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第103話・大盛り上がり

 藤ヶ谷は、今、本気で転倒するかと思った。 「藤ヶ谷さぁああん! 見せて! 頸見せてください!!」 「おめでとうおめでとう良かったねぇええ」  どうしても腰の調子が回復せず、いつもよりゆっくり出勤した。時間は気になったが悠々と歩いて来るしかなく、藤ヶ谷は始業時間ギリギリにドアを開ける羽目になった。  すると、仲の良い同僚女性2人が飛びかかってきたのだ。  抱きついてきた2人分の体重を支え、なんとか足を踏ん張って耐えた。  その様子を他の社員たちもにこやかに眺めていた。  大きな契約をとってきたり、イベントが終わった後以上の盛り上がりっぷりだ。 「わ、ぁ……! あの、ありがとう……あれ? なんかなんで皆知ってる……?」  2人の言葉から、杉野と藤ヶ谷が番契約を結んだことが営業部カラー部門の同僚たちに知らされていることが分かる。  知られて特に困ることはないが、情報が回るのが早くて藤ヶ谷はついていけなかった。  頸の歯型を確認している女性同僚の1人がぐずぐずと鼻を啜る。 「杉野さんが昨日2人で休むって連絡くれて、番い届けの話も……っ」 「聞いた瞬間からこの子は泣いてたわよ」 「人のこと言えないじゃないですか!」  涙目の2人の可愛らしいやり取りを見ながら、藤ヶ谷は納得する。  杉野と両思いになった後、藤ヶ谷は明け方にヒートに突入して24時間熱に喘いでいた。  今回のヒートは突発的なもので、24時間経てばいつも通りになったのだが。  杉野に愛されすぎた体は疲れ果てて全く動くことが出来なくなってしまった。  それで、杉野は一日休む旨の連絡を職場にしてくれたのだ。  どうやらその時に全て報告済みだったらしい。 (一日中、杉野が世話してくれて幸せだったな)  藤ヶ谷と番になった翌日の杉野の甲斐甲斐しさといったら、申し訳なくなるほどだった。  まず意識を失った藤ヶ谷が目を覚ますときちんと身を清められ服を着ていた。  杉野が全て整えてくれたのだという。  食事もわざわざ口まで運んでくれたし、移動の際には抱いて連れていってくれた。  子どものようで恥ずかしかったが、幸せで。とにかく藤ヶ谷はたくさん甘えて、ありがとうとキスをした。  そして手加減できなかったことや、ナカに直接出してしまったことを平謝りされた。  まだ2人だけの時間を過ごしたいとお互いの意見が一致したため、念のために山吹が用意してくれていた避妊薬を飲むことで解決はしている。  杉野は何度も「もう二度とこのようなことは」と、土下座する勢いだったので、宥めるのが大変であった。 「完全に自分の中の何かが切れる音がしました」  と、まるで自分だけに原因があるかのように頭を抱えていたが、それは藤ヶ谷も同じ。  全ての薬が抜けた状態の杉野といると「これが運命の番か」と理解した。  具体的に何が、とは言えないのだが確かに感じるのだ。  目の前にいるのは、間違いなく「俺のアルファだ」と。  杉野が「好きな人は運命の番のはず」と説明したことも間違ってはいなかった。  藤ヶ谷が気付けなかっただけだ。  突如ヒートになってしまったのも、本能的に運命の番を逃がさないように身体が働いたのかもしれない。  正確なところは結局謎なままだが、藤ヶ谷にはどうでもいいことだった。  好きな人と番になれた。  今はその幸運を噛み締めたい。  温かい同僚たちに祝われながら、藤ヶ谷は人生で最高の時間を過ごしていた。

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