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第29話 明日の約束 ーエイプ・フリーレルー

ベッドに寝かせ診察をすると、思っていた以上に神子様の衰弱が激しかった。 ディッセン・アルーバめ… 「神子の具合はどうなっている?」 「ラリー殿下!……薬とお身体を休めればお元気になられるかと思います」 息を切らして追いかけてきたラリー殿下は、真っ青な顔で横たわる神子様を心配そうに覗き込む。  「力を授ける行為は神子様のお命を削るようです。横でお顔を拝見しておりましたが、祝福を授けていくたびに顔色が悪くなってました。ディッセン・アルーバ様が根こそぎ持っていったので倒れてしまわれたのかと」 「やはりアルーバ男爵家全員に死を持って償わせよう!!」 「お待ち下さい、ラリー殿下!! 神子様がお許ししたのに、殿下が手を下したら神子様のお顔に泥を塗ります」 「黙れ!! 私に指図するなっ!!」 「神子様はラリー殿下以上にお辛かったはずです。異国からいらした神子様が、我が国のために我慢なさったのですよ。それを無駄にするのですか」 「ではどうしろというのだ!!」 「…私に少し考えがあります。ラリー殿下お耳を拝借…………するのはいかがでしょうか?」 「ははははははは、これは愉快。面白いことを考えるな、フリーレル。その罰則、気に入ったぞ」 「恐れ入ります」 「早速、国王に伝え命令書を作成しよう」 「ラリー殿下、もう一つご報告があります」 「何だ?」 「私の弟子、エルが神子様のお子を授かりました」 今まで機嫌の良かったラリー殿下の顔から笑みが消えた。 「!!!  フリーレル!貴様っ!どういう事だっ!」 「………ラリー殿下がいけないのですよ。本日も祝福の儀式の出席を拒否されていたのをやっとの事でお連れしました。ラリー殿下は、神子様の初めての密契の儀式を乱暴に扱われたでしょう。神子様は凄く怒ってらっしゃいました」 「!!………貴様、私のせいだというのか!!」 「ではどうしてこうなったのでしょうか?あの日、殿下が退室された後、神子様の傷を癒やすとお部屋で大変荒れておられました。男を見たくないだろうと私も気を使い。席を外したときに起こった出来事でした。神子様はおっしゃいました。『自分がされたことをエルにしてやった。』と………そして私の弟子が子を宿しました」 「くっ………本当にそれは神子の子供なのか?」 「腹部に神子様の子を宿した受胎の黒い紋様が現れてます」 「!!」 「……言い伝えとは少し異なりますが、エルがこの国の……」 「言うなっ!フリーレルっ!!」 私の言葉の先には絶望しかないと気づき、遮るようにラリー殿下は怒鳴りつけた。 「…この件は私の方で処理する。良いな?」 低く鋭い声には逆らうなと言う命令が含まれていた。 「はい、ラリー殿下。殿下におまかせ致します」 深く頭を下げるとラリー殿下に足早に出て行かれた。 「ふう」 ………エル……… ラリー殿下が今から私の代わりに会って下さるよ……… ………明日の約束はもういらないね。

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