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第45話・2つの質問

「あいつも、俺がこんなに重いなんて知ったら……好きどころか恐怖だろ」 「優一朗さん、皐さんが大好きなんだな」  苦しげな優一朗の話に同情的に頷いた藤ヶ谷は、今度は自分が広い両肩を掴んだ。 「よく分かった。さっさと追いかけろ。話はそれからだ」 「話、聞いてたか?」  ツッコむときのテンポもテンションも杉野と似ている。  優一朗に苦笑いされても、藤ヶ谷は引かない。  掴んだ肩を、容赦なく力一杯揺さぶった。 「まずは全部正直に話して! 皐さんと話し合え! 意気地なし!」 「意気地なし」  おそらく初めて言われたであろう言葉を唖然と復唱し、優一朗はされるがままに揺さぶられた。  藤ヶ谷はお構いなしで、そのまま喋り続ける。  言いたいことを言いたいように言ってやると意気込んだ。 「皐さんに『そんな独占欲が強いのは息苦しくて無理!』って言われたらここに戻ってこい! 一緒にクリスマス残念会しよう!」  目線を一度も逸らさずに言い切った。  声を出しすぎてひりつく喉を落ち着けるためにゆっくり呼吸をする。  頬を真っ赤にしている藤ヶ谷を見て、優一朗は思わずそこに触れた。  子どもにするように、優しく頬を撫でてくる。 「はは……残念会……」  笑みを溢した優一朗の指先は、きめ細かい肌をフニフニと弄ぶ。 (この人がどういう気持ちなのかさっぱりわからない……)  藤ヶ谷が戸惑っていると、優一朗は手を離してスッキリとした表情をして見せた。  とうに見えなくなった皐の行った方へと向ける瞳に光が灯る。 「陸さん、2つ聞いてみたかったんだけど」 「何だ?」 「ヒートの時、誠二朗と一緒にいた時はあったか?」 「えっ」  唐突すぎる質問に、藤ヶ谷は言葉に詰まる。  質問の意図は分からなかったが、「一緒にいた」ことはある。  秋頃、蓮池に誘われたホテルで杉野に救われた時だ。藤ヶ谷はまごうことなくヒート中だった。 「ごめん。答えられたらでいいよ」 「ある、けど……何もなかったっていうか……」  あの日のことを思い出して鼓動が早くなった藤ヶ谷は、さっきまでの勢いをなくして俯いた。  尻すぼみになっていく声を聞いた優一朗は、質問しておいて深く追及することなく頷く。 「じゃあもうひとつ。俺といる時、いつも陸さんの頭にいたのは誰?」 「ん? どういうことだ?」  2つ目の質問も意味不明だった。  まるで優一朗を誰かの代わりにでもしているかのようなことを言う。  優一朗のことばかり考えていたつもりの藤ヶ谷にとっては遺憾であった。  藤ヶ谷はまだ熱のおさまらぬ顔を上げて、説明を要求する。  だが、優一朗は意味ありげに微笑むだけ。 「これ以上はお節介だな。あ、そうだ。誠二朗、この近くにいるらしいよ」 「へ?」 「陸さん、本当に申し訳なかった。……ありがとう」  疑問を解決出来ないでいる藤ヶ谷に向かって、優一朗は深々と頭を下げた。  そして、皐の居なくなった方へと走り出す。  スマートフォンを耳に当てて、一度も振り返らずに小さくなる後ろ姿を眺めて藤ヶ谷は笑った。 「残念会、絶対ないだろうなー」  失恋直後にも関わらず清々しい気持ちで、自分もスマートフォンを開くのだった。

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