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第61話 契の盃
今日は水属性で唯一、儀式を行なっていないセプター・バンテールが魔法学園に来る日なんだけど、いつ来るかわからないからエイプの命令で早朝から薔薇風呂に入れられ、今はオイルマッサージをされている。
ああー、気持ちいー💗
気持ち良くウトウトしていたら、セプター・バンテールが来たと連絡が来て慌あわててエイプが迎えに行く。
軽いノックの音に起こされて「失礼します」と聞き慣れたエイプの声とともにドアが開く。
マッサージ師をエイプが下がらせた。
ガウンにしぶしぶ袖そでを通す。
「ふわあぁぁ」
あくびをしながら、やっと来た勇者に目をやると不機嫌そうなセプター・バンテールが頭に包帯を巻いて入ってきた。
服装は今すぐにでも討伐に行くような格好をしている。
なんだコイツ? ここに来る前にどこかで戦ってきたのかよ。
「お待たせしました。神子様、お連れしました」
「神子様、お久しぶりです。セプター・バンテールです」
「ああ、待ちくたびれた」
俺はベッドから降りると準備されていたワゴンのクーラーバケツに入ったワインを手にとった。
「神子様申し訳ありません。私はご遠慮いたします。これから魔物討伐に行くのにワインを飲むわけにはいきませんので」
やっぱりエイプの調査した通りコイツは『密契の儀式』をしないで討伐に行くつもりなんだな。
「バンテール様は祝福の儀式も密契の儀式もおこなっておられない。せめて 契 の盃 は受けていただかないと」
「 契の盃 …ですか?」
セプターが驚いた顔をしているから吹き出してしまいそうになる。
知らなくて当然だ。この惚れ薬入のワインを飲ませるために作ったエイプの嘘なんだから。
ニヤつく顔を見られまいとセプターに背中を向けてワインを二つのグラスに並々と注ぐ。
一つをセプターに差し出した。
「お前は全部の儀式を拒否して何様のつもりだ? 契の盃すら飲めないなんて、お前のせいでこの国が魔物に襲われて滅んだらどう責任をとるんだ?」
二つの儀式をしていないという後ろめたさと、この国全体の命がかかっていること、そして盃をかわすだけで身体を接触する儀式ではないと安心しているところを狙った作戦だ。
さすがにこれは拒否は出来ないはずだ。
セプターがワイングラスを受け取った。
「あの…私は酒が強くないですから、これを飲んだら自室に戻っても宜しいですか?」
「宜しいですよね、神子様」
「ああ、構わない」
このワインは一口飲んだだけで身体が熱くなり、必ず『密契の儀式』をせずにはいられなくなるらしいから、自室に戻るなんてことは無理だろうけどな。
「では、いただきます」
エイプはセプターの視界に入らないように窓の方へと後退りする。
一口、口をつけるだけかと思ったらセプターはゴクゴクと一息でグラスを空けた。
全部飲んだ!
おい、一口で惚れるって言ってたのに全部飲むなんて、コイツどうなるんだ?!
エイプの様子を伺うと目を見開いてセプターを凝視している。
マジかよ。想定外だったのかよ!
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