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第10話

 店の筋から少し離れると、人工の光が少なくなる。  本当に一緒に店を出てくれた清水は敢えて楽しげに声を出してきた。 「また、良い男を連れてきてくれたもんだな?」 「あぁ……お前は好みそうだったな」 「おう、お前が準備中に連絡先聞いといた」  ポケットにしまっていたスマートフォンをわざわざ出して振ってくる。  そこまで行動しているのなら、いっそ春日の隣から連れて行ってくれたら良かったのに。  などと、そんな他力本願な気持ちに侵される自分が嫌になって曖昧に返事をした。 「……なぁ。久々に飲みに行って、適当な相手探すか?」  断られた話を聞いていた時は面白そうに笑っていたくせに、今は肩に腕を回して軽い調子で誘ってくれる。  この悪友はきっと、ただ飲みたいと言えば一晩中でも付き合ってくれるだろう。もし誰か捕まえてダブルデート、もしくは3Pでもしようと言えばそうしてくれただろう。  そういう奴で、そういう仲だ。  しかし、全くそんな気持ちになれなかった。 「なんか、今は勃ちそうにねぇ」 「セフレに医者が一人いるから今日空いてるか聞いてやろうか」  深刻な声のトーンが耳元で聴こえて思わず吹き出した。    清水の言う通り、いつもであれば、ダメだったなら次に行こうとすぐに切り替えられたというのに。  何がいつもと違うのだろう。    そのまま職場からさほど離れていない自宅まで送ってもらうだけ送ってもらう。  清水が帰った後は一晩、ベッドの上で考えこんだ。    俺は一体全体、どうしたのだろう。  何故、隣に他の男が居ただけで後輩に気を遣わせるほどに動揺したのだろう。二人組の全てがカップルなわけではないというのに。  俺が迫った時の春日の様子からすると、セフレではないだろう。ポジティブに考えるならば、ただの友人を連れてきただけということも十分あり得た。  下心が透けて見えていたであろう清水と連絡先を交換していたということは、その可能性がとても高い。  冷静になればどうということもないことで、こんなにも感情が揺さぶられる理由。  答えは至極簡単だ。   (好きになっていたんだな、本気で)    一年間店に通って、一度抱かれて、この一ヶ月で仲良くなって。  最初から邪な好意は抱いていたが、ファンにも近い感覚だった。  それなのに触れることが出来たせいで、自分で想像していた以上にハマってしまっていたようだ。  顔を思い出すだけで胸が熱くなる。  声を思い出すと鼓動が早まる。  仕草の一つ一つが愛おしく感じていた。    それなのに、今日は店でどんな表情をしていたかを全く思い出すことが出来ない。惜しいことをした。    改めて、恋人になってほしいと言ったらどんな反応をするだろう。  セフレやワンナイトで遊ぶようなやつは嫌だとフラれるだろうか。  それならそれで、キッパリ諦められそうだ。   「当たって砕けるかー」  寝られないままぼんやりと呟いたときには、もうすでにカーテンの合間から朝日の光が柔らかく入ってきていた。  

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