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第5話※
長い指が、すでに三本も俺の体内に入り、そこを蹂躙していた。そしてそれは、的確にナカの性感帯を刺激してくる。
後ろを触られるのがこんなに恥ずかしく、気持ちいいとは。
最初は抵抗しようと試みたものの、惚れた弱みで強く出られなかった。未知の快楽に呑まれた俺は、自らの両膝に爪を立てながら大きく足を開いて持ち上げている。
「ゆる、してくれ……! ぁ、く……ぅ」
「許す……? もうイきたいってことか?」
何度も首を縦に振る。
俺の中心は腹につくほどにそそり立っている。先走りもとめどなく流れ出ている。
しかし、初めてでは後ろだけで行くのは難しい。何度か触ろうと試みるのだが、「まだ」とやんわりと手を膝に戻されるのだ。
いつも主導権を握っていた俺は、我慢の限界だった。頭がおかしくなりそうだ。
「もう少しだから、頑張ってな」
「ひ……っ!」
解す指をバラバラに動かしながら、反対側の人差し指が濡れた俺の先端を円を描くように刺激する。反射的に腰を上げて更なる快楽を求めるが、ただひたすらに優しい刺激しか貰えない。
(まさか俺が焦らしプレイされるなんて……!)
自分の喘ぎ声など聞きたくはない。奥歯を強く噛み締めて耐える。
分かるのだ。
焦らせば焦らすほど、組み敷く相手の表情も息遣いも身体も美味しくなっていくことが。自分もよく、そうして相手の反応を楽しみながらするのだから。
そして焦らされれば焦らされるほど、後にクる満足度は高いことも。
分かっているからこそ、怖い。
どうしたらこの責めから解放されるのか、どうしたらイかせる気になるか必死で考える。
「た、頼む、から……! もう、我慢……っぁ、一回イかせ……ぇくれ!」
口を開くと嬌声が上がりそうになるのを耐えながら、甘ったるい声を出して懇願する。
羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。
(俺なら、多分、一回イっとくかってして……それから)
「かわいい。じゃあ、そろそろ入れるな」
「ぁっ」
残酷な宣言と共に指を引き抜かれ、額に口付けされた。
(い、今すぐ、もう、イきたい……っのに!)
しかしこれ以上は無理だった。
普段、「可愛くおねだりしてみろ」とか言っている自分を殴りたい。いやでもあれはお互い楽しんでるから。俺はさせられるのは楽しくない、と自分に言い聞かせる。
もう何も出来ず、ただ口を固く閉ざして浅い呼吸を繰り返すしかなかった。
もういい、身を委ねるよう、と思った。が。
後ろに充てがわれる猛ったものを改めて見て、思わず足を閉じた。
「は、入る気が、しない……!」
「小金澤さんとそんなに大きさ変わらないし、大丈夫だよ。心配しないで?」
血の気が引いて、腰も引かせようとする俺の両太腿は無情にも捕まり、再び開かれた。
(そりゃ、知ってる。意外と入るのは知っているが……っ!)
とても丁寧に解してくれていた。あれだけ解せばだいたいは大丈夫だろう。
俺も相手をしてくれる奴に「大丈夫」「入るよ」と言っている。今まで、入らなかったことはない。
そして、全員に気持ち良いと言わせてきた。間違いなくイっているから、本当に良いはずだ。
正直、それも怖い。
指だけでここまで追い詰められたのだ。
入れられたら、理性を飛ばしてしまうのではないかと思うと怖い。
しかし、ここで逃げるのでは男が廃る。そもそも自分が仕掛けて、逆の立場になる予定までしていたのだから。
硬く熱いものが入り口に当たるのを感じながら意を決して目を閉じた。
「……怖い?」
「え?」
「ごめん、気持ち良さそうだったから調子に乗ったけど……こっちは初めてみたいだから」
目を開けると、眉を下げて本当に申し訳なさそうな表情がこちらを見ていた。
先程までの、口だけは穏やかな獣はどこに行ったのか。今にも口が「もうやめておくか」と動きそうだった。
俺は腹筋を使って起き上がる。相手の膝に乗り上げ、噛み付くように口付けた。
驚いて引っ込む舌を絡め取りながら、勃っているものにゆっくりと腰を落としていく。
確かにびびっていた。
だが、こっちは本当に限界なのだ。
指とは違う、形と大きさ。
いつも自分が口に出すように、「出来るだけ力を抜いて、息を吐いて」やってみる。
想像していたよりも苦しくて、肩に置いた手に力が入る。それでも意地で笑ってみせた。
「そこは……っくぅ……、『初めは誰でも怖いけど、痛い思いはさせない。俺に任せろ』って、いうとこなんだ、よ……っ坊や!」
「……っ、ん……い、言い慣れてる……!」
笑い返してきながら息を詰める様子に満足感を得た。こちらに主導権が来そうだから上手く動いて鳴かせてやる。
と、意気込んだ時。
「……っ! っ、ひぁあ!!」
突如、腰を掴まれて突き上げられる。
全てが体内に収まる感覚と奥を貫かれるような衝撃に、出したことのない高い声が出た。
目を見開いて肩に爪を食い込ませてしまう。
しかし、傷になるとか申し訳ないと思う余裕はない。
息が苦しい。
「あっ、ま、……! やめ、動くな……ぁ、!」
喘ぎ声を抑えこみ、なんとか口を動かして訴える。しかし、軽く頬に口付けて微笑まれるだけだった。
赤い目元や荒い息遣いが、春日にも余裕が無いことを伝えてくる。
「早く、イきたいって……ん、っ……言ってた、だろ?」
「だからって急すぎ、……、ぁん、……っ!!」
腰を使って奥を擦られ、背中が弓なりにのけぞる。はしたなくも、開いた口の端から唾液が溢れてくる。
喉仏に甘く噛みつかれた。
「小金澤さん、かわいい……っごめん、止まらない」
「やめろ、…とめ、とめろ、ぉ…! なんだ、これ、なん…っ、あっアッ」
腰を小刻みに上下に動かし、同じ場所を何度も突く。開けた口を塞ぐ方法が分からなくなる。ただ声を上げながら首に腕を巻き付け、強く抱きつく。
「あ、く……っこんなの……! ……っ……理性、飛びそ」
「まだ、理性が……っ、残ってたのか……?」
快感の波が次々と襲ってきて頭が混乱していた。
もっと欲しいとやめて欲しいが交錯する。
そんな時に自身を握り込まれてしまえば、自制など効かず腰を振るしかなかった。
快楽が強すぎて涙を零す経験も、初めてだ。
「イク、あぁっ……! い、気持ち、……! っ……!」
このまま、心のままに声を上げると更にイイんだろう。
そう思いながらも唇を噛み締める。
それとほぼ同時に奥を突かれて、俺は果てた。
意思とは関係なく、内壁が中のモノを締め上げる。
「……んっ、く……!」
艶のある呼吸を詰まらせながら、中には熱が吐き出されだ。
「……っ、は……」
強張っていた身体から力が抜ける。腹部の熱に不思議な幸福感に包まれながらも、後処理が大変かもな、などとぼんやり考える冷静な自分もいた。
肩に頭を乗せて呼吸を整えている俺の耳元に吐息が近づいた。
「……、上手にイけたな?」
常よりも色を含んだその声に、ゾクッと腰が震える。
「はは……誰にモノを言って……」
なんとか顔を上げて余裕の笑みを取り繕ったのだが、
「こっちも、気持ちよかっただろ?」
「アッ……まだ、動くな……! ……んぁあっ」
腰を揺らすと共に尻を開くように揉みしだかれる。イったばかりの身体は敏感に跳ねた。中では再び、春日のものが硬度を増しているのを感じて口元が引き攣る。
「元気だな?」
「小金澤さんの中が良すぎて」
困ったような笑顔と声が可愛すぎた。
本当にくっそかわいい。
俺は汗の滲む茶髪を指先で撫でた。
「もう遅いから、あと一回だぞ」
嬉しそうな表情と共に唇が重なる。中に入ったまま、体勢が変わって背中がシーツに触れた。
そしてこの後。
俺は初めて、情事の最中に意識を手放した。
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