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第32話 原作の強制力症候群。

「あぁ、やっぱりこれは、原作の強制力症候群です」 ユッシが、静かに告げた。 「そんなっ、そうだったのですね。私にはどうしようもなくって。うぅっ」 そしてユッシの前で悲しみにくれるセラフィーネは、今日も今日とて可憐な受け男子な聖女である。 ここは王都の王城。 この前ちらっとアレキサンドライト辺境伯領にお邪魔し、ホームグラウンド・ロードナイト辺境伯領に帰還したわけだが。 今回俺はユッシ、シュレヴィ、イェレミアスと共に王城に招かれていた。 「悲しまないでくれ、セラフィーネ。私もセラフィーネの身が心配だったとはいえ、辺境伯に失礼をした。父上に怒られ、母上に魔法で最後におねしょした時の記憶を無理矢理呼び起こさせられ、一瞬靄が晴れたような気がした」 「マティアスっ」 マティアスが後悔したように告げる。 あの時の暴走っぷりがウソのようである。そして心配そうに傍らに寄り添うセラフィーネは、相変わらす聖女のようだった。いや、聖女さまなのだけど、 つか王妃さまもえげつないな。そんな方であっただろうか。それともマティアスの失態にはっちゃけたのだろうか。 「だが、セラフィーネへの愛は本当で、愛しているのに。私は、君への気持ちが何故か抑えきれないんだ、ユッシ」 マティアスはためらいがちにセラフィーネからユッシに目を向ける。 マティアスは原作通りではなくセラフィーネを選んだわけだが、だが原作に引っ張られてユッシにも惹かれていたのか。 今となってはマティアス×ユッシルートじゃなくて安心したけれど。 なったとしても、前世の記憶を思い出した瞬間、ユッシはマティアスにプロレス技をキメて逃げたと思う。今なら、確実にそう思う。 王太子に、プロレス技。 ――――――×セラフィーネルートにいってくれて本当に良かったぁ~っ! いくら聖女とは言え、さすがに王太子にプロレス技は、ちょっとなぁ。 不敬罪とかになったら困るし。 今となっては本当に良かった。 しかしながら、マティアスはセラフィーネと愛し合っていることは確実だが、原作に引っ張られてもいるんだな。 そしてマティアスの言葉を聞いたユッシは、静かにマティアスを見据える。 「だからそれは、原作の強制力症候群です」 うん。 そうだね。多分きっとそう。てか、そんな名称ついてたのそのテンプレ展開にっ!! 「その、限界の強精力症候群だったか?その治療はどうしたらいいんだ、ユッシ。私は君を見つめるたび、愛を囁きたくて仕方がないのだ!!」 重症だ。やはり重症なのだ。 しかしマティアスよ。 いろんなところがいろいろちっがああぁうっ!!! 「まっ、マティアスっ!」 セラフィーネがうるうると目を潤ませる。 セラフィーネ、セラフィーネはかわいらしい。慈愛に満ち溢れた素晴らしい聖女だ。しかし、天然だ。この子天然だ。 ツッコミどころめっちゃあるけどその包容力で全てまるっと包み込んでるぅ~~っ! いや、だからこそのセラフィーネなのだけどもっ! これでいいのか、これでっ!? 「いや、何かいろいろ違いますけど、まぁエロBLなので合ってなくもないですね」 だよねっ!?そうだよねユッシ~~っ!心の友よっ!っつか転生者友だちよっ! いやいや、それ以上にそうなのぉっ!? マティアスのも合ってるのぉっ!? そういやシュレヴィも強精力だけども!マティアスもなのか!?メインヒーローだからそうなのか!? 因みにシュレヴィだと限界は、ない!無限大である!! 「治療法としては、」 「治療法はっ!」 マティアスが息を呑む。セラフィーネも祈るようにユッシを見つめる。 「まず、俺の名前呼ぶのやめてくれます?マキシマム・Y・トルマリンって呼んでください」 いや誰それぇっ!? それとも何!?レスラー名なのかそれ! 「えと、ま、マキシ……」 いーや、だから何でアンタも真面目に呼ぼうとしてんのマティアス! 「後はですね」 そしてユッシが何事もなかったかのように続ける~~っ!! 「去勢するのが一番です」 きょ、去勢~~~~っ!? 「だ、ダメだっ!それはさすがに後継者がいなくなるぞっ!!」 マティアスの言うことも尤もである。 それに、セラフィーネの子どもならきっとかわいいだろうし。マティアスはどうでもいいけどセラフィーネの子どもはかわいがりたい。 くまちゃん贈ってあげよう。 だけど、セラフィーネの相手はやはりセラフィーネの愛するマティアスなのだし、マティアスが去勢されればセラフィーネが悲しむ。セラフィーネの顔に免じて、マティアスの去勢ルートは却下だな。 「弟殿下もいますし。ここは原作の強制力症候群の症状改善のためにも!」 はっ!?そう言うのもアリっ!? あぁ、でもやっぱりセラフィーネの子どもがみたい。 「うぐぅっ」 しかしマティアスめっちゃ真面目に悩んでるー。 何だかマティアスがいたたまれなくなってきたぁー。 「原作の強制力症候群っ!」 「そうです!原作の強制力症候群!」 マティアスとユッシの声が宝かに響く。 ーーしかしその瞬間、応接間の扉がバァンッと音を立てて開かれた。 「いぃや、んなわけあるかああぁ――――――――――いっ!!!」 あ、ツッコミ仲間、見つけたナウっ! 一方でシュレヴィは、俺の股間をじーっと見つめていた。やけに静かだと思いきや、相変わらずかいっ!!

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