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第59話・野外はアウトです
風に乗ってくるフェロモンの匂いがどんどん濃くなってくる。
そして、竹と竹の間から大柄な誰かが小柄な人に覆い被さっているのを見つけた。
ヒート中のオメガのフェロモンとラット中のアルファのフェロモンが混ざり、身体には影響はないといっても藤ヶ谷の肌は騒つく。
ザクザクと落ち葉を踏み鳴らし、息せききって走りながら、ふと頭によぎったことを口に出す。
「そういうプレイだったら謝らないとな」
「野外はアウトです。どっちにしても止めます」
「そりゃそうか」
真っ当な意見を言う杉野の言葉に頷くしかなかった。
姿がはっきりしてくると、アルファの男性とオメガの男性であることが分かる。
「……っ」
息を呑んだ藤ヶ谷の足の動きが鈍くなった。
寒空の下でアルファ男性がオメガ男性の服を乱暴にたくし上げ、肌に舌を這わせているのをはっきりと見て怯んでしまったのだ。
だが杉野はそのまま藤ヶ谷の手首を掴み返して突き進む。
どんなに近づいても、2人ともこちらに気がつかない。
それほど盲目的になるのだから、ヒートというのは恐ろしい。
尋常ではない様子の情事中に2人は割り込んだ。
まず杉野はアルファを力任せに引き剥がす。
「藤ヶ谷さん、オメガの方を……っ!?」
「山吹さん!?」
藤ヶ谷と杉野はアルファ男性の顔を見て驚きの声を上げる。
彼はどう見ても、取引先の担当者兼友人の山吹だった。
濃厚なアルファのフェロモンと混ざって、いつも彼が吸っている上品な煙草の香りがする。
いつもの飄々とした笑顔は消え失せ、眼鏡の奥の瞳は欲情にギラついていた。
今は目の前にいるヒート中のオメガ男性しか見えていないようで、羽交締めにしている杉野から逃れようと暴れている。
なんとか山吹を引きずって距離をとっていく杉野を見送り、藤ヶ谷は胎内からの熱に喘ぐオメガ男性を助け起こした。
雪が降りそうなほど気温は低いのに、汗ばんだ体で肩で息をしている。
誰でも良いからどうにでもしてほしいと思うほど辛いはずだと、藤ヶ谷は眉を寄せる。
すぐに即効性のある抑制剤を口元に近づけた。
「これ、抑制剤だ! 飲んで」
「……っやだ」
「俺は同じオメガだよ! 怖くないから!」
怯えているのか細い体を捩らせるオメガ男性に対し、藤ヶ谷は可能な限り笑顔を作り明るい声を出す。
それでもなかなか口を開けないため、無理矢理こじ開けて小さな薬を押し込んだ。
ゴクン、と喉が鳴る音がする。
これで一安心だと、藤ヶ谷は乱れた衣服を整えてあげようとしたのだが。
「余計なことしないでよ!」
「わぁっ!?」
勢いよく起き上がったオメガ男性に、強い力で突き飛ばされて尻もちをつく。
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