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第106話 御子の髪色 -ガストー・サオマ-

受胎印が光った日から丁度14日目。   予定通り 今朝、神子様が産気づいて分娩室に担ぎ込まれた。 俺達、勇者全員はこの日を待っていた。 神子様がご懐妊されてから俺達勇者は魔法学園に缶詰めになっている。 これは大昔、国王になりたい勇者が御子をすり替えるという事件をおこしたことがあったからだ。 それからは不正が行えないように互いを監視するためということと、夫となる勇者は出産に立ち会うため魔法学園にいなくてはならない決まりになった。 今 俺達は分娩室の向かいにある大部屋に勇者10人で待機している。 ラリー殿下とフリーレル様はのんびりとお茶を飲んでいる。 オークト様は男性の分娩を研究したいから分娩室に入りたいとおっしゃっていたが、もちろん例外は許されず却下され、未練たらしくドアの前に張り付いている。 ローガックス様、ショーカ様、アリージャは、ずっとソワソワして落ち着きがない。 マーチは、両指を組んでぶつぶつと何かを祈っている。 メイゴは小さくなって居心地が悪そうに時折周りの様子をうかがっている。 セプターは俺の隣でただ俯いて座っているだけだ。 「セプター、これが終わったらバンテール邸に送っていくよ」 ぴくっと身体を震わせるけど何も語らない。 「屋敷のみんなもお前のことを心配しているはずだ。………大丈夫、お前が嫌なら俺は二度とバンテール邸には行かないから」 わかっているんだ。 俺が行けば屋敷のみんなが結婚を祝ってくれる。 リーフから祝福の言葉を言われるのが嫌なんだろう? 会えなくなるのは辛いが、お前がリーフと二人で仲良くしている所を見たくない。 俺がお前に望むことは ただ幸せになって欲しい、それだけだ。 「ガストー…お前」 やっと顔を上げて目を合わせてくれた。 俺は無理に笑顔を作って明るくおどける。 「どうせ国王が決まったら全員魔法学園を出て行かなくちゃいけないんだ。居心地がいいからって、いつまでもここに住んでいられないんだからさ。うちに帰ろうぜ」 「そうだな、うちに帰るか ふふ…」 良かった。 少しでも笑えるくらい元気になってくれた。 部屋の外から元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。 俺とセプターとメイゴ以外の勇者達は一斉に立ち上がりドアを開けて分娩室に向かう。 「ほら俺達も行こうぜ」 二人の重い腰を上げさせて、3人で遅れて勇者達と合流する。 丁度ドアが開き、顔色の悪い助産師が出てきて現在の御子の状態を告げる。 「無事にお産まれになりました。立派な皇子様です。只今、産湯にお浸かりになっております。もう暫くお待ちください」 「皇子様が産まれたのですか、さすが神子様、ああ、私も立ち会いたかった…」 「おい、それより赤子の髪は何色だ?!」 ラリー殿下が威圧的に助産師に詰め寄る。 「それはあの、すぐにお連れしますのでラリー殿下少々お待ちください」 「ラリー殿下、あの様子では御子は…ふふふ、ははは」 「おめでとうございますラリー殿下」 ラリー殿下の従者達が口々に祝いの言葉を述べる。 「まだ祝いの言葉は早いぞ。御子を見てから祝いを申せ」 そう言いながらも顔は緩み自分の子供だと確信しているようだ。 「お待たせいたしました。神子様がお産みになった。御子様でございます。」 赤ん坊の泣き声がだんだん近づいてきてドアが開くと更に大音量だ。 看護師がおくるみを着せて連れてきた御子を自信満々にラリー殿下は覗き込む。 「ふん、見せてみよ… な!!! これが神子が産んだ子だと?!これが次期王の髪色だというのかっ!!」 「あははははははは」 俺達の隣で大きな声で高らかに笑う大魔導士エイプ・フリーレル様に視線が集まる。 「はははははは、ラリー殿下 王は貴方ではない。これは神の決めたことですよ。はははははは」 「きっさまぁぁぁぁぁ!!!」 ラリー殿下は鬼の形相で大魔導士エイプ・フリーレル様に向かって拳を振り上げた。 「ラリー殿下、次期国王は決定したのです。いくら私を殴ろうとも事実は覆すことは出来ません。逆上するなんてみっともないですよ。諦めて下さい。ははははは」 ラリー殿下に対して こんな不遜な態度をとる大魔導士エイプ・フリーレル様を見るのは皆 初めてで驚いて固まる。 そして全員が思ったのは御子の髪色は黄緑色…… 見てもいないのに大魔導士エイプ・フリーレル様はどうしてわかるんだ? 「ははははは」 怒りに任せたラリー殿下の拳は大魔導士エイプ・フリーレル様ではなく、隣の男の顔に炸裂した。 「?!」 「…うあっ!!!」 殴られたのはセプターだった。 殴られた反動で壁に身体を打ち付け、左頬は赤くなり、口から血が出ている。 急いで俺はセプターを抱きしめて背中で庇い抗議した。 「ラリー殿下、何をなさるんですか!!!」 「黙れ!!! 私を差し置いて なぜお前なんだ。下級色貴族のくせにっ!!」 「「「「「「?」」」」」」 『私を差し置いて なぜお前なんだ』とは どういう意味だ?! 王は大魔導士じゃ……!!……まさか?! 俺の考えと同時にラリー殿下の言葉を理解した勇者達は我先へと看護師の所に行き、皆で御子を見ようと揉みくちゃになる。 「きゃっ!!おやめください」 「御子を見せろっ!!」 「御子様が潰れてしまいます。お下がりくださいませ」 「早く御子の髪を見せよ!!」 「…おっ、御子様の御髪(おぐし)の色は…薄紫でごさいます!!」 勇者が怖くて看護師が叫んだのはセプターの髪色だった。 全員の動きが止まり、セプターはその場で膝から崩れ落ちた。

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