28 / 113
第28話 一芝居 ーエイプ・フリーレルー
ディッセン・アルーバから引き離して、抱きとめた神子様のお身体は軽かった。
「アルーバ家は何をしているかっ?! 神子に対しての無礼。その命で償うか!!」
ラリー殿下が怒りの感情のまま剣を抜き、ディッセン・アルーバの喉元に突きつけた。
剣の切っ先が触れているところから一筋の血が首を伝う。
「あ、ああ………」
「申し訳ありません。ラリー殿下。神子様、兄をどうかお許しください」
「お許し…ください」
ディッセン・アルーバはガタガタと震えている。
「いいや許さぬ、その生命で贖 えっ!!」
「ラリー殿下お待ち下さいっ!! 神子様からお言葉です!!」
すでに意識のない神子様に耳を傾けて聞くふりをする。
聞こえてくるのはで苦しそうな呼吸だけ。
「はい、わかりました…神子様はおっしゃってます『ディッセン・アルーバ、お前の罪を許そう、だが次はない』と」
「「!」」
「こんな奴、殺してしまえば良いものを。くっ………神子の温情に感謝するんだな」
ラリー殿下は怒りを抑えられない様子で、悔しそうに剣を鞘に戻した。
危なかった。
咄嗟についた嘘だが、どうにか間に合った。
やっと揃った勇者をラリー殿下の短気で2名も失う所だった。
「「有難うございます。ラリー殿下。神子様、温情に感謝致します」」
これで済んだと思うな。
アルーバ男爵家の兄弟勇者には重い罰を科してやる。
覚えておけ。
それよりも早く神子様のお身体を休めないと……もう一芝居だ。
「! 神子様っ?!意識がない!!救護班急げ神子様をお部屋に丁重にお連れ………いや、私が直接治療にあたる!!祝福の義式は、ここで中断させていただきます。ウロタ、滋養強壮薬を持ってきなさい」
「はいっ!」
私は神子様を抱えて式場を出てお部屋へと急いだ。
その行動を止めたり文句を言う者は誰もいなかった。
ともだちにシェアしよう!