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第30話 魔竜の襲来。

「……え、ない?」 『あるはずがなかろうが。貴様が破壊しまくって、最低限のベッドと机とクローゼット以外置いてはいないし、貴様が出て行った後は既にリフォームして何も残ってはいない』 だ、だよね~~? シュレヴィのトンデモ魔法で、王都のサフィアス公爵邸に魔法テレビのような感じで繋いでもらったのだが、オリヴェルからの返事も予想通りだった。 「もし残っていたとしたら、貴様はこの私にリリヤの私物の全てを差し出すべきだ。いや、待て。処分したのか?」 ちょっと待って。今、聖獣の涙についての話してるんだけど。シュレヴィがどうっでもいいことに食いついたぁ―――っ!!! 『えぇ、まぁ。どうせ要らないでしょう』 オリヴェルがシュレヴィに対してそう答える。 「私のリリヤの私物だぞ、貴様ぁ―――っ!!?」 ぎゃぁ―――っ!関係ないところでシュレヴィの怒りマックス~~っ!? 「ちょっと、待って。シュレヴィ。それはこれから一緒に増やしていけばいいでしょ?」 夫夫(めおと)茶碗とかー、ペアルックパジャマとかー。 「リリヤがそう言うのなら。貴様の愚行は特別に許してやろう」 『……感謝いたします』 そう言いつつもオリヴェルは頬を引きつらせていた。うん、そりゃそうだ。 そんなわけでオリヴェルとの通信は終わった。 「どうしよう」 もう、手立てがない。てか、聖獣の涙って一体なんなのだろう。目薬みたいなアイテムかな。ポーション瓶みたいなのに入ってるのかな? 一同で悩んでいた時だった。 「閣下!大変です!魔竜が現れました!」 飛び込んできたのはフェリックス。俺たちの姿に一瞬驚いたようだが、それでも絡んでくる余裕はないようだ。 「そうだな。気配は近づいて来ていた」 シュレヴィ気が付いていたの!? 「シュルヴェストゥル!何故言わなかった」 辺境伯が怒鳴る。 「私の敵ではない。出るぞ、貴様ら」 『お、お~』 「お前」 俺たちもノリで返事をしたのだが、辺境伯からはめっちゃ呆れられてる気がするのだけど―――っ!? テントを出て疾走すれば、魔竜は陣地のすぐそばまで来ていた。うわ、何あの黒い鎧のような鱗の巨大竜!3メートルくらいないか? シュレヴィ、これ敵じゃないの?大丈夫なの? 『ミツケタ』 え? 『オマエダ、セイジョ、ミツケタ』 聖女って、ユッシのこと!? まさかセラフィーネに告げた“お前じゃない”って、魔竜が探していたのは真のヒロインのユッシだったってことぉっ!? 『キサマヲ、マオウサマフッカツノ、ニエトシテクレルウゥゥ―――ッッ!!!』 えええぇぇぇっっ!?ユッシを魔王復活の贄にってっ! 「ふむ、どこの魔王だ。答えろ」 『キサマ、マモノ、ナノニナゼソチラニイル』 魔竜はシュレヴィに問う。シュレヴィは魔王の血を引いて、先祖返りだから?それとも角があるからかな。 「私は魔物ではない。残念だったな。答える気がないか?それなら答えるまでかわいがってやってもよいが」 そう言ってシュレヴィが魔竜に掌を向ける。 『キサマァッ!!キサマニワレガタオセルトデモッ!?』 魔竜が吠える。 「あの、俺やっていいですか?」 その時、ユッシが手を挙げる。え、ユッシがやるの? 「ほう?できるか?」 「任せてください」 「いや、待て。聖女がやるのか?どうやって」 さすがに辺境伯は止めるわな。でも、多分大丈夫じゃないかな。何かすっごいでっかい竜だけども。 「それじゃ、よっと」 ユッシが勢いよくジャンピングする。異世界特有どうやったらそこまで飛び跳ねられんのかジャンピングである。 『ミズカラワレノ ニエニ ナルカアァッッ!!』 いや、違う違う。そんな余裕ぶってると……。 「うおらあああぁぁぁぁっっ!!」 ユッシはどうやったら掴めるのか、竜の首元に素早く辿り着き、そして……。 竜の長い首を利用して燕返しを決めた。いや、竜につかったなら……竜返し? 『ぐっほあああぁぁぁぁぁっっ!!!』 竜が地面にめり込む。そして更に……。 「ぐらえやああぁぁぁぁぁっっ!!!」 ユッシはお得意のヘッドロックを竜にキメた。 『ぐあああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!』 そして竜はへなりと地面に頭を預け、動かなくなった。 周囲は静寂に包まれた。 「うむ、よくやった」 シュレヴィの言葉に、周囲の騎士たちから歓声が沸く。 「何だ、あれは。本当に聖女か」 「聖女ですよ。いいえ、むしろユッシは俺の……女神……!」 辺境伯の問いにイェレミアスが答える。 「お前もか」 辺境伯の呟きが何故か胸にしみた。こんな兄弟で、ごめんなさいいいぃぃぃっっ!!! 『ぐ、あぁ……っ』 しかし、魔竜が苦し気に唸る。まだ意識があるのかっ!? 『まお、ぅ、さま……っ』 「ふん、まだ魔王に固執するか。貴様の魔王の名を答えよ」 シュレヴィが冷たく言い放つ。 「あ、閣下。この魔竜の主は多分、魔王グラディオスですよ」 え……? 『な、なぜ、その名を……っ!!』 魔竜が驚愕したように告げる。 「え?あの魔王か?」 「そう言えばと思い出したんです。これはグラディオスの配下でした」 それ重要な情報―――っ!でもよくあるよね!重要なことなのになかなか思い出せないの!! 「はぁ、仕方がない。魔王につなげよう」 そう言ってシュレヴィは先ほどの魔法テレビのようにして空間をロードナイト辺境伯城につなげた。 「おい、魔王」 そう呼びかけた時だった。 『んあぁぁぁっっ』 魔王の甘ったるい声が響き、そのあられもない姿が映し出されたのは。

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