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番外編・藤ヶ谷が寝ている間※攻め自慰※

「ん……っ」  胡坐を掻いて座っているベッドが僅かに軋む音と、短く熱い吐息が重なった。  べったりとした液体が糸を引きながら指の間から垂れ、下着から頭を出す起立した中心に落ちていく。  白濁を受け止めた手を見つめ、形の良い眉が寄せられた。 「まずい……全然おさまらねぇ……」  ただいま3回目の絶頂を右手で迎えた杉野は浅い呼吸を繰り返し、左手で汗ばんだ前髪を掻き上げる。  身体のほてりも、興奮も静まるところを知らなかった。  その原因へと杉野は視線を落とす。  すやすやと気持ちよさそうに仰向けで寝ている藤ヶ谷だ。  本人にはその気は無かったとはいえ、ラブホテルに連れ込んだ挙句に爆睡するなんてことがあるだろうか。  つい先ほどまで膝にあった温もりを思い出して、杉野の胸は騒ぎ出す。  この綺麗な顔を自分が汚すことができたらと想像してしまうと、再び右手が動き始めるのを止められなかった。 「……っ、すみません、藤ヶ谷さん」  何も知らない人を目の前でオカズにしてしまう罪悪感に襲われる。  だがこの状況を作ったのは藤ヶ谷だ。  杉野の膝枕で寝息を立て始めたときには、間違いなく起きていた。  何を企んでいるのかは分からなかったが、狸寝入りしているのが可愛くて素知らぬふりでベッドに寝かせたのだ。  しかし、布団を被せてしばらく経つと、どうやら本当に寝入ってしまったらしい。  どんなに声を掛けても揺さぶっても起きなかったものだから、相当疲れているのだと杉野は判断した。  服の乾燥は1時間ほどで終わる予定だったが、もうこのまま寝かせることにしたのだ。  だが目の前には思いを寄せている相手が生足を出して寝ており、着ている服は杉野自身が選んだ服だ。  そして下着は黒いレースの紐パンであることを確認済みである。  その艶やかな姿は掛け布団の下に隠れてはいるのだが。  我慢に我慢を重ねていた若い杉野の下半身は爆発した。 「責任取って、手だけ貸してください」  一人呟くと、力の入っていない白い手に左手の指を絡める。  影を落とす長いまつげに、薄く開いた赤い唇、柔らかそうな頬。  触れている手はすべらかで、杉野が握りしめると無意識下で緩く握り返してきた。 「っ……ふ」  すでに濡れている手は滑らかに幹を上下し、淫らな水音を立てる。  杉野はとめどなく先走りが溢れてくる先端を親指で刺激した。  目の前の藤ヶ谷だけではなく、ヒート中の藤ヶ谷の表情までが頭の中で杉野を煽る。  蓮池に襲われていた藤ヶ谷を見たときには目の前が真っ赤になったが、その後の方が衝撃的だった。 (肩、触っただけで、イったんだよな……)  その瞬間の切なく寄せられた眉も、潤んだ瞳も、一瞬だけ蕩けた表情も、すぐに混乱と羞恥に歪んだ表情も。  あまりにも扇情的で。  藤ヶ谷が達してしまった中心を隠すまでの、一連の流れが全て鮮明に思い出される。 「藤ヶ谷、さん……っ、藤ヶ谷さん……」  噛み締めるように愛しい名前を呼ぶ。  手の動きを早め、杉野は自身を追い上げた。  どんどん熱が上がっていく。 「く……っ、ぅ……!」  熱っぽく息を詰めると同時に、欲望が弾けた。 「……、は……」  杉野は大きく息を吐くと、指から力を抜いて藤ヶ谷の手を離す。  まだ腹の熱は燻っていたが、流石にマシになってきたとベッドサイドにあるティッシュペーパーに左手を伸ばした。  杉野は汚れた股間を拭きとりながら藤ヶ谷を改めて見下ろす。  握っていた手には力が入ってしまったはずなのに、起きる気配はゼロだ。  尊敬するほどの睡眠力だと、口元が綻ぶ。  すると、藤ヶ谷が杉野の方へと寝返りを打った。  杉野は慌ててずらしていた下着を引き上げる。 「ん……ぶちょー……」  だが緩んだ口から聞こえてきたのは気の抜けるような寝言で。  いったい何の夢を見ているのかは分からないが、あまりにも藤ヶ谷らしい。  杉野は唇をへの字に曲げる。 「萎えさせるのも得意だな……」  小さく溜息を吐きながら手を綺麗に拭い去った。柔らかいベッドに手をついて何も知らない顔を覗き込む。  触り心地のいい髪をさらりと撫でた。 「好きです、藤ヶ谷さん」  神が邪魔しようとなんだろうと、必ずいつか伝えてみせる。  その時、この人はどんな反応をするのだろう。  驚くだろうか、困るだろうか。  それとも。 (少なくとも、あなたは嘲笑わないですよね)  髪からうなじへと手を滑らせ、クリスマスに合わせたであろう緑のカラーに沿って頸を擽った。 「ぁ、……すぎ、のぉ」  寝ぼけた甘い声に己の名を呼ばれて、目を細める。  そっと顔を近付けて、耳元に低く囁いた。 「愛してます。俺の、運命」  例え永遠に気が付かなかったとしても。

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