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第15話 ギョクとゼフラ①

【Side:???】 「あら、気が付いてなかった?アナタ、嵌められたのよ。蛇族の邪眼にね」 妖艶な美人が微笑む。 その微笑みだけで、周囲の誰もが振り返り恋に落ちてしまう美人だが、その下半身は蛇体で、その世界の人々はただ美しいだけの種ではないことを知っている。 だからこそ、目の前の男は吠える。 「このっ!蛇族め!貴様まさか王太子殿下までもその毒牙にっ!?」 「……はぁ?」 そう首を傾げる蛇族の青年の隣に、もう一人青年が並ぶ。パッと見、その世界の獣人が召喚者の人間かと見間違う男だ。 そして男は口を開く。 「悪いな、公爵。俺には無効化スキルと魔眼がある。蛇族の邪眼は効かんし、ゼフラは俺の運命だ。蛇族の邪眼は運命には効かないのを知らないのか?」 彼らが向かい合う男は、由緒ある白虎族の当主の男。守護者を輩出する家系で、貴族の位で言えば王族に継ぐ公爵だ。 「まぁ、邪眼を使おうだなんて、思うこともないけどね。だってギョクはとってもステキな、最高のひとだから。恥じるなら、蛇族に邪眼を使われるほどにドクズな己の所業を恥じなさいな……!」 そう、妖艶な蛇族の青年が、隣に並び立つ青年の名を呼び、次に公爵に蔑むような目を向け、トゲのある口調で告げる。 「なぁっ!!」 「もう終わりだ、公爵」 ギョクが静かに言い放つ。 「そんなっ、私を嵌めるなどとっ!やはり本当だったのだな!あなたは、いやお前は竜人の、賎民だとな……!」 それは、ギョクが召喚者に開口一番に言われ、散々注意しても言われ続けた暴言だ。 無論、その者はギョクの御前に二度と出られないことになった。守護者の運命の番と言う特権で、王族への侮辱罪で処刑されないがゆえに、生涯に渡って蟄居となったのだ。 ――――――にも関わらず、目の前の男はギョクに堂々と言い放つ。 「だがこの世界では、この獣人国で俺は王族だ。王族を賎民扱いとは良いご身分だ。お前が生きているのがこの世界であることを忘れるな。確か同じことを言ったお前の叔父の番にも、そう教えてやった場にお前もいただろうにな」 その番こそが、この国の白虎族の守護者の運命の番だった。運命の番の度重なる暴言の末に、男の叔父は辺境に送られ、守護者の任に就きながら、運命の番は質素な暮らしを強いられ一生外には出られない。 その守護者が生きている間に守護者の任を交替できれば、片田舎で余生を過ごすための移動くらいは許されるだろうが。 本来、守護者でなくなれば、守護者の運命の番と言う保護も外れる。 田舎への移動中に逃げたしたり、余生を過ごすための粗末な屋敷を抜け出せば、王族への侮辱罪で最悪死罪である。 彼の叔父の運命の番は、そこまで重い罪を犯した。 そして異世界人でもない、この世界で生まれ育ち、その罪の重さを理解しているはずの男が同じ罪を犯して、ただで済むはずもない。 それは王弟を伴侶に、そして息子を王太子に嫁がせたがために、男をでかくしたのか。しかしそのために男が息子に、王太子であるギョクの妃とするためにどんな卑劣な手段をとったか知っている。だからこそギョクには、男が何を言おうと、叫ぼうと、通じることはなかった。 「安心して。あなたがハルを運命の番から無理矢理引き剥がした蛮行は明るみにはでない。これはハルのためでもあるの。決してアナタのためじゃないわ。アナタはあくまでも、受け獣人たちへの人身売買容疑で破滅するの」 ハル……それは男が王太子に無理矢理嫁がせた息子の名だった。そして、ギョクの第2の妃となる蛇族の青年もまた、それを知っている。 「この、淫蛇がっ!」 「未来の王太子妃への侮辱罪も追加しようか?」 蛇族への暴言に、ギョクが低い声で威嚇するように告げる。 「あら、王太子を賎民呼ばわりしただけでも充分詰んでるのに」 「俺の気がおさまんねーの。運命の番ってのは、やっぱり特別だからな」 「そうよねえ。その運命の番を無理矢理引き剥がした愚か者には分からないよねぇ。きっちりと制裁を加えないといけないよねぇ」 にこりと妖艶に微笑む蛇族の妃……ゼフラに、男は蛇に睨まれたように硬直する。だが本当に男を恐怖に陥れるのは……獣人が畏怖する雄性を持つ、竜の方であった。

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