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第8話 王妃さま
「王太子妃教育って、夢だったの……!」
「え、あ――……、はい」
王妃さまが、来た。
「母上、何故ここに」
俺をお膝の上……ではなく蛇体の上に座らせながら執務をしているシュイが不満げに声を漏らす。
因みに俺は幼児用の絵本を読んでいた。今の俺の識字率ではこれが限界だった。あと、絵があるから分かりやすい。
この世界の文字は漢字に似ている。だが似て非なるものである。さらには漢字っぽいものしかないのである。まぁ、それでも日本語とこの国の言葉の辞書があったから勉強は捗っている。今までの召喚者たちのお陰か、有難い。
それでも漢字っぽいものの種類は多くて、覚えるのが大変だ。
最初は文字の少ない本をシュイがくれて感動したんだが、……絵が全部エッチだった。つまりはエロ本だったのである!
体位の名前といろんな獣人種の体位の図が載ってるだけのエロ本だったああぁっ!!
その後、それがロシュにバレて、アオイくんが子ども向けの絵本を持ってきてくれたのだ。
「でも、俺まだ絵本くらいしか」
「大丈夫よ。私がちゃんと教えてあげるっ!もちろん嫁いびりなんてしないから。この子に任せてもえっちなことしか教えないでしょ?」
それはまぁ、否定しない。
「私なら……」
王妃さまなら、ちゃんとしたことを教えてくれるだろうか。うん、王妃さまだもんね!
「私ならもぉっとドエロいコ・ト、教えてあ・げ・るっ!!」
いや、もっとヤバかったあぁぁ――――――っ!
うん、母子だ。間違いなく母子であるっ!!うぐっ!
――――――――分かってたけどっ!
因みに本日王妃さまの下半身は蛇体である。シュイと同じ腹が白、背が黒い鱗に覆われている。そして長さは2~3メートルである。
シュイのしっぽは相変わらず長すぎるほどに長くて、執務室は足の踏み場を確保してあるらしく、収まりきらない残りは寝室にやっている。繋ぎ部屋になってるのはそう言うことだったか。
だが人間の脚にするのは俺に巻き付けないので却下、縮めるのはめんどいなで蛇の尾はそのままの長さだ。
そしてしっぽの先っぽは寝室にから這い戻って伸びてきていて、俺の脚に巻き付けたり、股間をいじって……。いや股間はいじらんといてぇ――っ!?
今、王妃さまの前っ!!
「やだ、陛下にそっくり……っ!」
王妃さまのトンデモ発言――――――っ!?いや、陛下もやるの!?どこで……!?どういう衆目の面前でやるのぉ~~っ!?
「……母上、たといは私がドエロく仕上げる。介入は不要だ」
うおおおおぅおんめーもそう言う問題じゃねえぇっ!!こんのエロ蛇俺をどうする気だよっ!?
「んもうっ、いいじゃない。受けちゃんには受けちゃん同士にしか分からない話もあるのっ!たといちゃんも聞きたいでしょう?」
えっ、まぁ、うん。BLで受けと呼ばれる存在がある。俺はふ……腐男子だし?もちろん知っている。だが、この世界で召喚者は全て受けになるとは聞いても、具体的にどうこうと言うのは知らないかも。俺の孔、めっちゃ濡れたし。俺の知らないことだってきっとあるはず。
「そんなっ、たといには必要……っ」
シュイはそう言おうとするが。
「あの、是非っ!俺、王妃さまに教わりたいです!!」
俺は王妃さまの申し出に即答した。ここは、受け先輩の王妃さまに学びたい!
「そんなっ、たといいぃ~~~~~~っ!!!」
いやアンタはなんでそんな断末魔の叫びあげてんだ。
「あら、イイコっ!それじゃそっちの授業もやるとして……今は~」
今は違う授業?まぁ、シュイの前で受けちゃん講義は危険な気がする。弱いトコや敏感なトコを狙ってまさぐってきそうっ!!いや、もう知ってそうだけど!
――――――――今までも散々開発されてきたし。
「まずはウォーキングからねっ!」
あ、なんか思ったよりもまともそう。
「もうすぐ社交シーズンだもの。人前に出しても恥ずかしくないようにしないとねっ!」
え、社交シーズン?それって異世界ファンタジーとかでよくあるパーティーとか?東洋ファンタジーでもそう言うの、あるのか?
「社交シーズンになるとねぇ、陛下とずっとエッチしたくてしたくてしょうがない夜でも夜会に参加しないといけないし……」
王妃さまは陛下とエッチすることしか考えてないんすかっ!?なんかそんな気がすごいするっ!だってシュイの母親だもんっ!
「お茶会とか、外交接待とかいろいろあるの~!たといちゃんは王太子妃になるために、しっかりと鍛えるからっ!」
「あ、は、はい」
なんかスッゴい強制力感じる。
「……と言うか王妃さまはいいんですか?俺が王太子妃になるとか。シュイのおばあさまのことは知っていますけど」
先代の王妃さまは異世界人だった。
「もちろんよ。それに運命の番ってそう言うものよ?どんな困難だって愛する番のためなら越えていってこそよ。王妃への道にだって、エロ伝道師への道にだって!」
いや、エロ伝道師はどうなんだろうと思うけど。
「それに王妃さまだなんて、他人行儀ねぇ?お母さまでいいのよ?」
「えっ」
お、お母さんっ!?その、俺はずっと天涯孤独で両親の記憶もない。父親も誰なのか知らない。ただ知っているのはこの苗字が母のものだと言うこと、名前は母が生前に決めていたものと言うことだけだ。
「あ、う、おかぁ、さま?」
何だか、恥ずかしい。施設の先生を寂しくてそう呼んでしまった子ども時代並みぃっ!!
「やだ、照れちゃってかっわいいっ!」
「んなぁっ!?たといが今までにないほどに照れてるぅっ!?」
んもぅ、シュイったらそんなに驚愕されてもぉっ!!だって……。
「俺、産みの母親と死に別れて、お母さん、なんて初めてだから」
「たといちゃんっ」
「わぁっ!?」
王妃さまがいきなり抱きついてきたぁっ!?
「ちょっ!?母上っ!私のたといですよっ!?」
いや、お前の俺って。なんだその独占欲満載感は。
「いいじゃないっ!今日からたといちゃんはお母さまの息子よ!」
「なっ!たといは渡しませんっ!」
「ダメよ!たといちゃんにはママの味が必要なのっ!」
「何ですか母上の味ってっ!!」
いや、この蛇母子は一体何を争ってんだ。
そして、ママの味?
「王妃さまは……」
「お母さまでしょ、たといちゃんっ!」
「あ、お、お母さま?」
「うん、うん」
「――――――お料理するんですか?」
「肉の丸焼きなら、任せてっ!」
それは果たして料理なのだろうか。一応焼くなら料理なのか!?
「くっ、たといが母上に懐いたっ!!」
「ふふん、これが母性よ!」
この母子が何故争っているのかはますます分からなくなったが。
「はいはい、仕事、そしてお勉強!」
ロシュさんがやってきたことでシュイはお仕事、俺は王妃さま……お母さまのウォーキングレッスンを受けることになった。お馴染みの本を頭に乗せて歩くやつだ。使用した本は……エロ本だったけど。
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