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第2-3話

 催花が終われば入液。しかしそれは日を跨いで行われるもの。催花に体力を奪われ、少しと意識を保つのも難しい。それだというのに、清瀬の身体はなおも被さる。 「今日は、もう……!」  悲鳴を口走る青の唇は再びむさぼられた。  熱にあてられて、清瀬の衣も乱れ、(はだ)けていく。清瀬は思わず青の膝をつかみ上げ、股の間に身体を割り入れた。汗の浮かぶ肌に、熱を持った花径の口がしっとりと吸い付くと、堪えるように静かに、ゆったりと身体を動かした。  甘やかな痺れが青の全身を襲う。そうなれば拒む手も力なく落ち、脱ぎ払われた衣を引き掴むのみ。 「変なところに力をいれては、後がつらい」  暗闇から伸びる手が擽るように額を優しく触れていく。青は逃れるようと身を捩った。 「――力を抜け」  心も蕩けるほどの甘い声に刺激されて思わず身体が震える。  感じているなどと知られたくはない。ただ種子を与えるだけの行為なのだ。勘違いをして無様な男だと笑われるのは堪えられない。  そうは思いながらも、強ばった身体では、予期せず与えられる快感に備えているようにも見えるではないか。  青は顔を覆い、ゆっくりと呼吸を繰り返した。 「待て、心の準備が――」  時間をくれと、訴えようとしたその束の間の息づかいのうちから、潤う筆先が花径に()じ入れられた。  その、氷塊(ひょうかい)の解けるような目映(まばゆ)さに、青は大きく息を急ぐ。 「あ、ぅん……ッ!」  ゆっくりと抜き差しを繰り返すその下で、色身(いろみ)は春めいて、押し上げられる昂ぶりに必死と声を抑えて耐えていた。  肌を重ね、吐息は冷えた指先までをも温めて、身体は深く交わっているというのに、たまらなくもどかしい。  この男は麗しい姫君を妻に迎える。彼の心は花一族の乙女に傾いて、たかが青など目にはない。彼が見ているのは花のように美しい女。それを瞼の裏に見て、己の欲をぶつけているだけなのだ。  やはり嫌だと、逃げようとする青の身体は搦められ、声は苦しく喉をひっかいた。  暖かな手が肌をもてあそぶ度、そのむなしさに胸が引き裂かれるような思いだった。  いっそのこと花など実を結ばずに朽ち果ててしまえば、女に嫉妬することも、妹の婿と交わる必要もない。  青は歯を噛みしめる。  水音(みずおと)は淫らに激しさをまし、夢中になるほどの気持ちよさに、いじめ抜かれた清瀬の穂は太く脈を打ちつつ、青の花に生種(なまだね)を擦り付けた。かき乱された花は明日にも実を結ぶことだろう。  清瀬はゆっくりと引き抜くと、身体の下で蹲る青の髪を掻き上げる。 「無理をさせたか」  余韻に震えながら、青は手足をそっと動かす。 「花に、触れていたから、実はつく。出口は後ろ。用は済んだだろう。さっさと出て行ってくれ」  枕の下に忍ばせた腰刀を、清瀬が気付いている素振りはない。誰の目にも触れないところへ持って行き、この恋心とともに埋めてしまおうと思うのだ。  清瀬は荒く吐息を繰り返す唇をなめ、甘美な果実を前にしたときのような衝動にかられた。  真っ赤に熟れて香りを上らせる快楽の果実にかぶりつくように、青の華奢な項に噛みつく。  青は思いがけず、駆け抜けていく余波に促され、水泡(みなわ)が弾けたように艶やかな声を上げてしまう。 「花の事を聞いているのではない」  口を覆い、強く瞼を伏せた。崩れ落ちそうになる身体を堪えて持ち上げ、湧き上がる怒りに震える。  ――その気にさせて、しかしお前には花嫁があるではないか。  ひゅっと喉を鳴らし、青は清瀬の身体を押しのける。 「消え失せろといっている!」  清瀬はその手を柔らかく捕らえ、そのままほっそりとした腰つきに手を回す。色気を纏う青の身体に物足りなさを覚えながらも、糸引くように手を離す。 「また明日、様子を見に来る」  清瀬の乱れた身体は衣の下に包まれた。  去って行った彼の残り香は青の花のにおいと入り交じり、その香煙がふと身体に触れる度に身体は熱を持つ。  ぐったりと身体を伏せる。清瀬に握られた水茎がたまらないほど刺激を求めていた。徐に握り柔く扱きながら、その穂先を刺激する。ふっと、荒々しく息を吐き、しかし達するには煩雑な思いに気を取られて興も冷める。なぜだか無性に涙が込み上げた。  彼にさえ出会わなければ、恋の花が深く繁ることもなく、こんなにも惨めな気持ちになる必要もなかったのだ。  床を叩きつけ、握りしめた拳を震わせた。催花と入液、麗が青に与えた機会はすでに逃した。  この先のことを考えようとはするものの、何より酷い疲労感に襲われて四肢は重く鉛のように沈み、身体は少しと動かせそうにない。このまま凪の手に落ちるのならばそれでもいいと思われた。ひと思いに首を刎ねてくれるだろうと。  目を閉じれば深い闇が待ち受けている。青はすっかり意識を手放し、泥のように眠りに落ちていった。

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