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第35話 幻想の中の天使。
「まぁ、ここに転生者仲間が揃ったことだしさ、仲良くしようよ」
ここは気を取り直してねっ!
「まぁ、そうですね。転生者じゃない方もいますけど」
あぁ、それはウチのシュレヴィさんとイェレミアスかな。まぁ、2人は2人で事情を知っているのでいいのだけど。
「それで、シェリルくんはおうちでは大丈夫なの?原作では確か……」
冷遇されていたはずだ。
「別に。兄たちは原作通りではなく、ブラコンだったので」
マジかよっ!
因みにウチはブラコンのブの字もなかったわっ!!主に俺の破壊癖のせいでねっ!
だけどイェレミアスの場合、破壊癖があってもシュレヴィはかわいがってきたようだ。イェレミアスは原作ではブラコンなのでは?と、ふと思ってしまったのだが、現実でも兄のシュレヴィを慕っているのだ。
俺にとってはイェレミアスは義弟なので、素直に嬉しく思うし、イェレミアスをかわいがってくれたシュレヴィには感謝しかないなぁ。
イェレミアスとは似たような破壊癖を持っていたわけだし。
シュレヴィが破壊癖のあるイェレミアスを嫌わず弟としてかわいがってきたそのお陰か、イェレミアスは兄を慕う優しくて気の利く好青年である。今ではユッシともラブラブ一直線である。
「兄×弟?弟×兄?」
ちょとーっ!?今結構いい話風な解説してたのに、いきなりマニアックなとこ突き詰めてるよユッシ~~っ!?
「そっちとちゃうわぁっ!いや、好きだけどっ!その、好きだけどっ!2人とも婚約者いるしぃっ」
いなかったら、アリなコースに行っていたのだろうか。と言うか、シェリルくんもノリノリやんけ。めっちゃノリにノッてるやんけ。
「でも、ぼくは冷遇なんてされてない。セラフィーネさまが聖女になってから、真っ先に公爵家としてご挨拶に行ったし。討伐ではぼくの力は充分に発揮できずにお留守番だったけど」
シェリルくんは原作の知識があったから、原作よりも前にセラフィーネと合流してたんだ。
因みにシェリルくんは俺たちより一歳年下。学園では侯爵令息のリクハルトらへんは学年は違えど高位貴族どうし交流があったかもだけど。
俺は同級生の中でも目立つ顔以外は分からないから、後輩なんてもっと分からない。
きっと後輩からも恐れられていただろうし。
「学園では、セラフィーネとは交流を?」
「まぁ、一応公爵令息同士だったし。でも、ユッシがいたから、あんまり近寄らなかった」
え、ユッシが?
「ぼくも、多分原作の強制力に引っ張られそうになってた。時期はまだ早いはずなのに。だから学園では、セラフィーネさまや殿下、リクハルトたちの側には行かなかった。あんたはヒロインとして、殿下やリクハルトたちの近くにいたから」
そう言うと、シェリルがユッシを見やる。
「まぁ、あの頃はねぇ。記憶、戻ってなかったし」
俺もユッシも、前世の記憶を思い出したのは断罪劇の時だった。
一方でシェリルは物心付いたときにはその記憶があったらしい。
「なるべく、ヒロインには関わらないようにしたかった」
「まぁ、俺も学園では会ったことはなかったかも。本来なら高位貴族令息の側にも行かない身分だったからね。父親の功績があったから、絶対にあり得ないわけでもないけど」
そういや、トルマリン男爵は英雄だもんな。
「でも、今は平気なわけ?」
と、ユッシがシェリルくんに問う。あれ、そう言えば。
「さっきまで、あんたさたちが殿下たちと一緒にいた時、ぼくも引っ張られそうになって、遠くから様子を窺ってたんだ。我慢できずに入っちゃったけど」
うん、ツッコミ担当にとって、ツッコミどころでツッコめないのって辛いものな。
わかるぅー。
「その後は、ツッコミどころ満載で、強制力が気にならなかった」
ツッコミ心は、強制力すらはねのけるとっ!?しかし、いつまでもツッコミしてる訳にもいかないからなぁ。
「けど、だんだんと不調が出てきた。強制力なんだろうな。アンタに惹かれるぼくが、いやでいやで、仕方がなかった」
うん、自分の本心とは別に気持ちが持ってかれるのだ。きっと辛い。
破壊なんてしたくなくても、本当は仲良くなりたくても、溢れ暴れる魔力をどうしようもなく周囲に放つことしかできなかった。
――――――まるで、あの頃のように。
「でも、アンタに蹴り飛ばされて、少し頭がスッキリした。何か分からないけど、悔しいんだけど、今は平気だ」
まさかのユッシ渾身の蹴りの影響――――――っ!?さ、さすがは拳で語り合い、もしもの時は力でごり押す聖女ユッシである。
「それに原作のユッシと全く違う!原作のユッシの一人称は『ぼく』だし」
え、そうだったの?さすがに一人称まではノートに書いてなかったから知らなかった。
「印象も違うし、格好だってもっとかわいらしかったもんっ」
なんだろうな。頬を膨らませるシェリルくんがリスみたいでかわいいんだけど。
「フリルチュニックじゃない!」
フリルチュニック~~っ!?いや、想像できないんだけど。プロレス聖女ユッシが、フリルチュニック!?因みに現在は部分鎧を着けた騎士風の格好である。これで聖女だと言われても、多分みんな気が付かない。けど、出で立ちは似合っているから、フリルチュニックと言われてもイメージが沸かない。むしろセラフィーネに似合うよね、フリルチュニック!
「うぇっ、アンタなんて好きだったユッシじゃない~~っ!!!もうぼくが好きだった天使は幻想の中についえたんだぁっ!!お前なんて悪魔だ悪魔っ!いきなり蹴り入れてくるし~~っ」
現在のユッシ、どんだけ聖人だったんだろうな。何だか夢を壊してしまって申し訳なく思えてくる。
「え、でもえすえむユッシもあったじゃん」
そう言ってユッシがイェレミアスのリードを引けば、イェレミアスがポッと頬を赤らめる。
「どえむイェレパロっ!!!」
シェリルくんがハッとしたように叫ぶ。
いや、なんだよそのパロ!どえむ!?
このえすえむプレイに元ネタがあったのかっ!?
「あぁ、リリヤさまは原作知らないから驚いてんですね」
「え、リリヤさま知らないの?」
ユッシの言葉にシェリルくんが意外と言う視線を送ってくる。
「うん、ユッシに教えてもらって知ったんだ」
「そうなんですか。実は裏ネタで、イェレミアスがどえむってのがあって、ユッシとえすえむプレイするどえむパロがあったんです。まさかそっちに行ってただなんて」
いや、なんであんな鬱展開で終わらせといて何つー裏ネタをぉっ!しかもパロったんかいそれでっ!そして現実では、2人は見事なわんちゃんと飼い主さんなえすえむかぽぉっになっていた。
「あと、これが原作のユッシです。絵は得意なんですよ」
そう言ってシェリルくんが見せてくれたのは、
「え、ダレこの天使」
そこには、神のごとく神々しい美少年が描かれていた。
「俺ですね」
と、ユッシ。
「ええぇ~~っ!?」
こ、これはそのー……言いづらいのだけど。百年の恋が解けたとしても……可笑しくはなかった。
「俺は今のユッシが好きだ」
「イェレっ!」
でもユッシとイェレミアスは今が幸せそうだから、いいのだろうか。
「そうだ。殿下にもユッシがプロレス技をキメれば、症状が落ち着くのではないか?」
ふと、シュレヴィがもらす。
「そ、それはさすがにっ!結婚をっ!とにかくユッシとイェレミアスが結婚すればすむかもしれないんだからぁっ!!!」
とりま全力で、却下させていただいた。
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