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第21話 からねからの手紙①

【Side:たとい】 「え、かさねからの手紙、ですか?」 「そうなの」 その日俺は、ハクトくんと共にセレナさんとランさんに呼ばれていた。 「最初は地球の言語に詳しい研究者が受け取って、安全な内容かどうかを確かめたらしいのだけど、最後の彼の署名しか、分からなくてね」 「そ、そうだったんですか?」 彼は、字が汚かったのだろうか。 しかし、セレナさん宛ての手紙だぞ?竜宮とは文字が違うから、普通はこちらの文字を使うと思うのだが――地球の文字の研究者に見せたと言うのだから、多分地球の文字で書いたのだろう。彼はこの世界の文字が書けなかったのだろうか。 まぁ、勉強態度は芳しくなかったと言うし。俺はと言えばこの世界の文字はだいたい書けるようになっているし、読むのは成人向けの小説や王太子妃の執務に必要な書類は読むことができるようになった。たまに知らない言葉があっても、シュイやアオイくんが教えてくれるし。 あと、最近は竜宮の文字も勉強している。 竜宮の文字は複雑で、昔は同じ国でも身分によって使う文字が違ったと言う。 今はセレナさんに教えてもらって、竜人の国の共通文字に近い本を参考に勉強している。 「それで、地球の研究者が匙を投げちゃって。竜宮の研究者に見せたら竜宮の文字に似たような文字があるけれど、読めなかったと言うか、読み方が分からなかったの」 それは、漢字の読み仮名が分からない、みたいな感覚だろうか。 「だから地球にも同じようなものがないかと思って」 まぁ、かさねが書くとしたら日本語だよなぁ?英語はしょっちゅう分からないと宿題を周囲に見せてもらっていた。テストも赤点常習者。それはそれで、周囲の庇護欲を掻き立てたのか、みなかさねを慰めていた。 ――あれが全部、勉強の成績まで演技じゃなければの話だが、ここでの勉強の成績の良くないかさねのことを聞けば、成績まで演技だったとは考えにくい。 しかし、セレナさんが見せてくれたかさねからの手紙は、想像を超えていた。 「え、何これ」 これは俺の感想。 「絵か?」 ハクトくんもそう言って首を傾げる。 それはそうだろう。 セレナさんが見せてくれた便箋に描いてあったのは、一匹の黒い竜。その下に、日本語でかさねの署名がある。 それにしても、これは一体何を伝えたいんだ?黒い東洋風の竜は、鱗まで一枚一枚しっかりと描いてあり、模様のようなものまで描かれている。 「地球にはこう言う文字はない?」 セレナさんが問うてくる。 いや、文字ってか完全に絵だよね、これ。 「少なくとも、俺たちが馴染み深い言語ではないです」 日本語でも、英語でもない。でもこれを文字って―― 「竜宮にはこう言う文字があるんですか?」 えぇと、象形文字のような。これは竜だけども。 「そうね、昔はこう言う文字があったらしいの。それも歴史の教科書でちらっと習った程度だったけれどね」 マジかっ!ヒエログリフみたいに、絵のような文字でも読み方やその意味まではパッと見で分からないようなものだろうか。いや、じっくり見ても分からないだろうけど。 「これはね、ひとつの絵が文章になっていて、一定の順番で、文字を読み解くの」 ――と、思ったら一文字でもなかった!?単純に黒い竜でもなかった!? 「この鱗の中の模様、装飾のようにも見えるけど、これが文字なの。昔、身分の低い賎民と呼ばれた竜人は、文字を使うことが許されなかったから、こうして絵にして、その中に文字を込めたの。文字は許されなかったけど、絵は――その竜人たちのくらす領地を治める竜や、竜人の国の国主・竜王の絵は、服従、敬愛の意を表すと許されたから。黒で描いたのなら、これは黒竜の地の竜人の描いた文字――となるけれど、単純に黒のインクで描いたと言うだけかもしれない。はっきりはしないかな」 そう言う背景があったんだ。竜宮は昔身分によって文字が違ったと聞いていたけれど、位の低い竜人たちは、文字を覚えたと悟られないように絵にして文字を伝えた。 そして、竜王か。昔、絶対王政だった竜人の国を治めていた君主の呼び名だ。 今は共和国で議会制らしいが、当時の竜王の血筋は革命時に処刑されて今はもう残っていないと言う。 ただ、地方領主だった色の名を持つ竜人たちは、名に使う文字を一部変えて、今も議員もしくはその中なら選出された共和国の代表として残っているらしい。 これはセレナさんから教えてもらった竜宮の知識。因みにセレナさんの実家も昔は地方領主の竜人で、現在は九夕院だが昔は紅夕院と言ったそうだ。 「ランさんも、やっぱりこれは――」 ランさんはセレナさんとは違う国……今も王政だが、かつての竜宮のような目に見えた身分差別はない人狼の国の出身である。 「うん、ぼくの国の文字とも違うからね」 ――――――となると、他に手だては……? 「あの、他の竜宮からの召喚者は……?」 「竜宮からの召喚者は、地球に比べて少ないんだ。今は王太后さまと先代白虎の守護者の番さまくらいだよ。人狼はぼくが史上初だったし、来ても竜人だった」 そう、ランさんが教えてくれる。 「そうよね。それに、先代白虎の番さまは昔高位の竜人だったそうだし、残るは……」 王太后さま? 「あら、みんなで集まって何してるの?」 その時、首にぎゅむっと抱きついた腕に、思わず顔を見上げる。 「お母さま!?」 見上げれば、王妃のお母さまがにこにこと微笑んでいた。

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