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第16話 ギョクとゼフラ②

【Side:ギョク】 「男だけの、世界ねぇ」 しかもそんな世界の、王族に生まれてしまった。さらにはこの世界には異世界から召喚者がくる。地球か、竜宮からの召喚者だ。地球は知っているが、竜宮は全く知らない世界だった。 しかも俺はその竜宮からの召喚者である竜人の母の血を引いている。 本来はあり得ないとされる、竜人の血を引き継いだ雄……つまりは攻めの竜として。 受けでさえ竜人の血は受け継がず、獣人との子を成せば獣人として生まれてくると言うのに。 さらには召喚されてくる召喚者は全て受けである。男が妊娠しないはずの地球から召喚されても、この世界に召喚されれば受けとなり、この世界の攻めとの子を成せるようになる。 「とんでもねぇ……いや何でもありだなこの世界」 そして竜宮からの召喚者によって自分が竜宮では差別対象になる竜人だとも知った。 母を見た瞬間賎民だと宣ったその召喚者は、召喚されたばかりで、しかも守護者の運命の番と言う特別な立場にいたからと打ち首にはならずに済んだ。 だが母である王妃をなじるのをやめず、俺が母の鱗を受け継ぐと分かると、俺も攻撃対象に加えたのだ。 ――――――自分が守護者の運命の番であり、決して処刑されないのを良いことに。 だが、さすがにどれだけ教育しても、反省の機会を与えても効果のない守護者の番に、王である父上も重い腰を上げた。 守護者の運命の番は永年蟄居。守護者は辺境に飛ばされ、番も共に辺境に与えられた屋敷で生涯を過ごすことになった。 守護者がその任を解かれない限り、永遠に。解かれたとしても、片田舎にて幽閉されて過ごすことになるのは、変わらない。そして守護者の任が解かれれば番はもう守護者の運命の番と言う立場に守られることはなくなる。 守護者は式典に足を運ばなければならないからともかく、あの運命の番が俺たち母子の前に姿を現すことは決してない。 ――――――異世界ファンタジーって言ったって、夢や希望に満ちている訳じゃない。 王族は国のため、世界のために守護者を喪えず、その運命の番がどのような存在でも、罰を加えることはできない。できることと言えば、生涯幽閉とし、王族の前に出さないことだけだ。 しかも伝説上だとされていた、雄性の竜人が再びこの世界に、この国に生まれたとなれば周囲の期待もハンパない。 万が一竜の角、翼、尾を出し威嚇でもすれば、本能的に獣人たちは脅え、声も発せず何もできなくなる。 過去に俺は何度も……母を侮辱した例の運命の番相手に怒り、その際に雄竜の特徴を現し、威嚇して周囲を震えさせている。 今はどうにかしてコントロールできるようになったが、子どもの頃は感情のコントロールが課題だった。 周囲は雄性の竜人の俺に脅え、畏れ、その恐怖を思い出し意味もなく許しを乞う者まで出てくる始末。 この国を出たい……そう思っても、ここには母がいる。また父上の運命の番である母を、父上から離すことはできない。 父上は決してこの国を捨てられない。そしてそれは……俺もだ。 それが王族として生まれたと俺の宿命だ。そしてこの世界のどこにも、俺の理解者などいない。 竜神と同じ雄性で、王族の血もである強力な魔眼の力をも持つ俺を畏れぬ獣人はいない。自由に生きるには、俺が俺として生きるには、誰もいない場所でただひとり……孤独に過ごすことしかできない。 神から運命の番を、自分を愛し、一番の理解者となる伴侶を与えられる守護者がひどく羨ましかった。 「ギョク、陛下がお呼びだ」 「あぁ、わかった。ロウ」 俺の側近のロウも守護者だ。そして守護者の力を持つがゆえ、俺の竜の血と、王家の血の力 に幾分か耐性がある。 友人と呼べる友人は幼馴染みのロウだけだ。だがロウもいずれ唯一無二の運命の番を与えられる。ロウにとっての一番も俺ではなくなる。そしてロウもまた、俺が全力で竜性を解放すれば耐性があったとしても、――――――耐えられない。 そしていくら強力な力を以てしても、非情な真実を知ってもどうにもできない。 全てを破壊することも、殺すことも簡単にできる。 だがそれをすれば国は終わりだ。王族も、守護者も。守護者を喪えば、国は荒れ、滅びる。自らそうすることもできる。 そしてその時は、俺はほんとうにひとりだ。世界を滅ぼす元凶を作った俺を、この世界の神がどうするかは知らない。――――――――でも、この世界を壊したくはないと思う。 俺にも父上の獣人の血が流れている。出会える確率は低い。 けれど獣人の本能が運命の番に憧れを抱かせる。この世界のどこかにいる唯一に、会いたいと、この血が求めてしまうのだ。 だから時に非情な命が下っても、それを呑み、世界を、国を守り背負わなくてはならない。 「ギョク。妃にハルを迎えなさい」 「……ハル、を?」 俺の従弟、父上の今は亡き弟の忘れ形見。白虎族の父上の子である俺が、また白虎族の妃を迎えれば、国内の勢力バランスが崩れる。 ――――――だが。 「すまない。ハルを助けてやるには、これしかない」 昔から身体が丈夫ではなかった従弟は、それでも高位貴族の令息として、恥ずかしくないようにマナーも、勉強も頑張ってきた。 竜の特徴を隠している時なら恐くないと、兄さまの側にいるからと言ってくれた。 臆病で恐がりのくせに優しい弟のような存在だった。 なのに、父上の弟である叔母が他界したことをいいことに、こんな非道な仕打ちをハルに課したのは……ひとりしかいないだろう。 「ハルを本当の意味で救ってやれるのは、お前だけだ。代わりの戸籍は、用意してやれる」 父上も、最初からそのつもりだった。けれどもハルは俺と結婚するしかない。 すぐ側に運命の番がいるのに、ハルは愛し合うこともできずに過ごすことになる。だが、運命の番を喪えば今度はハルもまた、悲嘆に暮れ跡を追うかもしれない。 「お前はハルが、好きか?」 「……えぇ」 弟として、だが。 「なら、救ってやってくれ」 「……分かりました」 俺は父上の命を受け入れた。叔父は息子が王太子妃になることに有頂天になるかもしれないが、同時にハルを、運命の番と共に王家が守る権利を同時に持つ。 守護者の家は簡単には裁けない。国のために、世界のために絶やす訳にはいかないから。 だがたとえ守護者の家だとしても、叔父だとしても、ハルの実の父であっても、ハルが王族となれば守ってやれる。ハルに非道な仕打ちをした、叔父の手から。

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