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第13話 守護者
――――――この国を、場合によっては他国をも魔獣や天災などから守る守護者たち。その運命の番が召喚されれば、守護者と呼ばれし竜神が遣わした存在にみなは祝福を捧げる。
守護者の運命の番は、並外れた能力や異能を持つが故に孤独な守護者を一番に支え、共に歩む伴侶だから。
本日の御披露目パーティーでは、新たに迎えられた白虎族のイル、そして黒兎族のトゥキさんの運命の番が祝福を受ける。
また、既に運命の番を迎えている緑狼 族のロウさん、銀狐 族のグイさんも番と共に出席し、普段の守護者の義務に対する感謝を捧げられる。
この国の守護者は特定の5家の中から出現する。上記の4人の他には、紅鳶 族がいる。今は空位だが、子孫は着実に繋いでいるため、新たな守護者の出現を心待にしているそうだ。
この御披露目パーティーは、本来なら守護者の運命の番を祝福するものだが、今回はそれ以上の主役がいたりする。それが……。
「緊張しているのなら、抱っこしてあげようか?」
「じ、自分で歩けるからっ!」
シュイにエスコートされながら、会場に入場する俺である。
本日、シュイは人間の2本脚である。そして俺は蛇族の伝統衣装にベールを被っていた。まだ未婚だから。シュイの妃になるには、まだ時間と勉強がまだまだ足りないのだ。それでも、今日という日を迎えられたことは嬉しい。
ベールの下で揺れる耳飾りはシュイの瞳の色で、シュイからの贈り物だ。さらにベールを留める輪っかのような宝飾品や、首飾り、腕輪などはお母さまから受け継いだものだ。煌びやかに着飾る蛇族だが、決して浪費癖がある訳じゃない。蛇族の宝飾品、装飾品のほとんどは親から子へ、孫へ受け継がれて来た由緒ある代物だ。
俺は産みの母と死に別れて、母親の記憶はない。だからこちらの世界でお母さまになってくれた王妃さまからのこれらの贈り物は、とても特別に感じるものだった。
もちろん、シュイからの耳飾りもだ。こう言っておかないと、シュイが嫉妬するからなぁ。
「たとい、何を考えている?」
思わずクスリとすれば、シュイが俺の顔を覗いてくる。
「シュイのこと」
「それはいい」
シュイはそう、満足げに頷くと、俺をふわりと抱き上げた。
「わっ、ちょっ!?」
またお姫さま抱っこ!?せっかくウォーキングとか鍛えたのにっ!
「これも立派な作法だ」
いや、んなわけあるかいっ!――――――と、言いたいところだが、お母さまからお姫さま抱っこされるときの作法も習っていたので、その通りに大人しくする。
暴れるのははしたないから。シュイの婚約者として、恥ずかしくない行動をとらないと。
「さて、着いたぞ」
陛下とお母さまの待つ高座に辿り着くと、シュイがそっと俺を床におろしてくれて、俺もシュイの隣の椅子の前に立つ。因みに逆隣は第3王子のヒナちゃんだ。ちゃんとお行儀よく待っていて偉いなぁ。
そして主役が揃ったことで、陛下が開会の宣言をする。
「さぁ、みなのもの。今宵は新たに王太子・シュイの婚約者となった蛇腹 たといと守護者たちの運命の番を存分に祝福してやってくれ」
陛下の言葉に、参加者たちの歓声や拍手が届く。遂にこの日まで来れた。シュイの婚約者として、この国の人たちに紹介されたのだ。
陛下の乾杯の音頭でみな祝杯をあげ、俺もシュイ、ヒナちゃんと乾杯し、グラスに口をつける。まぁ、俺は18とは言え日本では未成年だから、ヒナちゃんと同じジュースだけど。
こちらや竜宮では18からお酒が飲めるんだったっけ。ランさんたちに教えてもらったことを思い出しながら、シュイやヒナちゃんと一緒にそれぞれの椅子に腰掛けた。
次は出席者たちからの挨拶を待つんだったか。すぐ近くに陛下とお母さまもいるし、シュイが一緒だから大丈夫だよね。緊張しつつも顔を上げた時だった。
「……ちょっと、どう言うこと!?」
真っ先に壇上に上がってきたのは、イルにエスコートされて来た竜欧院かさねだった。最初は守護者やその家の当主が挨拶をすることになっていた。紅鳶の場合は守護者が空位だから、各守護者の挨拶の後に当主が挨拶に来る。その後は各守護者の他の当主たち。そして守護者の中で一番に挨拶をするのは、守護者たちの中で一番地位の高い、守護者であるが故に王位継承権はないが王族であるイルだった。そしてその傍らには、顔を赤くしている竜欧院かさねがいた。
「蛇腹 たといがここにいるなんて!偽物の番がよくもぬけぬけとこんなところに!」
――――――偽物の番。長い間その言葉には傷つけられた。でも周りは、他の召喚者たち……守護者の運命の番たちはそう思ってないことも知った。そして俺はシュイの運命の番だから、本物なのだと言ってもらえた。
だから、その言葉に塞ぎ込むことはない。いつの間にか手すりに乗せた俺の手を、シュイが握ってくれていた。
「偽物……だと?たといは王太子である我が運命の番。偽物ではない、本物だ!」
シュイが堂々と告げてくれる。そしていつの間にかズボンが消え、下半身が蛇体になってうねうねと俺の身体に巻き付いている。元の長さには及ばないが、一般的な蛇族の3メートルはゆうに超えているだろう。シュイは俺を守ろうとしてくれている。後は甘えたい時……それからエッチしたい時なんかもも巻き付いてくる。
「王太子って、なんでアンタみたいな蛇男が!?第1王子はイルじゃない!未来の王さまになるのは、い……っ」
イル、そう言おうとしたのだろうが、その口をイルが顔面蒼白で慌てて塞いだ。
「何を……っ!何を言っているんだ!かさね!!」
俺にさえ向けたことがないイルの怒声が響いた。
「私は、守護者だ。そして王太子になるのは、父上が任命したシュイに他ならない……!」
切羽詰まった声だった。
口を塞がれモゴモゴとしていたかさねも、さすがに瞠目していた。
「……申し訳、ありません。父上」
イルがゆっくりとかさねへの拘束を解き、床に突っ伏すような拱手を陛下に捧げる。
「イル、そなたには番の教育を命じたはずだぞ」
陛下がゆっくりと、重々しい声で告げる。
陛下に怒られた後、イルの宮は人員総入れ替えとなった。かさねには陛下の息のかかった厳格な家庭教師が付いた筈だし、使用人もイルが間違ったことをすれば指摘するよう教育を受けたものに入れ替わった。
相変わらずかさねは媚びを売って彼らを手篭めにしようとしたのだが、以前宮で王太子のシュイの運命の番であった俺へのかさねとイルの仕打ちを知っていた彼らはかさねに良い顔をせず、懐柔されることもなかったと言う。今までは守護者と言うこともあるし、王族として宮の管理をイルに任せてきた陛下だが、運命の番騒ぎがあって以降、徹底的に管理の手を入れたのだ。
それで、かさねも大人しくまともになってくれたと思っていたが。――――――まさか陛下の前で謀反とも取られかねない、守護者の規律を破る言葉が出てこようとは。
俺がシュイの婚約者になったことを、教師から習っていなかったのか?そんなバカな。それとも大人しくしていたのは、こうして俺を追い詰める舞台を待っていたのか。それなら、俺がこうして席に腰掛けるまで大人しく待っていたのにも頷ける。
「イル」
「はい、陛下」
イルが再び答える。
緊迫した様子に、さすがにかさねも口を噤む。
陛下はゆっくりと椅子から腰をあげると、金色の竜角と、翼と尾を顕現させていた。
陛下の竜化した姿って言うのか!?竜の特徴はヒナちゃんで見慣れているけど、こうしてみると迫力が違う。
「王は、守護者とその番を、例え謀反に繋がることを口走っても極刑に処すことはできない」
かさねの先程の言葉は、イルが守護者で、かさねがその番でなければ謀反……最悪処刑になるかも知れないことだった。
むしろ、守護者の運命の番は極刑になることはないから、計算ずくでかさねはそれを言ったのだろうか?
「だが、運命の番の教育の不行き届きによって、国が揺らげば何のための守護者か分かったものじゃない」
「はい」
守護者自身が国を傾ける元凶を作るとか、笑えない冗談だ。
「お前を王族から除籍する」
「そんなっ」
その言葉に、かさねがとっさに声を上げるが、イルが急いで顔を上げ、かさねの腕を引っ張り床に額をつけさせる。
「いたっ、何するの、イルッ」
「いいから、黙るんだ!」
「ひっ」
イルの剣幕はものすごいものだった。他の守護者たちは運命の番には甘い。運命の番にあんな剣幕で接してるところなんて見たことがない。
かさねは脅えたように床に額をつけて震えている。
「白虎族の守護者の異能は覇気だ。番には効かぬ筈だからあれは異能以上の、あやつの素の剣幕だろうなぁ」
シュイがそう教えてくれる。
異能をも、凌ぐって……でもイルは今度はことの重大さを分かってるってことだよな。
「お前の母、第1王妃に関しても王族の籍から抜く」
イルの母親も同時に処罰するってことか?確か離宮で静養し、出てこないって聞いているけれど。
自身が産んだ王子が処分を受けるなら共倒れってこと?
「その後は私に長らく仕えた臣下に下げ渡す。そなたもその臣下と母の家の籍に入り、彼らと共に番を連れ王城を去るが良い。一家で慎ましやかに暮らせるだけの土地と屋敷くらいはくれてやる。定期的に守護者の仕事は回し、報酬も出す。そこで永年番と暮らせ。子を作ることは許すが、一切の王位継承権はない。子が謀反を企んだ時は、次代守護者ではない限りそなたらと違い、極刑となることを覚えておけ」
「はい」
イルは重々しくそう頷くと、呆然とするかさねを抱き上げ、陛下の前を辞した。
「陛下の臣下に、下げ渡すのか」
異世界ファンタジーなんかでも、王族皇族の妃を臣下に下げ渡すってのは聞いたことがあるけれど。
「むしろイルとその母親にとっては、その方が幸運かもしれんな」
ぼそっとシュイがそう呟いたのが気になった。
――――そのシュイの言葉の真意を知るのは、俺が正式にシュイの妃になってからとなる。
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