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第9話
義兄は仕事部屋に籠もったきり出てこない。折角、持ってきたゲームを義兄とやろうと思っていたのに一人でやるのも飽きて小説を読み耽っていた。
「こんな時間……」
古い壁掛け時計を見て呼んでいた小説を閉じた。キッチンに向かい冷蔵庫や常備食が入っている扉を開けた。
「そうめんでも作るか」
大葉と茗荷を千切りにし、しょうがをすりおろす。そうめんを茹でて氷水の張ったガラスの器に盛った。後、冷蔵庫にあったもので副菜を作り居間のテーブルまで運んだ。
「義兄さん、寝てたんじゃなかったんだ」
「仕事してたらなんかいい匂いがしたからさ」
「義兄さんの方が料理上手いだろ」
「そんな拗ねるなって」
「拗ねてないよ。子供じゃないんだから」
義兄は俺の頭を遠慮なしに撫でた。その手を払って、義兄を睨むとテーブルの前に座った。
「子供じゃなかったら飲めるだろ?」
俺に缶ビールを差し出した。受け取って蓋を開け、義兄が缶ビールを合わせた。こつんと鈍い音がする。俺は一気に煽って眉を寄せた。
「……苦い」
「そんな急いで飲んだら酔うぞ」
「義兄さんだってそんな強くないじゃん」
「これくらい飲めるよ」
「……俺だって」
「食っていいか?」
「どうぞ……」
義兄はささみと胡瓜の梅肉和えを箸で摘んで食べた。
「旨いよ」
「そう」
俺はガラスの器にめんつゆと薬味をぶっこんでそうめんを啜った。いつもの義兄に戻っていたけど、去年もあんな風に一人泣いていたのかと思うと居た堪れない気持ちになる。
美味しそうに食べる義兄に自然と顔が綻ぶ。
「やっと笑ったな」
「うっうるさいな」
俺はまた缶ビールを啜った。
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