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第18話 真実。

サフィアス公爵が公爵家の者たちと辺境伯領を引き上げた後、トルマリン男爵一家もホッと一安心という感じだった。 「あの、リリヤ辺境伯夫人さま」 そして俺は、母によく似たトルマリン男爵夫人に話しかけられた。 「あなたに……話さなくてはならない気が、するのです」 「それは……?」 「私は、あなたのお母君を知っています」 「え……っ」 そう言えば……! 「そのペンダント、俺の母親と同じ血族の魔力を感じるって……」 「はい。あなたのお母君からいただいたものです」 な、なぬ―――っ!!? 早速男爵夫夫を向かいのソファーに腰掛けてもらうよう誘導し、話を聞くことになった。もちろんアレクシさんやユッシ、魔王とヴァルトも一緒である。 「あの、辺境伯さまの前では」 「大丈夫だ、辺境伯閣下なら」 男爵がそう告げると、辺境伯夫人が語りだした。 「私は、その、サフィアス公爵さまの仰る通り、巫女一族の末裔なのです」 えぇ―――っ!? 「ですが巫女一族は、先々代サフィアス公爵の欲によってある一人を除いて、殺されたのです」 「え、ころ、された?」 「はい。巫女一族を自分のものにしようと目論んだ先々代サフィアス公爵が、ある一人を除いて全て殺し、その一人を(つま)に迎えました。そうして生まれたのが先代。しかし先代も聖獣の騎士となれなかっただけではなく、生き残りは先代を産んだ際に亡くなってしまったと言います。そして、巫女一族の直系はいなくなりました。先代の嫡男・現サフィアス公爵も同様に。だからこそ、先代は肖像画にあった母親とそっくりな私を街で見かけて、巫女の一族であると迫ったのです」 そして実際に、ユルヤナ夫人は巫女の一族の一員だった。 「でも、巫女の一族の生き残りは一人だけだったんじゃ?」 「巫女の一族は、少なくともサフィアス公爵家ではサフィアス公爵領に囚われ、公爵家の許可がなければ自由に外にも出られません。出られるとすれば、サフィアス公爵家の本家や分家に嫁ぐときくらいでしょうか。直系は本家に、それ以外は分家に嫁ぎます。だから、直系ではなくとも分家になら巫女の一族の子孫がおり、特別な魔法を持つ者も生まれるといいます」 まぁ、それでオリヴェルもその分家の者と婚約したらしいし。 「でもその力は本来の力よりも弱く、聖獣の騎士として目覚めることが困難です。一方で巫女一族の直系や、本家の出身ならばその目覚める能力も上がるのです」 そんなリスクがあるのに、先々代はすごい手に打って出たな。それほどまでに自信があったのか、それともそれほどまでに独占したかったのか。 「当時、私の母は囚われの屋敷の中でかくれんぼをして隠れていました。その間に、先々代により惨劇が行われました。そして奇跡的に見つからなかったのです。そして、誰も生き残りのいないはずの屋敷は、初めて監視の目が外れた。母は逃げ出し、通りすがりの商人に保護され、公爵領を脱出したのです。その後は、商人に連れられて各地を転々としたそうです。私もそのうちに商人との間に生まれました。しかし旅の途中で両親を喪い、私は流れるようにして王都に辿り着いたのですがーーそこで出会ってしまったんっです。先代公爵と」 サフィアス公爵家が巫女の一族にそんなとんでもないことをしていたなんて。 「けれど、逃げている途中に私にそっくりなひとと出会いました。それが、あなたのお母君だったのです。彼は、私に何かあればお守りだとこれを持たせて逃がしました」 それが、そのペンダント。だったら、母さんの魔力の可能性が高いのかな。平民なら、そこまで高い魔力を持っていないと思うけど、人外だしなぁ。可能性としてはあり得る。 「その後私は王都を脱出しましたが、旅をしている間に男爵さまと出会い、拾われたのです」 それが、トルマリン男爵だった。 「夫には、私の全てを話しました。そして匿われるようにして、男爵領で暮らしてきました。ですが、その後、サフィアス公爵家に迎えられた次男のリリヤさま、そしてリリヤさまのお母君が亡くなったと聞いて、私は……っ」 ユルヤナ夫人が沈痛そうな表情を見せる。 「私が彼に甘えて、逃げたから……っ」 「ユルヤナ……っ」 男爵がユルヤナ夫人を優しく抱きしめる。 「いいんです。母は、強いひとでしたから。先代のことだって、この私が相手してあげたんだと高飛車に告げてましたから。そして母のお陰でユルヤナ夫人が生き延びて、俺はユッシと出会えたんです。ユッシと出会えたのは、ユルヤナ夫人のお陰です」 「あぁ、リリヤ夫人……っ」 今なら、何となく分かる。 男爵はこの話を知っていた。だから、俺とユッシがこうして仲良くなったことも運命だと述べたのだ。 「でも、またこれで振り出しかな」 母の手掛かりは。 「あれ、でも待って」 「え?」 「俺、一回母さんにめちゃくちゃ似たひとを見たことあるけど」 と、ユッシ。 「は?い、いつ……っ!?」 「えぇ~と、学園に入学する時、男爵領を出発する時かな。他人の空似かとも思ったけど」 え。俺がサフィアス公爵家に引き取られるのは、それよりもずっと前である。つまり、その頃にはもう母は埋葬されていたわけで。 「リリヤさまの言う通り、抱かせてやってあげたのよとか言いそうな美人だった」 「マジで……」 「では、今後も探ると言うことだな。あぁ、褒美の酒なら用意してある。安心しろ。引き続き進展があれば、新たに酒を出す」 「よっしゃー」 魔王がわーいと喜ぶ。やっぱりチョロすぎないか、魔王。 ―――その後。 オリヴェルのお陰なのか、トルマリン男爵家に対する婚約者と破談になったと文句を言ってきた家からの慰謝料の催促は、なくなったらしい。 ユッシと浮気した相手の婚約者の家には、多少額の減らした慰謝料が支払われたそうだ。 多分これもオリヴェルと、シュレヴィが裏から手を回したお陰かな?

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