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第6-4話
縋るような青の言葉に、ヤンは弾かれたように振り返る。
「合戦を止める気か?」
「父上を説得する」
ヤンはたじろいだ。
「ベベが応じるとは思えない」
答えて瞼を伏せる。青の眼差しから逃れるように背を向け、しかし、止められるのならばそれにこしたことはないと彼は苦しげに言う。
「わかった。俺も、出来る限り手は貸す」
苦渋の決断をさせてしまっただろうかと、青は笑みを零す。
凪にもこうして相談すれば、板挟みにもならずにすんだのか。
だが花一族の血筋を考えれば、青だけの感情を優先することも難しい。
頑固、とはまさにその通りだと青は苦く笑う。しかしそこも気に入ったと彼はいってくれた。
藤の蔦から青を開放した彼に、身体を預けたいと思わせてくれた清瀬。きっと剥き出しの青さえも受け入れてくれるはず。
伏せた顔に染み出すような温もりが上り、頬は熱く焦がれていく。
丁寧に救ってくれたその手に触れられたい、強くそう思う。
――あぁ、……会いたい。
会って、今度こそ素直に言葉を交わして、込み上げてくるこの暖かな思いを伝えたい。まだ、遅くはないはず。
領巾 を靡かせた金魚の影が指先を掠めていく。そよいでいく赤い鱗は光りを導き、金魚の後をおいかけて、辺りを明るく照らし出した。
その先に外套を深く被った男の影が浮かび上がる。
「ベベ」
ヤンの呼びかけに彼はフードを外す。無性髭の男の顔が現れる。彼の目つきは用心深くヤンと青を見比べて神経質な手つきで頭を掻いた。
「こっちだ」
太い根に足をかけ、まるで滑るようにするすると上っていく。
天井に向けて広がる枝は扇のように伸び、船のような一片の貝殻を支えていた。中には霞が満ち、波のような面に水草が浮かんでいる。
すると、覗き込む青の手から彼岸花の花びらが落ちた。霞は波立つように巻き上がり、襞 のひらめくように炎が広がっていき、風が立つ様子にも似た綾が舞い上がる。そこに儚い布袋葵 の蕾みを結び、豪奢な花が群がって咲きついた。
竦んだ青の身体に蝉の羽よりも薄く、蝶の触覚よりも細い糸が絡みつく。
身体は引っ張り上げられ、忽ち貝殻の上に吊される。濛々と立ちこめる霞の下には夥 しく蠢 く赤い目が、青が落ちてくるのを待っているかのようだった。あれらが蜘蛛の群れなのだと知るのは、木末 の先に結びついた繭玉から滴るように落ちる蜘蛛の子を見てのこと。
青は恐怖に襲われて手足を震わせた。その揺れに、糸は響くような甲高い音を立てて、片足を捕らえていた糸がふっつりと切れる。ずん、と身体が低く落ちる。
もしまた糸が切れれば、青の体重は支えきれずにあの不気味に犇 めく蜘蛛の中に落ちていく。青の息は次第に荒くなる。
「重すぎるな」
男が頭上から忍び寄っていた。
誰だと、震える吐息に噛みつくような口が鋭い牙を覗かせる。肌に触れる手はまるで蛆の虫が身体中を這うようなおぞましさだ。
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