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第19話 辺境伯領にて。

「でもさ……、ちょっと疑問に思ったんだけど」 ここは辺境伯夫人に与えられた部屋。俺は辺境伯領やその周辺に関する勉強に精を出していた。ここら辺の知識については、地元民のユッシも詳しく、たまに教えてもらったりわかりやすい教本を紹介してもらったりしている。 「疑問……ですか?」 追加の教本を持ってきてくれたユッシが首を傾げる。 「あのオリヴェルがさ、ユルヤナ夫人のペンダントについて、しつこく追及しなかったじゃん?魔王はあれを、俺の母さんの血族の魔力と同じだって言ったんだよ」 ユルヤナ夫人の話から察するに、あれに宿っている魔力は母さん自身のものの可能性が高い。 「それならオリヴェルはその場で糾弾してもよくない?ユルヤナ夫人が俺の母さんとかかわりがあったんじゃないかって」 「まぁ、そうですねぇ。でも、オリヴェルは慎重派ですから。帰ってから下調べをするんだと思います。あと、こちらに来るときもサフィアス公爵家の紋が入った飛行馬車で来たそうです。下調べを入念にした後、ご自身で乗り込まれたのかと」 「えぇっ!?ウチの公爵家、飛行馬車持ってたの!?」 「多分、リリヤさまに破壊されないように隠していたんじゃないですかね。最高級品の魔動具ですから」 「そ、そっか。俺に破壊されないように、ね」 サフィアス公爵家の財政事情も良くなかったようだし、何かあった時のために飛行馬車が壊されては大変だろうから。 俺はオリヴェルの見送りにはいかなかったけれど、ユッシは使用人仲間からオリヴェルがこちらにやって来た交通手段を聞いたのかもしれない。 思えば、隣の領であるトルマリン男爵領に行くにしても、辺境と同じく長旅になる。 飛行馬車があるのならば、当然それで来るか。 「あとさ、ユッシ」 「はい」 「前に俺の母さんっぽいひとに会ったって言ってたよな」 多分、本人っぽのだけど。でも、埋葬されたはずだぞ?けれど魔王曰く“人外”らしいので、何か不思議な力を使ったのかもしれない。真相は本人に会うまで、謎のままだ。 「えぇ」 「その時のことを詳しく知りたいんだけど」 「あぁ、その時のことですか。男爵領から王都に向かっていた時のことです。俺は男爵家の馬車で王都入りしたのですが、その道中で」 出会ったのか? 「森の中で情熱的な舞を踊ってました」 何、してたの母さん。 「その時の雰囲気が、リリヤさまに聞いたお母君のような感じでした!」 あぁー、抱かれてやってもよろしくってよ的な感じ?うん、あのひとは舞でそう言うのも表現できるひとである。 「しかも、母上によく似ていたので覚えてましたよ。一瞬目が合った気がしたんですが、ふと意識が逸れた途端に消えていました」 「本当に、謎だな」 「本当に、ですね。でもリリヤさまのお母君はウチの母上の恩人ですから。リリヤさまについてこられたのも、運命みたいでいいですね」 「そうだな。確かに」 「リリヤの運命は、この私だ」 ぎゅむっ 「ひぁっ!?」 いきなり後ろから抱きしめてきた相手は、一人しかいない。耳元で吐息を吹きかけてくるし。 「その、運命とかじゃないからぁっ!?」 「そうですね。何と言うか、運命のいたずらみたいな感じですかね。恋愛的な意味で言うなら……」 ユッシが足元を見やる。 ん? 「わんっ」 「イェレ~!」 ユッシの足元に跪くイェレミアスの姿がそこにはあった。そして嬉しそうにユッシに頭を撫でてもらっている。 「あのさ、シュレヴィ」 「どうした、リリヤ。また、蜜をしゃぶってもらいたくなったのか?かわいいやつめ」 いや、違うからっ!! どうしてこうも思考がおしゃぶりに行くのかなっ!? 「イェレミアスのアレなんだけど、いいの?」 是非、兄のシュレヴィの意見が聞きたい。 「イェレがあんなに生き生きとしているのは、初めて見た。よほどユッシが気に入ったのだろう。家格の差はあるが、我が辺境伯家のものたちは政略結婚よりも相性を重視する」 「それ、どう言うこと?」 シュレヴィがユッシとイェレミアスの間を応援してくれているのは良かったが。いや、良かったのか?でも、イェレミアスはあれで生き生きとしているん、だよな? それでも、辺境伯家なのに政略結婚よりも相性って? 「魔王の血を引いていることもあり、私たちは特殊なのだ。その魔力量も膨大だし、交わるためにはその魔力すらも慣れてもらわねば失神しかねん」 えぇっ!? 「それって、俺も?」 「可能性は、あるな。だが、リリヤと相性が抜群なのは私だし、私以外はいらない」 スパっというなぁ、シュレヴィったら。 「うん、俺にとってもシュレヴィがいてくれてよかった」 じゃなかったら、俺はひとりぼっちだったかもしれないのだ。誰にも理解されず、魔力を暴走させて。原作通りに倒されていたのかもしれない。 「リリヤっ」 シュレヴィが何とも言えないような表情をしながら、俺の肩を掴んで向かい合わせると唇を重ねてくる。 「ふぁっ、しゅ、シュレヴィっ!?」 「ふふ、愛している。リリヤ。我が愛しの(つま)」 「しゅ、シュレヴィったら。お、俺も愛してっ」 そう、言いかけて気が付いた。 じぃ~~~~っ ひぃ―――っ!?ユッシとイェレミアスがこちらをガン見していた。 「どうした、リリヤ。続きをしようか。そんなに照れてかわいいな。それとも……下をしゃぶって欲しいのか……?」 違うわぁっ!この照れは恥ずかしいだけ―――っ! 「そ、それよりもシュレヴィ、仕事は?」 「ちょっと抜けてきた。リリヤに話したいこともあったから」 「俺に?何だろう」 「一週間後、リリヤのお披露目パーティーを決行することにした」 「は……?」 い、しゅうかんご? 「そんな急すぎたら、招待客も困るんじゃないっ!?」 「何、魔物討伐の招集時に比べたら十分すぎるほどの余裕があるぞ」 「いや、確かもそうかもしれなけど!?」 「余裕を持ちすぎても、魔物討伐の予定が入っては中止になってしまう。今は大丈夫だ。活性期までは余裕があるからな」 「活性期って?」 「繁殖期だ」 繁殖期―――っ!? 「その時期、魔物はどうしてもわくものだ。あと、精力ももりもりだから狂暴化する」 「ひぃっ」 「あ、因みに私もだ」 「シュレヴィもかぃっ!」 「なにせ、魔王の、先祖返りの濃い血を受け継いでいるのだ。ムラムラしてくる」 真顔でそう、告げてくるシュレヴィ。冗談じゃなくて、マジでムラムラすんの!? 「普段はその鬱憤を魔物に向けるだけなのだが、いかんせん威力が強すぎてな。最近は、私は滅多なことではなければ前線に立たせてもらえないのだ」 前線に立ちたがる司令官も珍しいと思うけど、シュレヴィは特殊だからなぁ。 まぁシュレヴィが前線にでる滅多なことも起きてはもらいたくないけど。 「そう言えばさ、魔王がいるのに、どうして魔物はこの地に押し寄せて敵対するんだ?」 「それは、魔王が配下に置いていないからだ。むしろ魔物を配下に置いて大軍を作ったら、それはそれで魔王の再来だと討伐対象になってしまうな」 言われてみれば、そうかも? 「私は魔物ではなくひとを率いて、辺境伯家の特権で騎士団を率いているから、魔王の血を引いていても討伐対象にはならないがな」 「そうだよね~」 辺境伯家がそんなんで討伐対象になったら、ここの辺境伯領が抱える国境が瓦解する。 「あぁ、でもシーズン2ではそうなりますよね」 ユッシの言葉に、固まった。 「何ぃ―――っっ!?」 「あれ、まだそこまで読んでませんでした?」 そうだった。まだ、シーズン1しか読んでないっ!!

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