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雪緒の事ばかりを考えながらも、年末の忙しさをなんとか乗り切った────クリスマスイブ。 『知らないよ~、今年のクリスマスもぼっちになったってさ?』 アイツの台詞から、きっとなるだろうと予想して。俺は浮わついた思いを抱え、自宅へと急ぐ。 「あ……」 自宅前まで来て、人影があったことに安堵して。 にやけそうになるのを堪え、その人物に早足で駆け寄ったのだが… 「田中、さん…」 「君は───」 それは予想とは違う来訪者だった。 「えっと…」 話がしたいからと言われ、寒いだろうと中に招いたまでは良かったが。 「田中さん、クリスマスは独りだって…恋人もいないって聞いて…」 まさかまさかの展開に、俺は目を丸くする。 「私っ…ずっと田中さんの事を─────」 そんな時、本来の待ち人はやってくるわけで… 「雪緒…」 「めりくり~!やっぱり今年も寂しいクリスマスしてると思って、慰めに…」 チャイムの音に玄関の戸を開けた瞬間、バツが悪そうにしてしまった俺に。雪緒の表情がピシリと固まる。 更には… 「お客さん、ですか…?」 顔を出してしまった、先の来訪者との鉢合わせに。雪緒の表情は一気に冷たくなってしまった。 咄嗟に口を開こうとしたら、 「なぁんだ~、ちゃんといたんじゃん彼女…」 邪魔しちゃったじゃーんと、ニコニコしながら告げる雪緒は、勿論笑ってなどいない。 むしろ今にも泣き出しそうな顔で、無理矢理に取り繕おうとしてるし… 「違うんだ、雪───」 「も~いいよ~、隠さなくってもさ~」 聞きたくないとばかりに、言葉は遮られ。 雪緒は先の来訪者に向けゴメンね~と、下手くそに笑ってみせた。と… 「邪魔者は、すぐ退散すっから…」 「おいっ、雪緒…!」 呼び止めてみたものの、雪緒はすぐさま踵を返して。逃げるよう駆け出してしまう。 「あのっ…」 後ろでは先客の狼狽えた声が、掛けられるも… 俺の耳には既に届かず。 無意識に雪緒の背を追いかけ、走り出していた。 「ッ…なせよっ……!」 「落ち着け、雪緒…」 「なにがっ…ど、して…追っかけてくんだよ!」 靴も履かぬまま後を追い、アパートの下で早々捕まえた雪緒は。困惑した様子で俺から顔を背け、抵抗してみせる。 体格差的に力も俺の方が強かった為、それは虚しく空回ってはいたが…。 「彼女、待ってんだろっ…行けよ、バカっ…」 「雪緒…」 あの状況ならば、仕方ないだろうけど。 勘違いしてる雪緒は駄々を捏ねる子どもみたく暴れ、何を言っても聞いてくれなくて。 俺は掴んだ手に、力を込める。 このままじゃ、埒があかないと悟った俺は。 説得を諦め、黙って雪緒の手を引くと…自室へと無理やり足を向けた。 「ちょ…痛いって、ばっ…」 「いーから、黙ってろ。」 嫌がる雪緒を一蹴し、俺はずるずるとコイツを引き摺って階段を駆け上がる。 そうして部屋まで戻れば、やはり先客が中で待っていたのだが… 「ほら、彼女…困ってんじゃんか…」 今にも泣きそうな顔でぼやく雪緒を一瞥し、 俺は先客へと向きなおる。と… 「悪いが、帰ってくれないか?今日はコイツと約束してたんだ…」 「え…?でもっ…」 俺の放った台詞が信じられないとばかりに驚く雪緒と、同じくらい傷付いた表情を浮かべた彼女。 さすがに良心は痛んだが… 今は非常時、申し訳ないと俺は深々頭を下げた。 「ごめん、改めてちゃんと話するから…」 今日は帰ってくれと真摯に頼めば、彼女は暫く考え込んでしまったものの… 「解りました…」 そう答え、彼女は涙目めになりながらも。すんなりと帰ってくれた。 途端に微妙な沈黙が、俺と雪緒に降りかかる。 「な…」 状況が把握出来ず、茫然と立ち尽くす雪緒の顔を見下ろせば…信じられないとばかりに睨み返されて。 俺は思わず苦笑を浮かべる。 「せっかく、彼女が来てたのに…」 「彼女じゃねえよ。」 「………は?」 「あのコは彼女じゃない。ただの…会社の同僚だ。」 仕事を終えて帰ってきたら、玄関前にいて。 実はさっき告白されたんだと、正直に答えると… 雪緒は更に眉を顰めてしまう。 「だったら…尚更、可笑しいでしょ!?」 クリスマスに、あんな可愛いコの告白を無下にして。あっさり帰しちゃうだなんて勿体ない─── 雪緒の反応は、まあ…最もなんだが。 「好きでもないのに、付き合えないだろ?」 即答すれば、あり得ないと雪緒は溜め息を漏らした。 「じゃあお前は、俺が好きでもない女と付き合った方が良かったってのか?」 「それはっ…」 意地悪だと分かってたが… 問えば雪緒は、あからさまに動揺してみせて。 そんな姿にさえ俺は、不謹慎だと自覚しつつも。 つい…にやけそうになってしまう。

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