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第31話 聖獣の涙。

『あんっ、や、やめっ、ヴァルトぉっ!?』 魔法テレビモニターの向こうには、魔王グラディオスのあられもない姿が映し出されていた。吸血鬼のヴァルトに後ろから抱きしめられ、魔王はその滑らかな首筋をヴァルトにれろぉっと舌で舐め上げられている。しかもヴァルトは魔王の股間まで揉んでいる。 『はぁっ、んんっ、グラディオス、あぁ、グラディオスぅぅっ!』 そして嬌声をあげる魔王に興奮したのかヴァルトもさらに盛り上がる! 『あっ、やめっ、本名呼ぶなっ!』 『ダメ、グラディオス、俺の愛しいグラディオス、ほら、俺の牙を受け入れて?』 『ん、ひあぁっ、やめっ』 そしてヴァルトの牙が、魔王の首筋にめり込む。 『んっ』 ヴァルトが気持ちよさそうに魔王の首筋に吸い付く。 す、吸ってる。 何を?いや、吸血鬼なのだから何を吸うかは決まっているだろう。 『あっ』 更に音に出るほど強く吸われ、魔王が喘ぐ。 ちゅうぅぅっっ 『ああぁぁぁんっっ!?や、やめっ、気持ち良くなるぅ~~~~っ!?』 しかも股間まで同時にもみゅもみゅされ、魔王が盛大に絶叫する。 な、何やってんのあのふたりはぁ―――っ!と言うか、情事の最中に覗いちゃだめじゃない!?この魔法便利かと思ったらとんでもない欠陥持ってたよ!! 「それで、魔王。聞きたいことがある」 ちょまっ!?シュレヴィ!?何事もなかったかのように問うなぁ~~っ!! そして魔王もその声にふとこちらを見やる。 『ぎゃあああぁぁぁぁぁっっ!!?何で見てんだてめええぇぇぇぇぇぇっっ!!!』 魔王、渾身の怒り。 ひぃっ。 『んっ、んんっ』 しかし現在魔王はヴァルトに首筋と股間を攻められている途中。 『あ、あんっ。激しくすんなっ、あっ』 続けるんだ。ヴァルト続けるんだ。 「それで、この魔竜を知ってるか?」 『ま、まお、さまっ』 魔竜が驚愕したように涙を流していた。 『あっ、んんっ?誰だったっけ』 えぇ―――。魔王忘れてる!?魔竜もさらに涙目だよ!! 『ヒト型になったら分かるかもっ、んっ』 「なれるの?」 魔竜を再び振り返れば。 「よし、いいこいいこ。ほら、ヒト型になりなァ?」 ユッシが魔竜の角を掴みながら、刃物をちらつかせていた。 ひぃ―――っ!?ユッシぃっ!?何か絵面ヤバめなひとになってるけどいいのそれぇ―――っ!?聖女だよ!?一応ヒロインだよ!? 「うぐ、はい」 ぽふんと煙が立てば、次の瞬間ユッシの隣には12歳くらいの黒か目に金色の瞳の竜角の少年がいた。因みに瞳孔は縦長で、背中には小さな翼、お尻からしっぽが出ている。 ちょっ、ショタっ子!? 「ちょっと、待って!子どもに見せちゃダメぇ―――っ!?ヴァルトも魔王も!子どもの前なんだから!」 『あぁ、思い出したわ。お前、魔竜な。北部の氷の中で眠ってたはずなのにいつの間に起きたのな~。因みに、俺と同じで何百歳だから子どもじゃねぇよ』 確かに年齢的にはね! でも見た目が!見た目がぁっ!! 「魔王さま!魔王さま!」 ショタっ子魔竜が叫ぶ。やっぱり魔王グラディオスが、この竜にとっての魔王なんだ。 「ぼくは再び、あなたの配下となって戦う!」 『え、やだよ。俺討伐対象になっちゃうじゃん?平和に行こうぜ平和に!』 魔王は全く戦う気がなかった。と言うか、毎日エロくイキまくりである。 「そ、そんなっ!あの頃の魔王さまは、もうっ」 『いや、いつの俺だよ。俺はいつでも、怠惰だぜ』 「酒があれば働くぞ」 魔王に続き、シュレヴィがしれっと告げる。 いやオイ、それ完全にダメ人間じゃん。人間じゃないけど。 「それじゃぁ、ぼくは何のためにっ」 「そんなの、決まってんじゃん」 涙を流すショタっ子魔竜にユッシが寄り添う。 ユッシったら、優しいところもあるんだから。 しかし、その時だった。 「俺の、下僕になればいいんだよ。な?」 ぐびぃっ 「ぎゃあああぁぁぁぁぁ――――っっ!!!」 ユッシは、ショタっ子魔竜に腕挫十字固……、いや尾挫(しっぽひしぎ)十字固(じゅうじがため)を、キメた。 「いや何やってんのぉ―――っ!?正体魔竜だけど見た目がぁ―――っ!?」 そして魔竜は、ユッシの前に平伏していた。 「はい、ぼく、聖女さまの下僕になります」 「よしっ!」 「いや、全然よくないっ!」 「大丈夫ですよ、リリヤさま。原作通りです!」 マジかよこれ原作通りなの!?魔竜ヒロインの下僕になるの公式シナリオなのぉっ!? 「さて、聖獣の涙が見つからない以上、」 ユッシは少し考えこむようなしぐさをした後、ショタっ子魔竜の肩に手を置いた。 「よし、ぽん太。呪い、解けるよなァ?」 ひぃっ!?聖女がめっちゃドSな顔してるぅ―――っ!? そしていつの名にぽん太なんて名前つけたのぉっ!? 「い、いえ、ぼく、呪い解くの無理ですぅ~っ!かけるしか無理ですぅ~~っ!!」 なぬううぅぅぅっっ!! 「あの、その、みんな」 ん?今まですっごくセリフがなかったイェレミアス? 「その、さきほどこれをもらった」 「え、何それ」 イェレミアスの手にはポーション瓶のようなものが握られていた。中にはキラキラと光る液体が入っていた。 「それ聖獣の涙~~っ!」 ユッシの叫びにみんな、驚愕した。 『えええええぇぇぇ――――っっ!?』 「ちょっとイェレミアス!それ誰にもらったのぉっ!?」 「さっき、ふらりと現れた男にもらった。困っているようだから特別だと言われた。だが」 「だが?」 「トルマリン男爵夫人にとても似ていたが、結構違った」 「それ、俺の母さんじゃ?」 「かもしれない」 「ど、ど、どこに行ったのおぉぉぉっっ!?」 「分からない。ユッシが尾挫十字固を始めて、いいなぁと思っている間にどこかへ行ってしまった」 「なぬ―――っ!?」 「引き留めるべきだったのだろうが、だが、俺だってユッシに腕挫十字固してもらいたい」 うん、本当にシュレヴィとイェレミアスは。何よりも自身の性欲を優先するのである。 「うぅ、何で母さんがこれを持って来たのかは謎だけど、でもこれでアイテム手に入ったわけだよね」 「そうそう。魔竜も聖女(おれ)の下僕になったので、聖女が魔竜を従えている以上悪さはしないでしょう。問題は全て解決ですね!」 「いや、そうなのか?魔竜を下僕にって」 辺境伯の言うことも尤もである。 「大丈夫です。普段は山に棲ませるんで」 「えぇっ!?ぼくまたひとり!?」 ぽん太の目が潤む。 「問題ない。辺境伯領でも野性の竜は飼っている」 野性は、飼っているって言わなくない? 「彼らと共に過ごすといい。ひとざみしくなれば、聖女の下僕として会いにくればいい」 「そ、それならっ!」 でも、話はまとまったみたいだから、いいのかな? 「それに、セラフィーネに早く解呪薬を!」 「そうですね、行きましょうか!」 こうして、無事にセラフィーネに解呪薬を飲ませることができ、セラフィーネは回復した。 「本当にありがとう、リリヤさま」 「いや、俺の方こそ。それに元はと言えばユッシの功績で」 「でも、解呪薬持って来たのはリリヤさまのお母さまでしょ?」 と、ユッシ。 「う~ん、らしい」 「では、代わりに。お礼をお伝えください」 「あ、う、うん」 俺もいつ会えるのか、分からないけどなぁ。 でもセラフィーネが良くなったのは良かった。 こうして、アレキサンドライト辺境伯領の活性期も落ち着き、辺境伯たちも辺境伯城に帰城することができた。 セラフィーネたちは解呪後落ち着いたらフェリックスたちと王都に帰還するらしい。俺たちもロードナイト辺境伯領にシュレヴィの転移で帰還した。 魔竜はユッシの下僕になり、ロードナイト辺境伯領の竜の棲み処にて暮らしている。その後はちょくちょく魔王に会いに来たり、ユッシと遊びに来たりしている。平和だなぁ。あれ以来、母さんの手掛かりはほとんどないけどなぁ。 そう言えばマティアスたちもアレキサンドライト辺境伯領に戻ったものの、全て終わった後だったためセラフィーネと一緒に大人しく帰ったらしい。 大人しく帰ったのは、セラフィーネのお陰だろうか? だけどアレキサンドライト辺境伯とシュレヴィが共同で陛下に苦情を出すと言っていたので、多分マティアスが陛下に怒られそうだなぁと何となく思った。

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