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第29話 魔竜に侵された地。

群がっていた魔物たちはシュレヴィが一掃してしまったので、一旦拠点に戻ることになり、辺境伯のテントに案内された。 「殿下が無事シュルヴェストゥルの元へ辿り着いたということか」 アレキサンドライト辺境伯が問うてくる。 「あぁ、まぁ」 シュレヴィも答えるのだが。 何だろうこの2人。どっちも無表情だな。表情にあんまり変化ない! 「それで、殿下たちは」 ぎくっ。 マティアスたちがこちらに来る許可を与えたのは辺境伯だもんね。知っていてもおかしくはない。 「後で馬車で来るようにと告げて私たちだけで来たまでだ」 シュレヴィはしれっと告げた。 「容赦ないな」 「当たり前だ何故私の魔力を使ってまで連れてこなければならない」 いやいや、その容赦のない物言い、いいの!?辺境伯の前でいいのぉっ!? 「まぁ、それでいい。いても五月蠅いだけだ」 まぁ、分からなくもない。 「貴様、よくもこちらに押し付けてくれたな」 ひぃっ!?辺境伯の顔がくわっとなったよ!押し付けたの完全にバレてるよ! 「人聞きの悪い。聖女を我がロードナイト辺境伯領で独占など、不公平だろう」 「あぁ、確かにそれは分からんでもないが、余計なものまで引っ付いてきた」 あぁ、マティアスたちね。 「殿下はまだまだだな。聖獣の騎士として来ただろうに、王族の権利を振りかざす」 辺境伯がはぁ、と溜息を吐く。そう言えば、ロードナイト辺境伯領に行く時も王族の権利を振りかざしたんだっけ。 「エメラルディスとルビーネットは多少は使えるが。しかしさすがに殿下をおひとりで行かせるわけにはいかず、エメラルディスのほうを付けた。あちらの方がしっかりしている」 あぁ、フェリックスより?年上ってのもあるんだろうけどぉー。 「幸い、トルマリン男爵令息と交流のあるカーマイン侯爵令息もいたしな」 「そう言えば、リクハルドは何で一緒にいたんだろ」 こそっとユッシに問うてみれば。 「え、近衛騎士ですよ?殿下付きの」 マジかいいぃぃっっ!!?そう言えば、代々そう言う家の出身なんだっけ。近衛騎士のリクハルドだけではなくヴィリリアンも付けたのは、殿下が暴走しないようにするためだったんだろうな。案の定暴走したし。しかしそれを止めたのは、ユッシの大暴露だった。 さすがは真のヒロイン。やべぇ。 「それで、ウチに来させたわけか。急用なら魔法で伝令を寄越せばいいのに」 あ、辺境伯領同士でもできるのか。 「それは、確証もない上に、無理なことを頼めないだろう」 「確証?何でも聖女セラフィーネが呪いにかかったと聞いたが」 「あぁ、魔竜の呪いだ。それが解けるのは聖女だけだから、トルマリン男爵令息を呼ぶと殿下が聞かなかった。しかも王太子命令だとかいいだしたもんでな。いても五月蠅いだけだから行かせた」 うぅ~ん。マティアスったら、かなり暴走してんなー。俺もひとのことは言えない時期があったけどなぁ。 「それで、呪いをかけた魔竜はどのようなものだ?」 そうだよね。そこ気になる。 「自らが仕えていた魔王の復活を掲げ、魔物を率いてきた。まぁ、何とか撃退はしているが、先ほどは少々苦戦していたから助かった」 「うむ、当然だ。リリヤの蜜は……誰にも渡せない……!」 ちょっ、それまだ言う―――っ!? 「……」 ほら、辺境伯も無表情で固まってるよ!?もともと無表情だったけど今は更に無ぅ―――っ!! 「それで、魔王とはどこの魔王だ?」 そして平然と続けるのかシュレヴィ!? 「あぁ、魔王の名は告げていない。だが、魔王はまだ目覚めていないだろう。目覚めていればこのような規模ではすまない」 まぁ、辺境伯もそのまま続けてくれるみたいだけど!? 「そうだな。王都からもそのように伝達が来た。それで、その魔竜が聖女にどうして呪いをかけた?」 「その場にいたルビーネットとエメラルディスの話では、聖女に呪いをかけ“お前じゃない”と言い残していったそうだ」 “お前じゃない”って、一体どう言う意味なんだろう? 「それで、セラフィーネさまはっ」 「……リリヤ夫人か」 辺境伯が静かに告げた。そう言えばまだ挨拶がまだだった。 「リリヤ・ロードナイトです」 「ふん、噂に比べて随分と大人しくなったな」 えぇーと、お恥ずかしいですけど。 でも、マティアスたちに比べたらそこまで嫌われているわけじゃない? 「セラフィーネ殿は今、臥せっている。呪いに関してはこちらのヒーリング魔法使いが何とか治療をと試みているが、効果がない状況だ。もし、可能性があるとすれば、殿下の言うとおり聖女かもしれないが」 そう言うと、辺境伯がユッシに目を向ける。 「あの、よろしいでしょうか」 ユッシが口を開く。 「良い、申してみよ」 「はい。恐れながら、魔竜の呪いに聖女の力は意味がありません」 ええぇぇぇっっ!? 「それでは、殿下の仰ったことは根拠のないざれごとか」 「そうですね。なんせ、12歳までおねしょをされていらっしゃいましたから」 ユッシいいぃぃぃっっ!?そのネタまだ引っ張るのぉっ!?そして辺境伯にまで広めちゃったよ!! 「よく知っているな」 え、待って。辺境伯、まさか知ってたの!?国家機密知ってたの!? 「因みに、10歳の時、何の変哲もない石ころをダイヤモンドだと言い張って王妃さまにつけさせようとして陛下にげんこつ喰らいました」 「よく知っているな」 いや、事実ぅっ!?そして辺境伯は何でそこまで知ってんの!! 「さすがはトルマリン男爵のご子息だ」 「もったいなきお言葉」 いやいや待って。待って!?ユッシの国家機密暴露、トルマリン男爵の令息だってことで納得できることなの!? 「それで、君はその呪いについて、もっと知っているのではないか?」 まぁ、原作に出てきたっぽいし。 「えぇ、もちろん。解呪方法も知っています」 マジでェっ!?やっぱり原作知識のある友だち持つと頼りになるぅっ!! 「そして、その方法とは?」 「リリヤさまです」 え?俺? 「リリヤさまの持ち物に、あるはずなんです」 「え、何それ。知らない」 「リリヤさまの持ち物に、聖獣の涙と言うものがあるはずなので、それで解呪されます」 「いや、持ってないよ俺っ!!」 「(原作では、リリヤさまの部屋から出てきます)」 と、ユッシ。 「(いやごめん、俺、自分の部屋破壊してるはずだし、部屋にそんなもの置いたことない)」 「え、じゃぁどうしよう。ありませんね。解呪アイテム」 「ほんとだぁ~~っ!!!」 まさか、解呪アイテムが自分の部屋から出て来るだなんて!しかも俺、全く身に覚えがないのだけど!? 「そうだ、オリヴェル!オリヴェルと連絡とれない!?大至急、俺の部屋調べてもらえるように言ってえええぇぇぇっっ!!」 「まぁ、それしかあるまい」 と辺境伯。 「聞いたことのないアイテムだがな」 続いてシュレヴィ。 うぐ。みんな知らないアイテムだしっ! 最後の頼みの綱は、サフィアス公爵オリヴェルだけである。

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