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第102話・誘惑にどうしても勝てない★

「ひぁあああっ!」  水音と共に激しくぶつかる音が鳴り、絶叫のような嬌声がベッドルームに響き渡る。  もう何度目になるか分からない脳の痺れを感じ、四つん這いになっていた藤ヶ谷の腕が崩れ落ちた。  白い背中にぴったりと胸を押し当てている杉野は、一瞬止まった後すぐに腰の動きを再開する。  藤ヶ谷の中で一緒に果てたにも関わらずだ。 「……ぁん……っすぎ、の……」 「藤ヶ谷さん、可愛い顔……」  柔らかい枕を涙と唾液で汚しながら、蕩け切った藤ヶ谷は杉野の方を振り向く。  杉野は目を細めて濡れた頬に口付け、もう塞がらない唇に舌を這わせてきた。 「ちょっと、やすませ……っゃあ」 「まだ、無理です」 「むり、は、こっちの、ふぁあ……っ」  獣のように無遠慮に奥を抉られ、目の前に星が飛ぶ。  凶暴なものを一度も抜かれることなく受け入れている場所は、泡立つほどに愛液が注がれていた。  藤ヶ谷は頭が朦朧として、自分を抱いているのが誰なのか分からなくなってくる。  昨夜の恋人はずっと優しく藤ヶ谷を気遣い、呼吸を合わせて快楽の頂上に導いてくれた。  だが今は、藤ヶ谷のタイミングなど全く無視だ。  穏やかに甘い言葉を掛けてくれるものの、杉野の欲望のままに身体を揺さぶられる。 「あっ……や、こわれるっ……やめろこわれるぅ!」 「寝てる俺に……っ、跨って誘ってたの、誰ですか?」  藤ヶ谷は、ラットになったアルファの支配的な本能を身をもってぶつけられていた。  何を言っても、否定的な意見は全て跳ね除けられ杉野の好きに犯される。  そして、それがヒート中のオメガにはこの上なく快感であることを知った。 「っだって……、すぎのがほしくてぇ……!」 「いくらでも。俺の、全部あげます……っ」 「あぅっ……」  これが理性のタガが外れた杉野のなのだと、嬉しくも感じた。悦楽に身を任せて、もうこのまま貪り尽くされたいと体が言っている。  しばらく与えられるままに喘いでいると、肘を引かれて身体が布団から離れていった。 「なに……?っやぁああっ」  藤ヶ谷は目を見開き、再び体を痙攣させる。  繋がったまま腰を支えられ、胡座をかいた杉野の膝に座らされたのだ。振動で、これまでより奥深くに杉野が収まった。  そのまま胸の突起を摘まれ、藤ヶ谷は堪らず足をバタつかせる。 「すぎの、……っおかしくなる!きもちよすぎ……っひゃん!」  なんとか立ち上がって逃げようとしても、逞しい片腕が腰を抱いて押さえつけている。  更には動けば動くほど体は刺激され、藤ヶ谷は何も抵抗できないまま身悶えるしか道はない。 「……っ、あっ……あっ」 「良い匂いだ」 「は、ぁん……っ」  無防備な頸に舌を這わされ、掠れてきた声が裏返る。  オメガだと分かってからずっと守られてきたソコに触れられると、この後のことに期待感が高まる。  杉野は緩く歯を立てながら、最奥を突いた。 「んぁああっ」 「好きです、俺の藤ヶ谷さん」  杉野はしきりに「俺の」と囁き揺さぶってくる。言われる度に身体が喜んで中を締めつけた。  しかし藤ヶ谷の脳は、最早何を言われているか分からなくなってきている。 「いぃ、もっと……っ」 「……、はい」 「ァアッ! おく、おくがいいっ」  ひたすらに杉野がくれる愛に溺れ、貪欲に身体を求める。  否定の言葉は届かなかった杉野も、求める言葉には従順に応えてくれた。  藤ヶ谷の奥を杉野の先端がグリッと擦る。 「ここですか?」 「ん、……すきっそれがいいっ」  ヒートに入ってからどのくらい時間が経っているのだろう。  分厚いカーテンに光が遮断され、外の様子は全く分からなかった。  どんなに時間が経っても慣れることのない昇りつめていく感覚がまたやってくる。  耳元で繰り返される荒い息遣いとナカのモノが、杉野の限界も近いことを伝えてくる。 「ァっ」  何度も吸い上げられている頸には赤い花びらが散っていた。  唇で喰んだり、舐めたり、緩く歯を立ててくれるのに。  決定的なことはしてくれない事に焦れて、藤ヶ谷は頸を両手で抑えて隠す。  杉野の動きが止まった。 「退けてください」 「……じゃあっ、かんでくれ」 「それは、今度にしましょ……!?」  最後まで言わせなかった。  藤ヶ谷はナカをギュウっと締め付けながら、腰を自ら大きく揺さぶる。  やはり杉野は優しい。  こんなにも本能のまま好き勝手しているように見えても、やはり最後の一線は越えようとしない。  自身の引き起こしている刺激に喘ぎながら藤ヶ谷は、その強固な理性を突き崩そうとした。 「いま! いま、つがいに……っひん」  挑発を受けて杉野が両手で腰を掴んでくる。  指先に噛みつかれ、ピリッとした痛みが走った。  それすらも、今の藤ヶ谷には甘い愛撫でしかない。 「まだ余裕、っですね」 「ぁああっ」  主導権を杉野に取り返され、激しさを増す刺激に咽び泣く。  呼吸もままならない中で頸から手を離し、懸命に頭の中にある言葉を紡いだ。 「つがいに、なってぇっ!」 「……っ」  藤ヶ谷の甘い叫びを聞き、ついに強靭な壁は突き崩れた。  改めて目の前に現れた頸に、杉野は喰いつく。  文字通り皮膚が食い破られ、自分の中の全てが作り替えられていく未知の感覚。  藤ヶ谷にとって、最初で最後の愛の契約が結ばれた。 「ぅあああああぁあっ!!」 「ぅ、く……っ」  強く最奥を貫かれると、2人の熱が同じ瞬間に放たれる。  杉野の欲を身体に受け止めることができた喜びで藤ヶ谷の胸がいっぱいになった。  まだ奥で白濁が逃げないように根元が膨らんでいる杉野の存在を感じながら藤ヶ谷は微笑む。 「すぎ、の……だいす……」 「愛してます、藤ヶ谷さん」  脱力していく身体をしっかりと抱き締めてくれる杉野の腕の中で、藤ヶ谷は幸福感に包まれながら意識を失った。

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