、まぁそこはいつものことだからおいておいて。 「ユルヤナ夫人は、俺の母さんじゃないけど」 「は?」 オリヴェルが唖然としたように口をぽかんと開ける。 「嘘をついても無駄だぞ!私と言う証言者や、騎士たちの中にも証言者がいるんだ」 「確かに似ていると思うし、髪の色も瞳の色も同じ、顔もそっくりだよ」 葵髪に青緑色の瞳。桃色の唇も、愛らしいその顔立ちもそっくりだ。 「そうだ。それでいて、別人だと言うのか」 「そうだよ。だって、俺の母さんは酒場で踊り子やってたんだぞ!?」 「それは聞いているが」 「ユルヤナ夫人が、肌色多いセクシー衣装来て、どエっロい踊り踊れると思うかっ!?」 「ひ……っ!?」 さすがにユルヤナ夫人が短い悲鳴を上げた。 どエっロい踊りには普通ビビるよな。しかも荒くれ者も多い酒場で……である。 「お前、こっそり見に来たって言ってたけど、酒場行ったの?」 「行くわけないだろう。当時の私は子どもだったんだぞ」 「あっそ。知らないなら、判別できないだろ」 「じゃぁ、何故お前は知ってる」 「幼い俺をひとりにはできないから、酒場の客からは見えない場所で過ごしてた。たまに、母さんが舞ってたのは見たことがある。それに、表情が全然違う。あの人はな、この世の攻めを全てものにするくらいの妖艶な人だった。ユルヤナ夫人のような清楚系美人とはまるで違うぞ」 「しかしっ、ここまでに瓜二つの人間がいるか!?」 まぁ、魔王とシュレヴィが似ているのは血族だからだもんなぁ。でも俺の母さんはそもそも人間じゃないらしいし。 「でも、そうだぞ。血族としては別だ。このペンダントをやったやつは、リリヤの血族だろうな。お守り用に、魔力が籠っている」 魔王が夫人のペンダントを掌で掬いあげるとさらりとそう告げた。 「このご夫人とリリヤは血縁関係にない」 「何故そんなことが分かる」 「我が辺境伯家は、聖獣の聖なる血を受け継がない代わりに、魔王の血を受け継ぐ。魔王の血と言うのは、そのようなこともできるほどに便利なのだ。お前たちが勘違いで男爵夫人を誘拐するような蛮行を働くことはない」 「蛮行、ですか」 「そうであろう?勘違いをして、トルマリン男爵夫人を攫おうとしたのだ。我が血族の者が助けなければ、男爵夫人がどうなっていたか。トルマリン男爵にはこちらとしても先代の頃からの恩も付き合いもある。今回のことは、見過ごせぬな」 シュレヴィがにやりとほくそ笑む。 「男爵家と辺境伯家に対し、後日正式な謝罪をしよう」 まぁ、オリヴェルは誤解が解ければ真面目ちゃんなのだ。 「あぁ、あとで慰謝料もたっぷりいただこう。少し、資金が浮いたな」 シュレヴィが男爵相手に手でお金マークを作ってみせる。 マジかよ、サフィアス公爵家からも資金捻出させたぁ―――。 「あと、婚約者がいるのにうつつを抜かして他の男とイチャつくような令息はどうかと思うのだが。サフィアス公爵もそうは思わないだろうか」 「いきなり、何の話ですか」 ほんと、何の話ぃっ!?ちんぽの話題よりはましだけどもっ! 「サフィアス公爵も顔が広いであろう?ちょっくら、いいかと思ってな」 にぃっとシュレヴィがほくそ笑んだ。え、何する気?

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