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第27話 マティアスの秘密。

「魔竜?」 シュレヴィが眉を顰める。 魔竜って言うのは、普通のドラゴンとは違うのかな? 「魔竜は、魔王の配下を名乗り、アレキサンドライト辺境伯領に出現しました」 「魔王の配下、か」 「でも、それなら何故こちらに連絡がないんですか?」 シュレヴィの呟きにユッシが首を傾げる。 俺の疑問に答えるように、シュレヴィが続けてくれる。 「もしも魔王の再来や出現となれば、国内全土に伝令が飛ぶ。それが飛ばないということは、魔王が出現、もしくは再来していない。ただ、その魔竜がそう名乗っているだけと言う状況だ。しかし聖女が倒れたのならば、そろそろ……」 シュレヴィが不意に視線を上に向けた時、何か光輝くものがシュレヴィの掌に降りてくる。 「王宮からの、緊急の伝令だ。アレキサンドライト辺境伯領から王宮に送られて、我が領にも届いたのだ」 魔法の緊急伝令……! 王城で教育を受けていた時になんとな~~く習ったような。緊急の場合に王宮から放たれる伝令だ。そしてアレキサンドライト辺境伯領や、こちらの辺境伯領など国の要所からも緊急の魔法伝令が送れるようになっているのだろう。 「今のところは加勢要請ではない。もしもの時、つまりは魔王出現の時に備えよということだ。だが、それならどうしてお前たちはここに来た?アレキサンドライト辺境伯は今も戦っているはずだ。……魔竜と」 そりゃぁそうだよなぁ。 「ねぇ、ユッシ。魔竜って?」 ついでに、ちらっとユッシに聞いてみる。 「竜の中でも、魔王級にヤバい竜のことです。まぁ、魔王の称号は得ていないので魔王ではないですが、限りなく近いですよね」 「それってヤバいのでは?」 「まぁ、そうですね。原作では魔王にはなってませんでした」 え、原作に登場すんのぉっ!? 更に詳しく聞きたかったが、そこでヴィリリアンの答えが聞こえてきた。 「えぇ、そうです。ですが魔竜はセラフィーネに呪いをかけ、蝕んだ。その呪いを解ける手だてがあるとすれば、同じ聖女のユッシ・トルマリンだけです」 ヴィリリアンたちの目的は、聖女としてのユッシだったのか。 「どうかユッシ・トルマリンの派遣を許可していただきたい」 ヴィリリアンが、シュレヴィに対して頭を下げる。マティアスは悔しそうに表情を歪ませている。 セラフィーネに対する愛情は、本物だろうしなぁ。 「ふぅん?なら、私ではなく私の(つま)に頭を下げて頼め」 『はっ!?』 ヴィリリアンとマティアスはこちらをみて驚愕している。 そ、そんなに嫌かなぁ~? それでも、何で俺なんだ?シュレヴィ。 「ユッシは私の部下ではなく、リリヤの従者だ。それも、辺境送りになるリリヤにどうしてもついていきたいと願い付いて来てくれた忠臣だからな」 まぁ、それ嘘っぱちですけどー。でも、ユッシにも俺にも利点があったし、今は主従ってだけではなくて大切な転生者仲間で友だちでもある。 「ユッシの派遣をして欲しいのなら、リリヤに頭を下げろ」 でも、シュレヴィったらっ!そんな要求をしなくても。それとも何か恨みがあるのか!?マティアスに!俺に婚約破棄告げたからとか!? いや、あの頃のことは俺も悪かったと思ってるし。 「辺境伯!コイツがセラフィーネに何をしたか、知らぬわけではないだろう!」 マティアスが叫ぶ。 「ひとにモノを頼みに来て、随分な態度だな、王太子殿下」 シュレヴィの圧!圧が半端ない!マティアスも思わずビクっときてるし! 「では、わ、私が」 ヴィリリアンが前に出る。 「ど、どうか、」 「2人で頭を下げろ」 しゅ、シュレヴィ~~っ!? せっかくヴィリリアンがセラフィーネのために頭をさげようとしたのに、更に無理難題を押し付けたぁ~っ!! 「ま、マティアス。セラフィーネの、ためだ」 「くっ」 悔し気に顔を歪めるマティアス。それでも顔がイケメンなのは、ちょっとムカつくけどなっ!! 「あの、シュレヴィ、いいよ」 「だが、リリヤ」 「大丈夫」 シュレヴィの手を握って頷けば、シュレヴィも諦めたように折れてくれた。 「分かった。好きにするがよい」 「うん」 シュレヴィににこりと微笑めば、マティアスたちに向き直る。 「俺は、ユッシと共にアレキサンドライト辺境伯領に向かいます。あなたたちに頼まれたからではありません。セラフィーネさまのためですから。そこら辺は誤解しないでくださいね」 「な、んだと?貴様などが来れば、セラフィーネが危険にさらされる!よこすのはユッシだけでいい!」 マティアスが叫ぶ。まぁ、そう言われたとしても無理はない。主人として同行しようとも思ったのだが。 「いえ、リリヤさまがいなくては、ならないんです」 「は?」 マティアスが呆けた表情をしている。 「リリヤさまと一緒じゃなければ意味がありません。あと、俺もセラフィーネさまのために行きますので。殿下のためでは決してございません。殿下は口を出さないでくださいませ」 ユッシ!?俺のこと、本当に友だちとして大事に思ってくれてるんだぁっ!俺、感動したぁっ!でも王太子に強く出過ぎでは?大丈夫かな。 「わ、私は王太子だぞ!?」 ほらぁ~、マティアス怒ったぁ~っ! しかしユッシは臆さない。臆さないんだよ、いいの!?この調子で行ってもいいの!? 「王太子殿下が最後におねしょをしたのは、12歳!!」 『……』 みな、固まった。 え?お、おねしょ、12歳って。 『ええええぇぇぇぇぇっっ!!!』 その場にいた全員が絶叫した。どうやらヴィリリアンも知らなかったらしい。いや、知っているはずないか。そんなプライベートなこと。 「な、な、貴様、何故そのことをっ!これは国家機密だぞっ!!」 マティアスは顔を真っ赤にして叫んだ。いや、それ真実だって自白したようなものではっ!? 「あの、ユッシ、これってもしかして」 「えぇ、原作の知識です」 原作もえげつない知識ユッシに授けてくれてんなっ!? そしてそれを利用するユッシもユッシである。

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