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第20話 魔王の名。
シーズン2では、1には登場しなかった他の2つの公爵家の令息が出てくる。エメラルディス公爵令息(セラフィーネの兄)と、ルビーネット公爵令息だ。2人とも公爵家ゆかりの特別な魔法を受け継いでいる。それもサフィアス公爵家と同じく巫女一族を囲って得た魔法と言うことだろうか。
サフィアス公爵家では巫女一族を独占するために、無慈悲な殺戮行為が行われ、遂には巫女一族の直系がユルヤナ夫人しかいなくなってしまった。他にはサフィアス公爵家に組み込まれたその血のみ。
あれ、ユルヤナ夫人が唯一の巫女一族の直系ってことは直系はユッシとアレクシさんと言うことにならないか?いや、でもそれを表ざたにはできないもんねぇ。ユルヤナ夫人はそっくりだけども別人ってことに落ち着いたから。
ユッシは聖女と言うよりプロレスラーだし(いや、違う)、アレクシさんは魔法は使えてもサフィアス公爵家特有の魔法を使えるわけではない。2人には確実に受け継がれていないのだ。
まぁ直系の血を継いでも必ずしもその力を受け継ぐとは限らないのだ。先代とオリヴェルがそうだったように。
俺も力は受け継いでも、聖獣の騎士のような本能はない。そもそも俺、原作では悪役だもんなぁ。本来なら、倒されるはずの悪役なのに、シュレヴィによって救われてしまった。
まぁ、シュレヴィに助けてもらえたのは、嬉しかったけど。
さて、シーズン2でも悪役が出てくるのだろうな。物語の流れ的に。
さらにユッシは辺境伯が討伐対象になると言うようなことを言っていた。
ユッシは登場人物紹介も描いてくれていて、そこに悪役が乗っていた。
その名は、ロードナイト辺境伯シュルヴェストゥル。
ウチのシュレヴィさんやないけっ!!
しかもシュレヴィの異母弟・イェレミアスも出てくる。
イェレミアスについては、兄・シュレヴィの命で暗躍しているのだが、物語途中で仲間になるらしい。そしてでっかく注意書きが書いてある。
【←俺の最推し】
……と。
うん、叫んでたもんね、知ってる。でもどうしてそんなユッシの最推し・イェレミアスがユッシの犬になっているのだろうか。やっぱり謎である。
さて、シーズン2の内容だが。
辺境で魔物が活発化し、魔王の再来が疑われる。
そこで聖女ユッシが王太子、オリヴェルと共に向かうのだ。いや、王太子がわざわざ?と思われるかもしれないが、王太子は聖獣の騎士でもあるので、こういう有事の際には聖女についていくのも義務というか本能らしい。
本能ねぇ。聖獣の騎士にとっては、彼らが選んだ聖女はとても愛おしい存在らしい。他の騎士たちに選ばれるのも多分セラフィーネで間違いはないだろう。ユッシは回復魔法は使うものの、聖女をやるつもりは全くなさそうだ。
更には王太子はセラフィーネを選んでいる。
セラフィーネは性格もいいし、聖女の実力も確か。完璧なご令息だ。
この原作小説のヒロインのイメージにも合いそうだ。
そして魔物討伐や街の人たちとの交流を通して聖女ユッシは成長し、騎士たちとの絆を深めていく。だが、辺境伯の罠でユッシは囚われの身となる。
そこで現れるのがイェレミアス。囚われの聖女ユッシの世話を買って出たイェレミアスはユッシの純粋さや真っすぐなところに次第に惹かれるようになる。
そしてユッシを逃がすために騎士たちに情報を流すのだ。そして辺境伯こそが魔王の魂を持っており、聖女を使って完全復活を目論んでいると。
騎士たちはイェレミアスと共に魔王グラディオスを倒し、聖女を救出する。
しかし、辺境伯は魔王の魂が目覚める前はとても優しい異母兄だった。それを思い出し、魔王の魂を滅ぼすために異母兄を討ったことに、イェレミアスは嘆き苦しむ。
そんなイェレミアスにユッシが手を差し伸べ、一緒に行こうと誘い、共に王都に帰還する。
ここで、シーズン2は終わる。
「いや、ウチのシュレヴィがラスボス魔王やないかいっ!!」
しかも、しかもシュレヴィが、倒されてしまうっ!
「は?アイツは別に魔王の称号得てないぞ?魔物を率いているわけでもないし、そう魔物に定義されているわけでもないから、魔王じゃない」
ひとりノートを読んでいれば、そう声を掛けてきたのは、魔王そのひとであった。
あれ、てことはシュレヴィが倒されるってことはない?
―――でも、
「じゃぁ、魔王は?今は魔物を率いてないんだよね」
「一度その称号得たからなぁ。今も持ってる」
「そ、そうなの?あ、因みに魔王ってさ」
「ん?」
「グラディオスって名前?」
「ひぃっ!?何で知ってるっ!?」
マジか、本当に魔王の名前、グラディオスだった。ノートにも書いてあったけど、原作で倒された魔王グラディオスは目の前の魔王本人だった。
「いや、そのー」
ユッシの前世の知識から、とか言えるだろうか。
「何か、ユッシからの情報?」
「いや、何でアイツが俺の本名知ってんのっ!!」
どうやら、魔王グラディオスの名は知られていないらしい。原作では出て来たのにな。そう言えば、おとぎ話でも歴史の本でも、グラディオスの名は出てこない。単に“魔王”と呼ばれるのだ。
「因みに、その魂がシュレヴィの入ってるってのはあり得る?」
「え、何言ってんだ?あるわけないじゃん。俺ここにいるし」
「ですよねー」
原作の設定が、既に崩壊しておる。大体魔王は原作のように魔物を率いていないし、シュレヴィも魔王の魂を持っているわけじゃない。
それじゃぁ、シュレヴィの身は安心安全ってことでいいのかな。
「だが、イイことを聞いたナ……」
次の瞬間、魔王の真後ろにひと影が現れたと思えば。
「魔王、グラディオス。ふふっ、遂にあなたの名を知った」
恐ろし気に嗤っているのは、ヴァルトであった。
「ひぃっ!?」
「今夜は、深く深く、愛し合いましょう?これまで以上に。うひひひひっ」
「ひっ、おまっ、魔王に対して何考えてやがるっ!?」
そうだよね。ラスボス的な立場にいる魔王なのに。なんでこの魔王 、毎晩毎晩抱き潰されてんの。
「それが魔王受けの摂理ですよねー。はい、お茶」
「あぁ、ありがとうユッシ」
ちょうど、ユッシがお茶を持ってきてくれたのだが。そう、だったのか。魔王受けだと魔王 であっても攻めさまには屈するしかないと。
「お前に俺の名を呼ばせることは許さん―――っっ!!」
魔王が吠える。あれ、何か魔王っぽい覇気がでてない?
「照れちゃって……かわいいね、グラディオス。大丈夫、俺に穿たれたあなたは既に、俺のものなので。好きに呼びますグラディオス」
しかしヴァルトに名を呼ばれ、沈静化した。
「ひぃ―――っっ!!」
そうして魔王 はヴァルトに連行されて行った。
「平和だな」
現実は。
「えぇ。でも、シーズン3は2以上に鬱展開ですよ」
「いや―――っっ!?」
何それ。ちょっと読むの恐くなってきたんだけどぉっ!?
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