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「ふぁぁあああああ。」
カーテンの向こうから、ハヤトの大あくびが聞こえる。つられて、少年もあくびをしている。ハヤトが潰れたら、護衛に支障が出る。防弾の車体だが、道半ばで違う組織に誘拐されたりするのは避けたい。ハヤトが危ないし、お金が貰えないのも困る。ちょっとだけ速度をあげて、ホテルを目指す。
「んー。あと、どんくらい?」
「もう、着く。」
「ふぁぁぁ、そう。」
0時過ぎ、ホテルの駐車場に車を停めて、少年を抱え、エントランスに向かう。俺たちの他に人が居ないようだ。組織が経営していると言っていたので、普段から利用者は少ないんだろう。メールで受け取った番号を無人機に入力してカードキーを発券する。
「ほら、行くぞ。」
「はぁい。」
カードキーを少年に持たせて、寝落ちしそうなハヤトの手を引く。監視カメラがほとんど無い館内を歩き、部屋に入ると中は意外と広くて綺麗だった。
「あー、疲れたぁ。」
ボフンと音を立てて、キングサイズのベッドにハヤトが寝転がる。
「パーカー脱がないと、シワになるぞ。」
「はぁい。」
「こいつとシャワー入ってくるから、カメラとマイクのチェック頼んだ。」
「はいはい。組織の建物なんだから大丈夫でしょ。」
「念の為だよ。」
「はぁい。よっこいしょ。」
身体を起こしたハヤトを見遣り、バスルームに少年と二人で入る。
「服、自分で脱げるか?」
「うん。脱げる。」
セーターを脱いで、Yシャツのボタンを外す。少年はトレーナーを脱いで綺麗に畳んでいる。どこでも買えそうな量販品のトレーナー。身に付けていただろう高級品は今頃売りに出されてるんだろう。骨までしゃぶり尽くすのは当たり前だ。裸になった少年を抱えあげてバスタブに入れる。お湯を出して頭から被り、その温かさに大きく息を吐く。いつもならハヤトと軽口を叩きながら運転する距離を、独り黙って運転するのは疲れた。目の前の少年にもお湯をかける。一瞬、びくりと跳ねたが温かさには勝てなかったようで、少年も大きく息を吐いた。
「自分で洗えるか?」
「うん。でも、被るの無いよ。」
「被るの?」
「頭洗う時のやつ。」
おそらくシャンプーハットの事だろう。随分前、橋本院に居た頃に小さい子に被せていた。
「髪は俺が洗ってやるから、目瞑ってろ。」
「うん。」
ぎゅっと目を瞑るので、シャンプーを手に取って洗っていく。指の腹で頭皮を洗っていくと、想像以上にベトベトしていた。冷や汗もかいただろうし、何日も風呂に入って無いんだろう。
「まだぁ?」
「もうちょっと。お湯で流すから、口も閉じて。」
「ん。」
ぎゅっと目と口を閉じるのを見て、素早く流していく。埃っぽい所に居たのか、お湯が少し黒っぽい。
「出来たぞ。」
「ありがと。」
「俺も洗うから、向こうむいて、もうちょっと目瞑ってろ。上から泡が飛ぶ。」
「分かった。」
素直ないいやつだ。ハヤトが可愛がるのも分かる。橋本院でチビ達を風呂に入れてた頃に比べれば断然ラクだ。頭と身体を洗って、向き直す。
「もういいぞ。」
「うん。」
「ほら、ボディソープ出してやるから自分で洗え。」
「うん。分かった。」
小さな手にボディソープを出してやると、身体を擦りだす。
「あのさ。」
「うん?」
「おじさん、身体大きいね。」
「……鍛えてるからな。」
おじさんと呼ばれた事に多少の葛藤はあったが、まぁ、この年頃じゃ高校生以上はみんなおじさんだろう。
「ぼくも大きくなれる?ちっちゃいから捕まっちゃうんでしょ?」
どこか聞き覚えのある質問をした少年は、怖さを思い出したのか、小さく震えている。しゃがみこんで、身体を擦って洗ってやる。
「……もう少し大きくなれば自分の身は自分で守れるようになる。」
「ほんと?」
「護身術でも習えばいい。親に頼んでみろ。」
「……うん。」
「大丈夫。そのうち会える。」
「うん!すぐ会えるよ。」
親に会えなくなるなんて、微塵も思っていないような目で、俺のことを見ている。『何度捕まっても解放されてきたんだ。耐えていれば、また会える。』そうやって身を心を守っているんだろう。せめて、今回も引渡しまでは安全に連れて行こう。
「ほら、流すから。お湯、熱くないか?」
「うん。大丈夫。」
もう一度同じ服を着て外に出ると、ハヤトがベッドに突っ伏して寝ている。上着だけは脱いで椅子にかけてあったので、そのまま寝かしておく事にした。幸い、部屋の空調はちょうどいい温度になっていて、何もかけずに寝ても風邪はひかないだろう。少年に水を飲ませ、もう一度、風呂場に連れて行く。歯磨きとトイレを交互に済ませると、ハヤトの横に少年を寝かせ、その横に寝転んだ。ベッド幅ギリギリだったが、ハヤトはなるべく端で倒れて居たので、こんなもんだろう。どうせ短時間しか寝ない。これでいい。
「おじさん。」
「うん?どうした。」
「ポンポンして。」
「分かった。」
念の為と、バスローブをかけてやった少年の身体をポンポンとリズムを取りながら叩く。すると、すぐに寝息が聞こえてきた。
「はぁ。」
小さな寝顔を見つめる。両親に会えると疑わない力強い目を思い出す。過去の俺もあんな目をして、また親に会えると思っていた事があったのだろうか。両親が死んだ事を思い出すまでは、漠然とそう思っていた気がする。
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