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第33話 猛獣聖女ユッシ。

「いや、だから、そのっ」 さて、ツッコミ仲間が増えたことに、俺はドキドキしている。 「あの子は、一体っ」 ゴクリ、と唾を呑み込む。 「四番目の聖獣の騎士の、あ、サフィアス公爵は聖獣の騎士になれなかったから四番目じゃなかったけど、原作では四番目の聖獣の騎士ですね」 え、四番目のっ!? と言うか、ユッシ!それは言ってやるな!今オリヴェルがいないとはいえ、なんかかわいそうだからやめたげてっ! 本人は気にしないと言わんばかりに仕事に打ち込んでるし、むしろ気にしてるからこそ考えないようにと寝る間も惜しんで仕事漬けにしているらしい。 何故そんなことを知っているのかと言えば、セラフィーネからお手紙をもらった中に書いてあった。 セラフィーネが心配してるから、あまり思い詰めないで欲しいのだけど。 まぁ、俺も実家にいた頃は迷惑かけたし。 「四番目ってことは、あの子がクォーツィ公爵令息の!?」 彼は原作のシーズン3で登場する最後に仲間になる騎士だ。 名前は確か……。 「シェリル・クォーツィ公爵令息か」 「ですです」 シェリル・クォーツィ公爵令息はシーズン3で初めて登場する。 クォーツィ公爵家の庶子として生まれたシェリルは平民として生まれ育つ。だが母親が亡くなり、公爵家に引き取られたのだ。 その後、公爵家でも平民の血が混ざっているとバカにされ、冷遇される。異母兄が2人いるが、兄弟とはみなされない。さらには兄2人が発現できなかった聖獣の騎士の力を開花させ、異母兄たちに嫉妬されていじめぬかれる。 元々クォーツィ公爵が彼を引き取ったのも、兄2人がその力を発現できなかったから。 そしてクォーツィ公爵の目論みは当たった。 聖獣の騎士のせいで理不尽な扱いを強いられたシェリルは、聖獣の騎士であることが苦痛で、大嫌いだった。 そして自分の主になり得る聖女ユッシにもきつく当たる。 しかし、原作ではユッシの優しさや温かさに感化され、自分の使命を受け入れ聖女ユッシと共に歩んでいくことを決意する。 まぁ、現実のユッシなら、多分力でねじ伏せるからシェリルを感化させることは難しいかも。むしろ拳で語り合おうとしそう。シェリル泣かしそう。 目の前のシェリルはツッコミ仲間とはいえ、薄桃色の髪にアメジストの瞳を持つ華奢な少年だ。思わず守ってあげたくなるような、かわいらしい子だ。 ――――――確実に、泣かされるっ!! しかし現実では本来のユッシの役目を担っているのはセラフィーネだ。 まさかとは思うが、セラフィーネに原作通りのことをっ!? いや、心も存在も聖女なセラフィーネなら、シェリルを温かい心で受け入れてくれるのだと思うけど。 ブラコン・ヴィリリアンやセラフィーネ大好き・フェリックス、謹慎させられていたとは言え、セラフィーネとラッブラブなマティアスもいるんだしセラフィーネは大丈夫だと思うけど。 「その反応、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。トルマリン男爵令息、ロードナイト辺境伯夫人。別室に来てくれる?」 シェリルが不機嫌そうに告げる。 その反応って、どういう? 俺とユッシの会話内容は……シュレヴィやイェレミアスは俺たちが転生者たと知っているし、2人でその会話をしても奇跡的に付いてきてくれる。 いや、違うか。シュレヴィは俺の蜜の話しかしないし、イェレミアスはわんと鳴くだけだ。次元が違うので、渡り合っているように見えるだけだっ! しかし、シェリルくんには思うところを持たれてしまっただろうか?それともまさかシェリルくんまで転生者っ!? いやいや、そんなまさかぁー。 「校舎裏に、呼び出し?果たし合いって、ことですよね」 ユッシが目をギラリと光らせながら、指をバキバキっと鳴らした。 いや、(ちげ)ええぇ――――――っ!!! そもそも校舎裏じゃないし!ここ城だし! 別室って言ってたよね!?多分屋内だよ!校舎裏でも王城裏でもないからああぁっ! ※※※ そんなわけで、一旦セラフィーネとマティアスの元から移動してきたわけだが。 「いや、何で辺境伯さまとその弟君まで?」 シェリルが呆れたように呟く。 う、うん。見事に2人とも付いてきちゃったね。特にイェレミアスはユッシにリード持ってもらってるから、ユッシがリードを放さない限りは付いてこざるをえない。まぁ、イェレミアス本人はそっちの方がいいらしいから断ることもないだろう。 いや、ほんと何でこのカップルはこう、えすえむ化してんだろう。たまにイェレミアスもユッシに技かけてもらってるからね。 イェレミアスはユッシと密着できて至福の表情を浮かべるからね。 「あの、えと」 シェリルも転生者なら、そのまま話ができるかもなんだけど。 「どうせ、自分が転生者だから俺たちもって話なんだろ?」 ユッシが腕を組み、告げる。直球ーっ!でも時にはその直球さも必要なのかも。 「俺を表に出させたんだ。やるなら、かかってこい」 いや違うぅっ!ユッシのそれ確実に違うぅっ!! 「いや、その、いきなり何なんだっ!?」 さすがのシェリルも戸惑ってる。 「あの、これからプロレス技仕掛けられるからって言う、意味だよ」 親切に、教えてあげた。 「は?」 きょとんとするシェリル。 ――――――そして、 「受けとれやあぁっ!!!」 ユッシが勢いよくシェリルに迫る。 「はっ!?」 戸惑うシェリル。 迫るユッシ。 ユッシの蹴りが、シェリルにヒットする。 異世界特有何かものすごいジャンプ力キックであった。 「ぐっはああぁっ!!!」 シェリルがバタンと倒れた。でも安心してくれ。拳で語り合った後のユッシは、ちゃんと回復させてくれるから。一応聖女だから。プロレス聖女とか猛獣聖女とか呼ばれてるけど、聖女だから。これでもセラフィーネと同じ、聖女だから。

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