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第3-4話
青は怪訝に清瀬をみやり、去って行く嵐をちらりと目にかけた。
「結実は」
清瀬の問いかけに視線を戻す。
背後に構えた屏風には、咲き乱れる牡丹や藤が絡み合い、熟した鬼灯の果実を塗り重ねた雄鶏が悠々と猛っている。清瀬の気風はそこに、金色の寅を見るように凄まじく勇ましくあった。
八十と重ねた屋根の上、雲間から彼の姿を見上げるようであった。
気後れしたことなど気付かれないように、小さく吐き出した息を素早くのみ込む。ほんのりと温もりに染まった白露のような足が、衣を裂いてしなやかに伸び、清瀬の前へと進み出た。
「まだ、のようでした」
青が花一族の萩氏、その息子と胸を張れるのは、男が婿入りするまでの間。出液を果たせばその身は卑しく落ちていくだけ。
衣擦れを立てる衣の中では、その差を嫌というほど突きつけられる気分であった。到底、気安く触 れられるような人ではない。
「今更改まってどうした」
喉を鳴らして清瀬が笑う。それを睨むようにして青は唇を開いた。
「凪が、先ほどは口を誤りまして」
「そんなこと、もう過ぎた話だ」
「わざわざ朝餉まで」
「惚れた相手に、いいところを見せたかっただけ。礼を言わせたいわけではない」
青はぎくりと肩を揺らす。視線を上げた先には、瞼を伏せて、口元に笑みをひそめた清瀬が、何やら愉快に喉を鳴らしていた。
「屋敷に戻る場所があるとは、思わなかった」
青は少しずつ早くなっていく鼓動に手を押し当てる。
「追い出されれば、その後は雲水のように流れようとも」
「あの従者の男も連れて行くだろうな」
「凪は……」
凪はどのみち屋敷に戻る。青をほしがる理由は同情心からなのだ。彼の世話になるわけにはいかない。
すると、清瀬は扇を手にし、青の顎を持ち上げた。見つめる先に、焼けるような瞳があった。答えを催促しているのだ。凪の事になると、彼は妙に落ち着かない素振りを見せる。凪を相手に何を競うようなことがあるのか。そこもまたかわいい男と、青は微笑を零して俯いた。
彼の言ったとおり、今更取り繕う必要もない。
青は息を吐き出した。
「凪は、父の随身であって、俺の従者ではない。彼を連れて行くことはできない」
「なるほど……」
答えながら、清瀬は扇を引いて軽く頬に押し当てた。
「萩氏の血を引きながら、当主にはなり得ないとは。そんな青が屋敷に戻れると言うことは、俺を陥落させろとでも言われてきたか?」
青は清瀬の眼差しの下、舌なめずりをして、微かな反応すらも知られたくはないと、清瀬の視線をつかみ取る。
「まさか、そんな器用な事ができるとでも。父は鹿氏との仲を取り持ついい機会だと言っておられた。俺はそのために」
「俺に種を与えるために寄越されたのだろ」
清瀬は笑う。扇を腰に差し、ゆったりと足を組んだ。
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