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第26話 ロウとラン

【Side:ラン】 「……ここは、どこだ?」 まるで祈祷者どもが集まるテンプルのようだった。元来、祈祷者どもとは分かりあえない。 竜神への畏怖から祈りを捧げ、敬虔に生きる竜人らに対し、人狼は力と人情に身を任せて生きる。 祈ってばかりな彼らとは相容れない。 それでも昔よりは関係は悪くない。 人狼の国は共和国で、十の氏族が代表を選び、その中から更に国の代表を選ぶ。 王と言うものを頂に偉そうだった竜人どもは、革命が起き、人狼と同じような共和国を興した。 最近の竜人どもは謙虚だ。以前の傲慢さを抑え、人狼の国の共和国制度を広く学ぼうとしている。 しかし竜神への祈りに関することだけは、相容れなかった。 そんな竜人どもが祈りを捧げる場所に、ここはなんだか似ていた。 ――――――まさか、誘拐!?何の為に? いや、元は実家は十の氏族のひとつ。跡継ぎではないにしろ、それなりに自分は価値がある。 自分の身が、氏族の長である父や、何十人といる母、50人近くいる兄弟。果ては氏子の衆。そしてここが竜人の国ならば、人狼の国のみなにまで迷惑をかける! 目の前にいるのが竜人ではないことだけが謎だ。見たことのない耳と尻尾をしている。だが、人狼ではない。匂いでそれがわかる。人狼とは五感に優れた種族だから。 「てめぇらの好きにさせてやるものか!この俺を利用するつもりなら、自らこの腹斬り開いてくれよう!その野望は費えると知れ!」 俺は脇に常に挿していた脇差しを抜き去り、そして両手で柄を握ると、腹に一気に…… 「何をしている!!」 いきなり拳にブォンと衝撃が走り、カランカランと脇差しがの刃が床に転がった。折れてる。そして切迫してこわばっていた両手の力が抜け、カランと柄も床に落ちた。そして俺を包み込んだのはーー 「わ、わっふわふっ」 満月でもないのに狼耳に尻尾を携えた青年だった。 ※※※ 狼耳しっぽのわっふわふの青年はロウと名乗った。しかもわっふわふで、俺のことが運命の番らしい。 ロウは無口だけれど優しいし、側にいるとしっぽが嬉しそうにふぁさっとなる。ぶんぶんと振らないのは、ロウの性格ゆえだろうか。控えめながらもしっぽに感情が現れているのが、かわいい。 それにこの世界は獣人が生活している世界のようで、常にケモ耳しっぽと言うことも珍しくはない。 他にも竜宮の鳳凰の国で暮らす鳥人のような獣人、蛇獣人なんかもいると言う。 「最初見た時は、地球と言う世界から来たのだと思った。あそこは、ケモ耳しっぽのない人間が暮らしていると言う。竜宮は竜人だと聞いている」 「へぇ、こっちの世界に召喚されてたのが竜人ばかりだったってことなのかな。竜宮には他にも人狼や鳥人がいるよ」 「初耳だな」 「まぁ、交流が生まれたのは最近のことだし」 今まで来た竜人は、その前の時代から来たのだろうか。 竜人の国が共和国となるまで、竜神を祀り、その子孫だと豪語していた竜王は竜ではない人狼と鳥人をバカにしていた。 だから当然、俺たちとは仲が悪かった。 一方で人狼と鳥人は互いに手を取り合ってきた。国民性は違ったが、竜王と言う共通のいけすかないやつがいたので一致団結していたし、竜人の国と和解した今も今まで以上に仲がいい。 背中の翼の出し入れが自由自在な鳥人に対し、人狼は常にケモ耳しっぽの珍しいタイプと満月の日やその前後にケモ耳しっぽになるタイプがいる。俺はだいたい満月にケモ耳しっぽが出る。時にはその前後もケモ耳しっぽの時がある程度だ。 今見せてもらっているこちらの世界で伝わっている書物は竜人のものだ。今の文字とも違うようだし、言葉も違う。 今は交流があるから竜人の言葉をしゃべれる人狼もいるけれど、俺はそんなに得意じゃないんだよなぁ。 鳥人とも言葉は違うが、古くから互いに交流をしてきたから、俺も少しは理解できるし、習った。 更に驚いたのはーー 「この世界の、いやこの国の陛下は竜人の血を受け継いだんだね」 本来、この世界で子を為せばこの世界の獣人の血が濃く出る。 人間でも竜人でも子は獣人として生まれてくる。あれ、じゃぁ召喚者同士では?と、思ったのだが、こちらの世界に召喚されると、召喚者はすべからく受けになるため、召喚者同士に子ができることはないと言う。 だからロウと俺の場合はーー 本来ならば、わっふわふっ子が生まれるのだ。わ、わふわふ。ついついロウを見つめてしまい、そっと視線を逸らす。 「そうだな。過去にあったことは話したと思うが」 あぁ、過去に現れた竜人が、王太后さまと陛下の鱗を見て賎民だとバカにしたのだと。 「問題ないよ。その考え方って、昔の一部の竜人たちの考え方。今の竜人の国は平等になっているから。それに、人狼としてそれよりも気になるのは……」 「気になるのは?」 「魔物が現れた時、まずはテンプルで祈りを捧げるタイプか、自ら殴りに行くタイプか。いや、どちらかがいけないってわけじゃないんだ。ただ、氏族のためならその拳をも振るうのが人狼なだけで」 「――――――よく分からんが、あの人は自らぶん殴りに行こうとして周りに止められるタイプだ」 「お、オヤジっ!自ら乗り込もうとして、組員に総出で止められる!丹家のオヤジのような存在っ」 「いや、ますますよく分からん」 「俺、この世界で上手くやれる気がするー」 「まぁ、それならいいが」 その後、陛下と王妃殿下に謁見した。王妃さまは蛇族だったが、陛下は普段は人間と同じような姿で竜人の姿はしていないそうだ。 どうにもこの世界の獣人と言うのは、竜人の、それも攻めタイプだと萎縮してしまうのだとか。 なお、召喚されてくる竜人は受けなのでその対象外なのだそうだ。 こうして国王陛下夫夫との謁見を終え、こちらの世界で暮らし始めた俺は、ロウの伴侶として暮らしている。 ロウとの間にわっふわふなかわいい子どもたちをさずかったり、他の守護者の番や王太子殿下の番のコたちと出会うのは、もう少し先のお話。

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