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第101話・この人じゃないと⭐︎

 誰でも良いから何とかしてくれ。  ヒート中はいつもそれが藤ヶ谷の頭を支配する。  全身が熱く、汗が滲む。  感情の昂りもないのに頭がのぼせて瞳が潤む。  息遣いは運動した後よりも荒く、心臓は張り裂けそうなほど音を立てていた。  後孔は触れてもいないのに濡れそぼっており、身体の芯から溶岩のように何かが迫り上がってくる。  この感覚を藤ヶ谷は知っている。  ヒートになっているのだろう。  だが。  今、求めているのは「誰でも」ではない。 (この香り、この香りは)  相手のことが認識できない。  ただ、自分の全てを捧げたくなるようなフェロモンが藤ヶ谷を突き動かす。 (絶対、この人じゃないと)  唯一、この香りの主だけを本能が求めている。 「がや、……!……さん!」 「ぁっ……はぁん」 「藤ヶ谷さん!」 「……ぁあっ」  聞き慣れた声と共に肩を掴まれ、温もりから引き剥がされる。  それと同時に、藤ヶ谷はあえかな声を上げ白濁を放った。 「すぎ、の……?」  恍惚とした表情を浮かべる藤ヶ谷は、ベッドに仰向けになった杉野の腰の上に跨っていた。  きっちりと着ていたはずの杉野のパジャマは捲れ上がっており、鍛えられた腹筋が見えている。  藤ヶ谷は杉野に全身で伸し掛かり、いつのまにか脱いでいた下半身を擦り付けていたのだ。  引き剥がした杉野の腕は、何かに耐えるように震えている。 「藤ヶ谷さん……っ、このフェロモン、まさか」  杉野は頬を紅潮させ、息を詰める。  その余裕なく眉を顰めた色気のある表情を見下ろしていると、達したばかりの藤ヶ谷の腹がまた疼きだした。 「あいつ、もしかしてヒート誘発剤まで仕込んだのか?」  腕を使わずに身体を起こした杉野。  だが藤ヶ谷には何のことを言っているのか分からない。  とにかく、杉野に求めることはひとつだった。 「杉野……っ、抱いてくれ、あつい、あつくてくるしぃ……!」 「落ち着いて、藤ヶ谷さん……っ」  逃さないと言わんばかりに腕で首に抱きつき、足も腰にしっかりと巻きつけて固定する。  杉野の赤くなっている耳を喰み、その気にさせようと懸命に吸った。  アルファのフェロモンが濃くなった気がして、藤ヶ谷は更に煽られる。 「すぎのぉっ」  パジャマの薄い生地では隠せない、既に芯を持っている杉野の中心に自身の欲を当てる。  早くコレが欲しいという気持ちが止まらなかった。 「はぁ……、また限界だ」 「ぁあっ」  ため息と低い声が耳に直接吹き込まれると共に、藤ヶ谷の双丘が長い指に揉みしだかれる。  ゾクゾクと背筋を反らせると、杉野は藤ヶ谷の喉元に唇を寄せる。 「藤ヶ谷さん、後で謝ります」 「……!?」  喉元に噛みつかれて硬直している間に体が傾き、白い天井が見えたかと思った瞬間。  一回り大きい体がのし掛かり、ベッドに押さえつけられた。

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