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②
「お、今日は鍋か~。寒くなってきたもんなぁ。」
「熱燗も用意するからね~。」
オレがエプロンを付け夕食の仕度をしてるのを。
智久さんがネクタイを緩めながら、覗き込んでくる。
オレがその何気ない仕草や近い距離感に、内心ドキドキしてる…だなんて。
知りもしない智久さんは嬉しそうに笑いながら、シャワーを浴びに行ってしまった。
それにもよからぬ妄想をしたのは、言うまでもないよね…
「もうすぐ1年だなぁ~、」
お前と出会って。
ほろ酔い気分で、染々と語る智久さんの声に耳を傾ける。
「ひとり暮らしなんて、ホント味気なかったけどな…」
お前がこうして来てくれて、美味い飯まで作ってくれて。感謝してるんだとはにかむ智久さんは、やっぱりちょっと酔ってるのかな。
「やや…ご飯代とか、全部出してもらってっからね…」
時間が合う日は、オレの地元まで車で迎えに来てくれるし。ご飯の材料費だってしっかりもらってる。
手料理なんてさ、女子が男を餌付けする格好の常套句であって。オレが智久さんに下心バリバリで、勝手にしてることなのになぁ。
さらっとそういうコト、やってのけちゃうだなんて。も~ほんとズルくない?
「いいんだよ、俺がお前に甘えてんだから。」
お前にもバイトや家族の事があるのに悪いなって、赤い顔して苦笑する智久さんに。オレは思わず胸が締め付けられる。
いつから、なんて知らないけど…。
多分、出会った時からオレは、この人に…惹かれてたんだと思うよ。
失恋で傷付いた、行きずりのオレなのに。
この人は隔てなく優しくしてくれたからさ…。
「帰るのか?雨、酷いだろ?」
夕食の後片付けを終え、終電ギリギリに帰る素振りを見せたら。案の定、智久さんから呼び止められて。
「いつも言ってんだろ~」
遠慮せず泊まってけって、それは片想い中のオレにとっては願ってもない申し出なんだが。
同時に複雑なもんでも、あるんだよねぇ…
本人無自覚だから余計にだし。
「どうせ明日も休みだろ?」
「まあ、そだけどさ…」
食事代に交通費、加えて泊まりまでなんて悪いじゃん?…って、毎回同じ言い訳でスルーしようとするけども。
「俺も明日休みだし…。なんだったらドライブがてら何処かに遊びに行かないか?」
好きな人にそんな甘言で誘惑されちゃったらさ…
「なら、泊まっちゃおうかな~…」
我慢なんてまず出来るわけが────ないじゃんね?
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